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──おかしい。目先で交わされる、和気あいあいとした光景を見ながら、ナインスターは思った。
学園の会場内には多くの観衆の姿があり、誰もが賞賛の意を表している。
その中心にいるのは三人の女達──。
一人は心底嫌っている憎き婚約者。
一人はこの日の為に籠絡した都合の良い女。
そしてもう一人は訳の分からないカエルの格好をした女だ。
当初の予定ではこんな筈ではなかった。
数年前まで、俺様の実家は領地を営む侯爵家だった。しかしある日、領民への不当な徴税が発覚してしまい、罰として国から領地の返還と家財の没収、爵位の降格処分が下された。平民に堕ちるまでには至らなかったが、家計は火の車となってしまう。
その結果、実家の事業は悉く頓挫し、泣く泣く畳むしか道は無かった。
後に残ったのは多額の借金と不釣り合いな爵位のみ。多くの使用人は無給金に不満を洩らして辞めていき、母は別に男を作って夜逃げした。
まさに絶体絶命の状況下。近隣の住民に救いを仰いだ事もあった。しかし、過去の不当な扱いが気に食わなかったのか、取り付く島もなく追い返された。
平民の分際で生意気だと腹が立った。俺様は誇り高きバージニア家の跡取りだというのに。だが、いくら怒りを胸に抱いても現状は変わらない。とにかく金が必要だったのだ。
そこで父は、高級な家財を売却して元手を作り、表沙汰に出来ない取引に手を染めた。その内容は窃盗から恐喝、人身売買まで様々。いわゆる、闇取引というやつだ。
俺様も父に協力した。持ち前の整った顔立ちを活かしては女共を誑かし、闇取引の商品となってもらった。
そんなある日。父が新しく金の話を持ってきた。
内容はなんと、スコルピア王国三大貴族の一柱、マベルス公爵家の長女との縁談だった。マベルス公爵家は王家とも深い関わりを持っており、長女のロザンナは幾つか事業も受け持っているという天才だ。
マベルス公爵家の長女を嫁に迎えれば、我が家の借金は全て返済出来るどころか、今後再び贅沢をする事だって夢ではない。心が踊った。
だが現実は非情なもので、この婚姻の条件は俺様が婿入りするというものだった。
バージニア家の息子は俺様しかいない。これは事実上、バージニア家の栄光が途絶える事を意味していた。
──この俺様が、星屑の貴公子の俺様が。婿養子として女の尻に敷かれるというのか?
程なくして、俺様とロザンナの婚約は結ばれた。それに伴い、向こうから多額の援助資金が送られてきた。どうやら、将来婿入りする俺様への先行投資らしい。
向こうの親はかなり不満な様子だったが、それはこちらも同じ事だ。父はその資金を使って、更に裏取引に手を染めるようになった。
このまま順当に行けば、借金を全て返済することも夢ではないだろう。
しかし、その時に俺様を待っているのは公爵家の婿として尻に敷かれる人生。
冗談ではない。
ならばと俺様は閃いた。持ち前の整った顔立ちを使ってロザンナを籠絡してしまえばいいのだと──。
今までの女は少し笑いかけただけで頬を紅く染め、簡単に俺様の虜になってきた。きっとロザンナも俺様に魅了されるに違いない。
そうなれば、逆にロザンナを手元から操って、公爵家の収益を我が物に出来る!
