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最終回
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あれから数年経ち、わたしとライディンは結婚することとなった。
互いに愛を誓い合い、用意されたウエディングケーキへ入刀する。
そこにはわたしの家族はおらず、天涯孤独の身で祝福を受けることになったけど、わたしには彼がいてくれればそれで充分だった。
辺境にて順風満帆の生活をわたしはある日、あのローウェンから一通の手紙を受ける。
『助けてくれ』
教養を感じさせない、これまでにない汚い字でたったそれだけが記されていた。
生憎、わたしを利用しようとしていたクズ男に渡す施しは皆無だ。寝言は寝てから言って欲しいと切に願う。
「ローウェンからですか?」
「ええ、何かあったらしいわよ」
肉親になった彼とは普段のわたしらしい砕けた口調で話すようになり、お茶会では二人きりの時間を設けることも多い。
ローウェンからは得られなかった楽しい時間を、わたしは彼と共に過ごしている。
風の噂で聞いた話だと、自棄になったレイナが援助された資金も含めて家の金を使い込み、家に危機を招いているらしい。
わたしがいないだけで、幸せを勝ち取ったはずの妹レイナは、あの日から周りを巻き込んだ転落人生を歩み始めていた。
「お嬢様、気にしているのでしょうか」
もう一人の同行者である使用人シエルは新しいメイド服姿がすっかり板に付いており、現在は才能を活かしてメイド長の一人に駆け上がっている。
彼女が淹れてくれたお茶を片手に、わたしたちは明暗が折り混ざった話題に華を添えていた。
「もう捨てた国の話よ。未練は無いわ」
わたしを見限っていた国なんて、こちらから願い下げであった。
頼まれても助けてなんかやらないと、確固たる意思で席にふんぞり返っている。
数年前からのそんな不穏な噂は、いつしかわたしの家だった場所の没落へと変遷していった。
ローウェンは最近まで手紙を何回も送りつけていたが、次第に来なくなり、一切の音沙汰が無くなるまでには時間が掛からなかった。
「今日もかわいがってくれ」
ライディンは屋敷に放っているスライムたちとの触れ合いを望んでいる。
魔物という種族である関係上、最初はさすがに抵抗が出ていたけど、こうして時間を経てそうした恐ろしいという負の感情よりもかわいらしいといった気持ちがあふれてくる。
「にゅるにゅる」
変な声を上げながらわたしの膝の上でお昼寝を始める透明なスライムに、何やら妙なものが映っていた。
「お姉様、久しぶりですね……」
それはある人物が握っている短剣であり、その持ち主はわたしと深い因縁で結ばれた妹レイナであった。
凄まじい形相のレイナにはもはや交わせる言葉も無さそうであり、そもそもわたしからは声の一つさえ出て来ない。
「あんたはローウェンと結婚したんじゃないの」
「ええ、したよ。でも家と一緒に壊れちゃった。それもこれも家を見捨てたお姉様のせい」
噂では妹が潰したというのに、まさかの責任転嫁にはぐうの音も出ない。
突如現れたレイナは一言、死んでと言いつつ、短剣を構えてこちらに走ってくる。
「お姉様を殺して私も死ぬ。それで丸く収まるわ」
狂気に澱んだ瞳は短剣の煌めきを伴って急速に近付いてくる。
恐怖に竦んだ足は座ったまま動かず、ただ運命の先にある死をあるがままに受け入れるしかないと覚悟する。
「ふん!」
そこに勢いよく走り寄ってきたライディンが、レイナのナイフを腕で弾き飛ばす。
「なっ……」
騒ぎを聞いた護衛も駆け付け、凶刃をわたしに通せなくなったレイナは意気消沈、拘束される。
「レイナ……」
「お姉様お姉様お姉様……」
目の焦点が合わなくなっている壊れた妹には、落ち着いてもかける言葉が見つからなかった。
「あれは彼女の業が産んだ罪です。気にすることはありませんよ」
狭間で揺れ動くわたしをフォローするように、ライディンは微笑みかける。
この日、捕まった妹はライディンの計らいでなんとか死刑を免れ、懲役で済むことになった。
代わりにわたしとの接触は完全に禁じられ、懲役が終わっても孤島での生活を命じられたそうだ。
妹に振り回され、巻き込まれたクズ男ローウェンは家から追放され、現在は行方知れずだ。
目撃者曰く、魂の抜けた人形のようになっていたらしい。
わたしはスライムを抱きながら、連れて行かれる妹の哀愁漂う背中を見て、物想いに耽っていた。
それからのわたしは傲慢な自分とは縁を切り、魔法の研鑽をして家に貢献する。
「君は我が家の令嬢なのですよ。わざわざ働かなくても」
「わたしは自分の権力に甘えて自惚れていたの。レイナと自身を重ねて、あの日に痛感したわ。ローウェンの行いだってもしかしたら正せていたかもしれない。あんな決着しか付けられなかったのがどうしても納得できなくて」
「……己を磨く。それも立派な淑女の務めですね」
