とあるカップルのバレンタインデー

黒崎

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とあるカップルのバレンタインデー

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私には彼氏がいる。
とても優しい、実に穏やかそのものといった私の彼氏。
時々ーー私に向ける愛情が重いと思うのは、きっと気のせいだ。うん。
時々、こちらが恐ろしくなる笑みを浮かべる彼氏は、滅多なことがない限り怒ったりはしない。
むしろ、甘々すぎて何故そこまで好かれるのかと首を傾げる。
そんな彼氏が買ってきた、バレンタインチョコ。
今年は少し趣向を変えたんだよ、と言って少しお高めな、高級感の漂うチョコを買ってきた。
珍しいな、でも一年記念の祝いだとも言っていたからーーそれなりの値段のものを買ってきたのだろう。
彼氏とソファーに座りながら、机の上に置かれたチョコレートの箱を開け、試しにひとつ口に入れた。
ナッツが入ったチョコレートだった。それを咀嚼してから、こっちも美味しいよ、と彼氏が差し出してきたそれを、噛み砕いたーーと同時に後悔した。お酒入りのものは食べたくないって言っていたのにーーウイスキー入りのチョコレート、ウイスキーボンボンだった。

そこから記憶が朧気で。

熱を帯びた彼の目。赤い舌が、口の中をまさぐっている。
熱い。
何も風呂上がりだから、と言う理由だけじゃないーー彼が口に入れてきた、ウイスキーボンボンに入っていたウイスキーのせいだ。
お酒は好きじゃないって言ったのに。ひどい、と涙目で睨みつける。
そんな私の非難の目に、彼は嬉しげに目を細めた。
唇を割って彼の舌が入り込んでくる。
彼の舌は熱い。
それとも、酔った私の方が熱いのか。
こぼれる声も吐息も、彼に掠め取られていく。
ほんの少しだけだったのに。
それなりに度のあるものだったのか、さほど時間は経っていないのに。
頬が熱い。
口の中をまさぐる舌に、思考が乱されていく。
熱い。
溶けた熱と甘さが交じり合う。
甘くて、熱くてくらくらする。
無意識に悶えるとする身体を、彼が強く抱き込める。
しっかりと味わうように嬲った彼の舌がようやく離れた。
ーーそんな気はなかったのに。灯された火を収めるにはどうしたらいい?
欲情に溶けた瞳が、彼の瞳に写っている。濡れた唇に、何度も触れては、舌でなぞられる。キスの合間、
耳元で彼が囁いた。
「騙してごめんね? だって、君があんまり可愛いから……意地悪したくなっちゃった」
心地のいい低い声が、優しくいたぶる。
耳に吹きかかる吐息にさえも、身体が反応してしまう。それに目を細めた彼が、光悦とした表情で微笑む。
「…トロンとしてかわいい。ねぇ、僕とのキス、気持ちよかった?」
「…っ……いじわる」
彼氏の言う通りだ。絆されてしまった悔しさからーー反射的に、きっと睨みつけた。
つもりだった。
それが彼氏の琴線に触れたのか。
ふっと、彼氏の目が据わった。
「……へぇ。意地悪? "俺"が?  うん。そうだよ。俺は意地が悪い」
いつもは言わないはずの"俺"といった。
ソファーが軋み、愛しの彼氏が立ち上がった。
そのままひょいと抱き抱えられーーこれは、俗に言うお姫様抱っこだなとぼんやりと逃避しつつ。
運ばれる間にも降り注ぐキスの雨を防ぐ間もなく。宝物を扱うかのように大切にベッドへと運ばれ。キスをされながら気付けば押し倒されていた。
「俺は、君にだけ意地悪なんだよ。こんなことする相手は、君だけ。だから。俺だけを見て」
そう言って縋るような目で、
「俺だけを見て、離れないで。ずっと、そばにいて」
深いキスを落とした。
今まで彼が、そんなことを言うとは。1度もハッキリとしたそんな言葉を言わなかった彼氏が。
見事に掴まれた私の心臓はギュンと高鳴った。ああ、これは、彼氏は不安なのだ。
彼氏はキス魔だと思っていた。甘々すぎて。それに目が行きすぎだのかも。
キスを沢山してくるのも、愛情からだけじゃない、不安からくるものもあるのかもしれない。
だったら、私は、それに応えてあげるだけだ。
いつもは恥ずかしくてしない私からのキスを、触れるだけの、子供じみたキスを。
「…すき。わたしだって、あなたのことが好きなの。到底及ばない愛情だとしても……ね、だいすき。ーー、」
恥ずかしい。いつもは呼ばない彼の名前も、素直に吐露する自分の気持ちも。彼の頬に手を添えて、キスをする。