再び、星屑の貴公子に光が灯ったのだ。
しかし、ロザンナは全くと言っていいほど靡かなかった。
洗練された口説き文句や壁ドン。大抵の女を一瞬で虜にしてきた星屑ポップダンス──通称Hポップダンスを披露しても、あの女はまるで興味を示さなかった。それどころか、道端に落ちているゴミでも見るかのような視線を投げかけてくるばかりだ。
俺様の誰よりも繊細で、美しい心が崩れた瞬間だった。
俺様はストレス発散に、受け取った先行投資を使って、特注の星の飾りをオーダーメイドした。
そうして二年の歳月が立ち、俺様はビクトル学園という名門校に入学した。
学園の勉学は非情にレベルが高かったが、そこは磨き抜いたカンニング技術で容易に突破出来た。これでロザンナも俺様の事を少しは見直すだろう。そう思っていたが、あの女の心は掴めないままだった。
「私、知ってましてよ。あなた入学試験でカンニングしましたでしょう。貴族の風上にも置けない外道っぷりですこと。星屑の貴公子ではなく、ゴミクズの貴公子に改名してはいかがかしら?」
あの時言われた言葉が忘れられない。人を馬鹿にしやがって...!おかげで俺様の純粋な心はズタボロだ。この借りはいつか必ず返してやる!
そうした秘めたる野心を抱えながら、あの女の尻に敷かれること半年あまり。俺様の前に一人の女が現れる。
それがピアニャンこと、ピアニシモス・モルボーロン男爵令嬢だった。
彼女は入学して早々、学園で見かけた俺様に一目惚れをしていたらしく、猫撫で声を上げながら擦り寄ってきた。
久しぶりに星屑の貴公子の血が騒いだ。
ピアニャンはロザンナと違って愛想が良く、自分の立場も弁えていた。体は些か貧相だが、俺様の隣に立つに相応しい容姿も持っている。何よりあの女と違い、体を触っても殴りかかって来ない点が高く評価出来た。彼女こそが俺様の妻に相応しいのだ。
そして聞けば、彼女もロザンナのことを良く思っていないらしく、日頃から陰湿な嫌がらせを受けていたらしい。
あれだけ偉そうな事を言っておきながら、あの女は陰で悪事を働くゲスな女だったのだ!
──許せない。この俺様の中に確固たる使命感が湧き上がった。
この星屑の貴公子こと、ナインスター・バージニアが正義の鉄槌を下してやる!
そうして、愛するピアニャンとロザンナを陥れる計画を立てた。
目的はロザンナに冤罪を着せて、慰謝料をふんだんに搾り取ること──。
事前に下準備は整えてあり、協力者であるピアニャンに嘘の事実を捏造させて、当日前には俺様公認のファンクラブの会員に協力を仰いだ。実際に騒動での人集りの大半以上は、俺様に惚れている女生徒共で構成されていた。
準備は完璧。後はあの女に正義の鉄槌下すだけだった。
しかし、ここで誤算が生じた。
予め手を回していたにも関わらず、証人として訳の分からないカエル女が出てきたのだ。そして驚くことに、そのカエル女はあの魔王伯爵の娘だという。
冷や汗が止まらなかった。
魔王伯爵といえば、あの潤沢な宝石鉱山を所有するスズメコウノトリ区の領主であると同時に、その腕っぷしで数々の犯罪組織を締め上げてきた実績を持つ肉体派の領主だ。今やどんな自治団体よりも、彼個人の力の方が上回っているだろう。
俺様の父も彼の事はかなり警戒しており、社交界で見かけたら3秒足らずで逃げる、「3秒ルール」を設けているらしい。万が一にも闇取引の事が彼にバレれば一巻の終りだ。
そんな魔王の娘であると知った途端、目の前のカエル女が恐ろしい存在へ様変わりした。背後に黒いオーラまで見えてくる始末だ。一見フザケた格好をしているが、きっとこの格好にも意味があるに違いない...そう思えて仕方がなかった。
案の定、俺様の先見の明は的中し、カエル女は瞬く間に周囲の人心を掌握した。
そして更に誤算だったのは、ピアニャンが冤罪を自白してしまった事だ。
しかも話を聞いていれば、彼女は「伯爵夫人になって札束を掴むぞ☆」計画なるものを立てていたらしい。
──金目当てで俺様に媚を売っていただと...?ふざけるな!金が欲しいのは俺様の方だ!よくもこの星屑の貴公子を騙しやがって...!