わたしは自身の人生における最大の失敗をもばねにして、幸せの未来へ羽ばたいていく。
互いに愛を誓い合い、用意されたウエディングケーキへ入刀する。
そこにはわたしの家族はおらず、天涯孤独の身で祝福を受けることになったけど、わたしには彼がいてくれればそれで充分だった。
辺境にて順風満帆の生活をわたしはある日、あのローウェンから一通の手紙を受ける。
『助けてくれ』
教養を感じさせない、これまでにない汚い字でたったそれだけが記されていた。
生憎、わたしを利用しようとしていたクズ男に渡す施しは皆無だ。寝言は寝てから言って欲しいと切に願う。
「ローウェンからですか?」
「ええ、何かあったらしいわよ」
肉親になった彼とは普段のわたしらしい砕けた口調で話すようになり、お茶会では二人きりの時間を設けることも多い。
ローウェンからは得られなかった楽しい時間を、わたしは彼と共に過ごしている。
風の噂で聞いた話だと、自棄になったレイナが援助された資金も含めて家の金を使い込み、家に危機を招いているらしい。
わたしがいないだけで、幸せを勝ち取ったはずの妹レイナは、あの日から周りを巻き込んだ転落人生を歩み始めていた。
「お嬢様、気にしているのでしょうか」
もう一人の同行者である使用人シエルは新しいメイド服姿がすっかり板に付いており、現在は才能を活かしてメイド長の一人に駆け上がっている。
彼女が淹れてくれたお茶を片手に、わたしたちは明暗が折り混ざった話題に華を添えていた。
「もう捨てた国の話よ。未練は無いわ」
わたしを見限っていた国なんて、こちらから願い下げであった。
頼まれても助けてなんかやらないと、確固たる意思で席にふんぞり返っている。
数年前からのそんな不穏な噂は、いつしかわたしの家だった場所の没落へと変遷していった。
ローウェンは最近まで手紙を何回も送りつけていたが、次第に来なくなり、一切の音沙汰が無くなるまでには時間が掛からなかった。
「今日もかわいがってくれ」
ライディンは屋敷に放っているスライムたちとの触れ合いを望んでいる。
魔物という種族である関係上、最初はさすがに抵抗が出ていたけど、こうして時間を経てそうした恐ろしいという負の感情よりもかわいらしいといった気持ちがあふれてくる。
「にゅるにゅる」
変な声を上げながらわたしの膝の上でお昼寝を始める透明なスライムに、何やら妙なものが映っていた。
「お姉様、久しぶりですね……」
それはある人物が握っている短剣であり、その持ち主はわたしと深い因縁で結ばれた妹レイナであった。
凄まじい形相のレイナにはもはや交わせる言葉も無さそうであり、そもそもわたしからは声の一つさえ出て来ない。
「あんたはローウェンと結婚したんじゃないの」
「ええ、したよ。でも家と一緒に壊れちゃった。それもこれも家を見捨てたお姉様のせい」
噂では妹が潰したというのに、まさかの責任転嫁にはぐうの音も出ない。
突如現れたレイナは一言、死んでと言いつつ、短剣を構えてこちらに走ってくる。
「お姉様を殺して私も死ぬ。それで丸く収まるわ」
狂気に澱んだ瞳は短剣の煌めきを伴って急速に近付いてくる。
恐怖に竦んだ足は座ったまま動かず、ただ運命の先にある死をあるがままに受け入れるしかないと覚悟する。
「ふん!」
そこに勢いよく走り寄ってきたライディンが、レイナのナイフを腕で弾き飛ばす。
「なっ……」
騒ぎを聞いた護衛も駆け付け、凶刃をわたしに通せなくなったレイナは意気消沈、拘束される。
「レイナ……」
「お姉様お姉様お姉様……」
目の焦点が合わなくなっている壊れた妹には、落ち着いてもかける言葉が見つからなかった。
「あれは彼女の業が産んだ罪です。気にすることはありませんよ」
狭間で揺れ動くわたしをフォローするように、ライディンは微笑みかける。
この日、捕まった妹はライディンの計らいでなんとか死刑を免れ、懲役で済むことになった。
代わりにわたしとの接触は完全に禁じられ、懲役が終わっても孤島での生活を命じられたそうだ。
妹に振り回され、巻き込まれたクズ男ローウェンは家から追放され、現在は行方知れずだ。
目撃者曰く、魂の抜けた人形のようになっていたらしい。
わたしはスライムを抱きながら、連れて行かれる妹の哀愁漂う背中を見て、物想いに耽っていた。
それからのわたしは傲慢な自分とは縁を切り、魔法の研鑽をして家に貢献する。
「君は我が家の令嬢なのですよ。わざわざ働かなくても」
「わたしは自分の権力に甘えて自惚れていたの。レイナと自身を重ねて、あの日に痛感したわ。ローウェンの行いだってもしかしたら正せていたかもしれない。あんな決着しか付けられなかったのがどうしても納得できなくて」
「……己を磨く。それも立派な淑女の務めですね」
わたしは自身の人生における最大の失敗をもばねにして、幸せの未来へ羽ばたいていく。
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