冷酷無慈悲なお兄さまに認められたい

桐生桜月姫

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「公爵閣下のご命令。妹を死守せよだってさ。」
「………ジェフ、いいえ、ジェフリー、わたしはあなたが死ぬことを許さないかしら。」

 わたしが怒りを含んだ声音で穏やかに笑うと、彼は一瞬瞠目した後に困ったように笑った。

「主君を失った忠犬にどう生きろと?」
「………わたしは生き足掻けと命じているわ。」
「残酷なお方だ。」
「………そうね。わたしは感情がなくわがままで冷酷無慈悲な異能者よ。忘れないでちょうだい。」

 ジェフリーは悲しそうに笑って、ふわふわとわたしの頭を撫でた。

「………少しだけ、こうさせて。」

 懇願するような声に手つき、わたしは手近に生けてあった鈴蘭の花を弄びながら彼の手に、ただただお兄さまがいらっしゃるまで身を委ねた。

 コンコン、

「レティシア、入るぞ。」

 返事も待たずに問答無用で入ってきたのは当然ながらわたしの兄、アドルファスお兄さま。漆黒の礼服に白いアスコットタイ飾りにはアクアマリンがついている。
 ただし、アドルファスお兄さまはバゲットカットでジェフはオーバブルブリリアントカット、そしてわたしのチョーカーはブリオレットカットだ。アクアマリンの宝石と金糸の鈴蘭はマイグレックヒェン公爵家の象徴でありあり、当家の者、もしくは当家の人間に認められ、そのものからもらった者以外に身につけることが許されていない。ちなみに、三大公爵家それぞれに花と宝石が決まっている。
 『鈴蘭』のマイグレックヒェン公爵家は“アクアマリン”、『薔薇』のフィリアザフィロは“エメラルド”、『藤』のグリュツィーニエは“アメジスト”だ。それぞれの色は花が髪の色、そして宝石が瞳の色を表している。

「そこそこマシにはなったか。いくぞ、レティシア。」
「………はい、お兄さま。」

 ここ最近名前を呼んでくれるようになったお兄さまは、わたしに気遣った速度でわたしをエスコートして歩き始めた。
 わたしは今日、お兄さまの公爵になるご挨拶のパーティーで、真の意味での社交界入りを果たす。
 王家を筆頭に、三大公爵家や公爵家を支える侯爵家全部が集まっての会だ。失敗は決して許されない。わたしは深く息を吸って、これまでにない緊張感を噛み締めながら、入場口に立った。

「マイグレックヒェン公爵アドルファス様、並びに妹君レティシア様そしてレティシア様の従者ジェフリー・ガルシア様のご入場です!!」

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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