この騒動が収まったら、きっちりと誰に楯突いたのかを教えてやる。
そんな時、ピアニシモスが突然ありえない声量で泣きだした。まさかこんなにも煩い女だったとは驚きだが、思わぬ好機が到来したものだ。
俺様はHポップダンスで鍛えた足腰を使い、一目散に会場から脱走を試みた。しかし、またしてもあの憎きロザンナの手によって阻まれてしまった。
だが、まだチャンスは残っている。こうなったら、全ての責任をピアニシモスに押し付けてやる。
そう思った矢先の事だった。あろうことか、ロザンナとピアニシモスが和解しやがったのだ。
しかもどういう訳か、周りの奴らは拍手を送って称えてやがる。
その中には俺様公認のファンクラブ会員の女共の姿もある。
お前ら...会員の証である胸元の星はどこにやったんだよ。何で付けてないんだ?
まさかお前らまで俺様を裏切るというのか。
──嘘だ。こんな事はあってはならない。
俺様は星屑の貴公子。誰もが羨む整った顔立ちを持ち、数多の女性を虜にする男だ。
こんな事はあってはならない。
◆◆◆
「こんな事はあってはならない...あってはならないのだぁぁぁッ!」
逆上したナインスターが起き上がると、拳を振りかぶって駆け出す。
「ロザンナぁぁ!貴様のせいで俺様は...!俺様はぁぁ!」
その矛先は元婚約者であるロザンナへ向けられていた。
「ロザンナ様、危ない!」
咄嗟に近くのピアニシモスが声を上げる。しかし、ロザンナの反応は極めて冷静なものだった。
「...往生際の悪い男ですこと」
彼女は小さく溜息を吐くと、ドレスの袖を僅かにまくり、軽く右腕を後ろへ引く。
そして──向かってくるナインスターの懐に入り込むと、腹部に肘鉄を打ち込み、彼の緩んだ腕を両手で掴み投げた。
「ぐえ!」
大きな音と共に、くぐもった悲鳴が上がる。それは綺麗な放物線を描く背負い投げだった。
「こ、この野蛮な女め...婚約者である俺様に背負い投げをかますとは...」
地面に倒れ伏したナインスターがロザンナを鋭く睨みつけて言う。しかし、あくまでロザンナが淡白な口調で返す。
「元ですわよ。こうなった以上、貴方との婚約は破棄せざる負えませんから。清々しますわ、セブンスター様」
「貴様...!俺様の名前は...ナインスターだ...!どいつもこいつも、この胸元の星々が目に入らぬか...!」
痛みに震える体で胸元を見せつけるナインスター。そんな彼にロザンナが冷静に告げる。
「7つじゃありませんの」
「なに!?」
彼の胸元の星々は7つしかなかった。彼は気が付いていなかったが、ロザンナから受けた徒手空拳のダメージによって星が欠けていたのだ。
ここでナインスターの心は完全に折れる。
「ば、馬鹿な...。これでは本当に......セブンスター......」
気絶するナインスター。その姿は、星屑の貴公子と呼べるほど華やかなものではなかった。
「やっと静かになりましたわね」
何事もなかったかのように、ドレスの汚れを手で払うロザンナ。その凛とした様は正に才色兼備だった。これには周りの生徒も拍手を送らずにはいられない。
「きゃー!ロザンナ様かっこいい!」
「ロザンナ様って本当にお強いのね、素敵だわ...」
「私が男だったら求婚してるのに」
拍手喝采に包まれる会場。今や場内の注目は暴漢を仕留めたロザンナへと集まっていた。
