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78 いなくなった女生徒

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(はあー、いつになったら、彼女は大人になってくれるのかしら?)

 もううんざりと言った様子で心の中でつぶやいた心菜は、次の瞬間にはくるりと回転して、優奈に話しかける。

「今月末にあの映画が放映されるんだって」
「え!まじ!?お小遣い使い果たしたんだけど!?」
「お馬鹿さんじゃないの?」
「うっぐー、」

 くつくつと話していると、絢は話しかけてこなくなった。幼稚園や小学校の頃のように、自分が1番、自分が話しかければ皆話を聞いてくれるという女王さまではなくなったようだ。心菜はこれで時間をやり過ごせそうだと、ほっと息を吐いた。小学校1年生以来、先生に頼んでずっとクラスを変えてもらっていたのにも関わらず、ずっと喧嘩をふっかけてくる絢と関わるのは、正直に言ってごめんなのだ。

 ーーーガンッ!!

 だが、そんな思いが浅はかで甘かったと、次の瞬間、心菜は思い知ることとなった。なぜなら、心菜は絢に後ろから思いっきり押され、こかされたからだ。

(………この馬鹿、何がしたいわけ?こんだけ人がいる前でこかすとか、『私この子いじめてますー!!』って言っているみたいじゃないの)

 咄嗟に手をついた心菜は、こかされた場所がグラウンドであったことに感謝しながら、日傘を優奈に手渡して立ち上がった。パンパンと砂を払って、擦りむいた膝と手を疲れ切った目で見つめる。

「あっらー、心菜って案外ドジなのね。こんな何もないところでこけるなんてー!!」
「………こんなところでこかせば、誰がこかしたかなんて丸わかりなのに、よくやるわね。みんなあなたがこかすところを見ているんじゃないかしら?」

 チラッと心菜が辺りを見渡せば、周囲はこくこくと頷いた。

(ほら、だからこんな公衆の前でやるから………)

 真っ青に顔を青ざめさせてうるうると目を潤ませた絢に、心菜は面倒くさくなって溜め息をついた。

「誰か先生にご報告をお願いします」
「もう読んでいますよ、先輩」
「ありがとうございます」

 先生に事情を説明して、その後色々なことが起こった。絢の被害にあっていた生徒は存外多く、洗い出すのに相当時間がかかったのだ。心菜は怪我をしたりしてしまった生徒たちが呼び出されるたびに、心菜は『あぁ、またか………』という心情になった。絢はそれから転校していき、心菜の心の安寧は保たれることとなった。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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