「あなたと、たくさん触れたい。……だめ?」

極めつけに、彼が私にやったようにーーちろりと彼の唇を、なぞって。

笑みを浮かべてまたキスをした。

覚束なかった彼の目が、焦点を結ぶ。
「……僕も、君と触れたい。キミが好きで、好きで、たまらなく愛おしい」
君に触れることを、許して欲しい。

★☆★☆

舌が深く絡み合う。身体の熱さえも、気持ちがいい。ドロドロに溶け合い、乱れる。
理性を失い、愛の獣になるのはこんなにもーー気持ちがいい。
彼女が好きと言ってくれた。その一言で、自分はどうしようないくらい喜んでしまう。
不安でたまらなかった。素知らぬ顔をして、俺から離れてしまったらどうしよう。1人は恐ろしい。失いたくないと、必死に縋ったものほど、去っていく。彼女も、ふとした瞬間に去ってしまうのではないか。1度湧いた不安は、何処までも付きまとう。
彼女は受け入れてくれている。だから。見せないように、不安にさせないように、離れていかないように。好きで好きでたまらないのに、恐れていた。
そんな努力は、彼女の笑顔と言葉の前では無力だったようで。
「すき、好きだ……すきすきすき、……どうしようもないくらい、すきだ」
彼女の耳元で何度も囁く。足りない。言葉じゃどうしたって足りない。すきだ、と囁く度に、彼女の目が蕩けていく。恥ずかしげに目を背けようとするのをキスで防ぐ。彼女は僕の声が好きらしい。耳元で囁くと、とても可愛い反応をしてくれる。
独占欲が強い方だと自覚している。それは、彼女だけに向ける愛情。鎖骨や胸だけでなく、背中にも独占欲の痕を散らす。前は周りの人間への牽制。後ろの痕は、僕だけが見れる場所。
ぐちゅぐちゅと温かい彼女の中を掻き回しながら、彼女の背中を撫でると、身体がビクビクと震え、漏れる気持ちよさげな声。堪らなく愛しい。
うなじにもキスを落とす。
彼女の可愛い所を、もっとみたい。
快楽に溺れる彼女の声に、堪らないと光悦とした笑みを浮かべる。彼女の乱れた姿も、彼女の普段のーー"俺"と過ごしている時の姿も、全てが愛おしい。愛してやまない大好きな彼女。俺だけに見せる姿。
誰にも渡さない。もし、彼女を"俺"から奪うのなら。なんだってしよう。君を害するものは、全て取り除く。僕は君の騎士だから。阻むものは全て、……してしまおう。

もし、彼女が。僕から離れようとしたその時は。誰の目にも届かぬよう、2人だけの場所で。
「好き、好き好き好きだ。……僕と一緒に、いてくれるよね?」
快楽に溺れる彼女の目が、とろりと蕩けた。背中に回された彼女の腕に、一瞬力が籠った。
「……わたしも、すき。一緒に、いようね」
気持ちよさに溺れる彼女は、きっと分からないだろう。
僕が、いや俺のこの言葉に込めた意味を。分からなくていい。分かってしまえば、君は今度こそ逃げてしまうかもしれない。どうせ逃がす気は無いのだ。……あぁ、愛してる。俺だけの愛しい人。
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