そんな時、遠くから中低音の声が響き渡る。
「これは何の騒ぎかな?」
全員が会場の入口付近へ視線を向けると、そこには金髪を靡かせる端正な顔立ちの青年と、彼の護衛と思わしき二人の騎士が立っていた。
「キース王太子殿下!?」
会場の誰かが驚愕の声を上げた。
つづく
学園の会場内には多くの観衆の姿があり、誰もが賞賛の意を表している。
その中心にいるのは三人の女達──。
一人は心底嫌っている憎き婚約者。
一人はこの日の為に籠絡した都合の良い女。
そしてもう一人は訳の分からないカエルの格好をした女だ。
当初の予定ではこんな筈ではなかった。
数年前まで、俺様の実家は領地を営む侯爵家だった。しかしある日、領民への不当な徴税が発覚してしまい、罰として国から領地の返還と家財の没収、爵位の降格処分が下された。平民に堕ちるまでには至らなかったが、家計は火の車となってしまう。
その結果、実家の事業は悉く頓挫し、泣く泣く畳むしか道は無かった。
後に残ったのは多額の借金と不釣り合いな爵位のみ。多くの使用人は無給金に不満を洩らして辞めていき、母は別に男を作って夜逃げした。
まさに絶体絶命の状況下。近隣の住民に救いを仰いだ事もあった。しかし、過去の不当な扱いが気に食わなかったのか、取り付く島もなく追い返された。
平民の分際で生意気だと腹が立った。俺様は誇り高きバージニア家の跡取りだというのに。だが、いくら怒りを胸に抱いても現状は変わらない。とにかく金が必要だったのだ。
そこで父は、高級な家財を売却して元手を作り、表沙汰に出来ない取引に手を染めた。その内容は窃盗から恐喝、人身売買まで様々。いわゆる、闇取引というやつだ。
俺様も父に協力した。持ち前の整った顔立ちを活かしては女共を誑かし、闇取引の商品となってもらった。
そんなある日。父が新しく金の話を持ってきた。
内容はなんと、スコルピア王国三大貴族の一柱、マベルス公爵家の長女との縁談だった。マベルス公爵家は王家とも深い関わりを持っており、長女のロザンナは幾つか事業も受け持っているという天才だ。
マベルス公爵家の長女を嫁に迎えれば、我が家の借金は全て返済出来るどころか、今後再び贅沢をする事だって夢ではない。心が踊った。
だが現実は非情なもので、この婚姻の条件は俺様が婿入りするというものだった。
バージニア家の息子は俺様しかいない。これは事実上、バージニア家の栄光が途絶える事を意味していた。
──この俺様が、星屑の貴公子の俺様が。婿養子として女の尻に敷かれるというのか?
程なくして、俺様とロザンナの婚約は結ばれた。それに伴い、向こうから多額の援助資金が送られてきた。どうやら、将来婿入りする俺様への先行投資らしい。
向こうの親はかなり不満な様子だったが、それはこちらも同じ事だ。父はその資金を使って、更に裏取引に手を染めるようになった。
このまま順当に行けば、借金を全て返済することも夢ではないだろう。
しかし、その時に俺様を待っているのは公爵家の婿として尻に敷かれる人生。
冗談ではない。
ならばと俺様は閃いた。持ち前の整った顔立ちを使ってロザンナを籠絡してしまえばいいのだと──。
今までの女は少し笑いかけただけで頬を紅く染め、簡単に俺様の虜になってきた。きっとロザンナも俺様に魅了されるに違いない。
そうなれば、逆にロザンナを手元から操って、公爵家の収益を我が物に出来る!
再び、星屑の貴公子に光が灯ったのだ。
しかし、ロザンナは全くと言っていいほど靡かなかった。
洗練された口説き文句や壁ドン。大抵の女を一瞬で虜にしてきた星屑ポップダンス──通称Hポップダンスを披露しても、あの女はまるで興味を示さなかった。それどころか、道端に落ちているゴミでも見るかのような視線を投げかけてくるばかりだ。
俺様の誰よりも繊細で、美しい心が崩れた瞬間だった。
俺様はストレス発散に、受け取った先行投資を使って、特注の星の飾りをオーダーメイドした。
そうして二年の歳月が立ち、俺様はビクトル学園という名門校に入学した。
学園の勉学は非情にレベルが高かったが、そこは磨き抜いたカンニング技術で容易に突破出来た。これでロザンナも俺様の事を少しは見直すだろう。そう思っていたが、あの女の心は掴めないままだった。
「私、知ってましてよ。あなた入学試験でカンニングしましたでしょう。貴族の風上にも置けない外道っぷりですこと。星屑の貴公子ではなく、ゴミクズの貴公子に改名してはいかがかしら?」
あの時言われた言葉が忘れられない。人を馬鹿にしやがって...!おかげで俺様の純粋な心はズタボロだ。この借りはいつか必ず返してやる!
そうした秘めたる野心を抱えながら、あの女の尻に敷かれること半年あまり。俺様の前に一人の女が現れる。
それがピアニャンこと、ピアニシモス・モルボーロン男爵令嬢だった。
彼女は入学して早々、学園で見かけた俺様に一目惚れをしていたらしく、猫撫で声を上げながら擦り寄ってきた。
久しぶりに星屑の貴公子の血が騒いだ。
ピアニャンはロザンナと違って愛想が良く、自分の立場も弁えていた。体は些か貧相だが、俺様の隣に立つに相応しい容姿も持っている。何よりあの女と違い、体を触っても殴りかかって来ない点が高く評価出来た。彼女こそが俺様の妻に相応しいのだ。
そして聞けば、彼女もロザンナのことを良く思っていないらしく、日頃から陰湿な嫌がらせを受けていたらしい。
あれだけ偉そうな事を言っておきながら、あの女は陰で悪事を働くゲスな女だったのだ!
──許せない。この俺様の中に確固たる使命感が湧き上がった。
この星屑の貴公子こと、ナインスター・バージニアが正義の鉄槌を下してやる!
そうして、愛するピアニャンとロザンナを陥れる計画を立てた。
目的はロザンナに冤罪を着せて、慰謝料をふんだんに搾り取ること──。
事前に下準備は整えてあり、協力者であるピアニャンに嘘の事実を捏造させて、当日前には俺様公認のファンクラブの会員に協力を仰いだ。実際に騒動での人集りの大半以上は、俺様に惚れている女生徒共で構成されていた。
準備は完璧。後はあの女に正義の鉄槌下すだけだった。
しかし、ここで誤算が生じた。
予め手を回していたにも関わらず、証人として訳の分からないカエル女が出てきたのだ。そして驚くことに、そのカエル女はあの魔王伯爵の娘だという。
冷や汗が止まらなかった。
魔王伯爵といえば、あの潤沢な宝石鉱山を所有するスズメコウノトリ区の領主であると同時に、その腕っぷしで数々の犯罪組織を締め上げてきた実績を持つ肉体派の領主だ。今やどんな自治団体よりも、彼個人の力の方が上回っているだろう。
俺様の父も彼の事はかなり警戒しており、社交界で見かけたら3秒足らずで逃げる、「3秒ルール」を設けているらしい。万が一にも闇取引の事が彼にバレれば一巻の終りだ。
そんな魔王の娘であると知った途端、目の前のカエル女が恐ろしい存在へ様変わりした。背後に黒いオーラまで見えてくる始末だ。一見フザケた格好をしているが、きっとこの格好にも意味があるに違いない...そう思えて仕方がなかった。
案の定、俺様の先見の明は的中し、カエル女は瞬く間に周囲の人心を掌握した。
そして更に誤算だったのは、ピアニャンが冤罪を自白してしまった事だ。
しかも話を聞いていれば、彼女は「伯爵夫人になって札束を掴むぞ☆」計画なるものを立てていたらしい。
──金目当てで俺様に媚を売っていただと...?ふざけるな!金が欲しいのは俺様の方だ!よくもこの星屑の貴公子を騙しやがって...!
この騒動が収まったら、きっちりと誰に楯突いたのかを教えてやる。
そんな時、ピアニシモスが突然ありえない声量で泣きだした。まさかこんなにも煩い女だったとは驚きだが、思わぬ好機が到来したものだ。
俺様はHポップダンスで鍛えた足腰を使い、一目散に会場から脱走を試みた。しかし、またしてもあの憎きロザンナの手によって阻まれてしまった。
だが、まだチャンスは残っている。こうなったら、全ての責任をピアニシモスに押し付けてやる。
そう思った矢先の事だった。あろうことか、ロザンナとピアニシモスが和解しやがったのだ。
しかもどういう訳か、周りの奴らは拍手を送って称えてやがる。
その中には俺様公認のファンクラブ会員の女共の姿もある。
お前ら...会員の証である胸元の星はどこにやったんだよ。何で付けてないんだ?
まさかお前らまで俺様を裏切るというのか。
──嘘だ。こんな事はあってはならない。
俺様は星屑の貴公子。誰もが羨む整った顔立ちを持ち、数多の女性を虜にする男だ。
こんな事はあってはならない。
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「こんな事はあってはならない...あってはならないのだぁぁぁッ!」
逆上したナインスターが起き上がると、拳を振りかぶって駆け出す。
「ロザンナぁぁ!貴様のせいで俺様は...!俺様はぁぁ!」
その矛先は元婚約者であるロザンナへ向けられていた。
「ロザンナ様、危ない!」
咄嗟に近くのピアニシモスが声を上げる。しかし、ロザンナの反応は極めて冷静なものだった。
「...往生際の悪い男ですこと」
彼女は小さく溜息を吐くと、ドレスの袖を僅かにまくり、軽く右腕を後ろへ引く。
そして──向かってくるナインスターの懐に入り込むと、腹部に肘鉄を打ち込み、彼の緩んだ腕を両手で掴み投げた。
「ぐえ!」
大きな音と共に、くぐもった悲鳴が上がる。それは綺麗な放物線を描く背負い投げだった。
「こ、この野蛮な女め...婚約者である俺様に背負い投げをかますとは...」
地面に倒れ伏したナインスターがロザンナを鋭く睨みつけて言う。しかし、あくまでロザンナが淡白な口調で返す。
「元ですわよ。こうなった以上、貴方との婚約は破棄せざる負えませんから。清々しますわ、セブンスター様」
「貴様...!俺様の名前は...ナインスターだ...!どいつもこいつも、この胸元の星々が目に入らぬか...!」
痛みに震える体で胸元を見せつけるナインスター。そんな彼にロザンナが冷静に告げる。
「7つじゃありませんの」
「なに!?」
彼の胸元の星々は7つしかなかった。彼は気が付いていなかったが、ロザンナから受けた徒手空拳のダメージによって星が欠けていたのだ。
ここでナインスターの心は完全に折れる。
「ば、馬鹿な...。これでは本当に......セブンスター......」
気絶するナインスター。その姿は、星屑の貴公子と呼べるほど華やかなものではなかった。
「やっと静かになりましたわね」
何事もなかったかのように、ドレスの汚れを手で払うロザンナ。その凛とした様は正に才色兼備だった。これには周りの生徒も拍手を送らずにはいられない。
「きゃー!ロザンナ様かっこいい!」
「ロザンナ様って本当にお強いのね、素敵だわ...」
「私が男だったら求婚してるのに」
拍手喝采に包まれる会場。今や場内の注目は暴漢を仕留めたロザンナへと集まっていた。
そんな時、遠くから中低音の声が響き渡る。
「これは何の騒ぎかな?」
全員が会場の入口付近へ視線を向けると、そこには金髪を靡かせる端正な顔立ちの青年と、彼の護衛と思わしき二人の騎士が立っていた。
「キース王太子殿下!?」
会場の誰かが驚愕の声を上げた。
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