蒼鬼は贄の花嫁を誘い出す

黒崎

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第三夜①(R18)

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「――ここ数ヶ月、御館様の機嫌がよろしいのは何故だ?」
「噂によれば、何でも、旧蒼都から新たな寵姫を迎えたとか」
「ほう、今までは遊女ばかりだったと言うのに……真か?」
 蒼鬼の御館様が新しく寵姫を得たという話は瞬く間に國中に拡がった。
 下働きの間で語られるのは、仕える主人たる蒼鬼その人の事ばかり。
 
 寵姫を屋敷に囲い込み、蒼鬼直々に世話を焼いているという寵愛ぶりは下々の民の元まで届いていた。
 
 ――ある所に、蒼鬼が治める國があった。
 妖者が集まり賑わいを見せる國は大変栄えていた。
 一度目はある出来事をきっかけに滅び、離散して千年。
 かつての場所では縁起が悪いと土地を変えて、二度目の再興として栄華を窮め、まさに世の春と言わんばかり。
 一度目は人と妖者の國として、二度目は妖者の国として、多種多様な妖者が集う國となったが――多様性を求めた訳では無い。
 蒼鬼の下にはかつての配下だけでなく、新たな支配下を求め辿り着いた流浪の妖の一団も混ざり、種族の坩堝を極めていた。
 館がある城の麓には、妖者達が暮らす城下町、商人達が行き交う商人町。
 人々の往来が絶えない豊かな都であり國として、蒼鬼の國と呼ばれている。 
 
 ここ数ヶ月程、蒼鬼は鼻歌でも歌わんばかりに機嫌が良かった。
 理由は明白――数ヶ月前に屋敷に放り込んだ寵姫にぞっこんであったからだ。
 
 
 
 厚く逞しい胸板に、ぐったりと身を預ける女の姿に、鬼は機嫌よく喉を鳴らした。
 閨は淫靡な交わりの残り香で満たされ、女がどれほど男に乱されていたのかを物語っていた。
 女の首筋から靱やかな足にまで――至る所に赤い印が散りばめられており、見る者に鬼の情の深さを知らしめている。
「堪んねえなァ……」
 湧いた欲を抑えることなく押し倒し、再び身体を暴く。
 しっとりと汗ばみ、上気した肌は何とも艶めかしく、興奮を誤魔化すように鬼は己の唇を舐めた。
 鬼の獣欲を煽る扇情的な光景は、鬼の支配欲を存分に満たしたが、未だ煮えたぎる欲を収める程では無い。
 ぽってりと腫れた女の唇を気紛れに食む。
 快楽に溺れる女の姿を見据える金色の瞳には、激流を乗り越えた後の気怠げな熱が宿っている。
 不意に、
「も、う、い……」
 蕩けた女の薄紅色の柔らかな唇が動いた。
 ――もういや。
 その言葉が耳に届く前に、熱を帯びた金目が剣呑な色を宿す。
「駄目だ」
 ぎらりと激情に駆られた鬼の手が、女の首に巻き付いた。
 女が苦しげな息を吐く。
 目を細めた鬼が、淡々とした口調で怒りを語る。
「それ以上言うつもりなら、お前を殺す」
「うっ……」
 ぎりぎりと締め上げる鬼の手。
 けれど決して殺さぬよう、女の限界を見定めた上での加減された力。
 冷静な思考を残した鬼の男なりの配慮だが、女からすれば殺意のこもった、鬼の怒りを踏んだとしか分からないだろう。
「ごめ、なさ」
 首を絞められた女は、鬼の怒りに触れた怯えと生存本能から、直ぐに謝罪の言葉を吐いた。
「ごめ、んな」
「――ちっ」
 二度目の言葉を吐き終わる前に、するりと鬼の手が離れていく。
 何度も咳き込む女を見つめる鬼。
 突飛的な暴力を振るったかと思えば、苦しげに噎せた女の口に冷水を口移しで飲ませたりと、甲斐性を見せる。
 女には鬼の心が分からない。
 多少落ち着いた所で鬼を一瞥すれば、じっとりと感情の見えない金色が女を見据えている。
 殺されかけた恐怖心を隠すように、女は震える唇を歪ませる。
「けほ、……流石、ばけものね」
「……お前さんがまた言わねぇ限りは、んな事はもうしねぇよ」
 三途の川が見えたわけでは無いが、死の恐怖を味わった女の目には怯えの色が浮かんでいる。
 にも関わらず、挑発を止めない女の姿に、苛立ちと好奇心をそそられる。
 が、よく見れば女が震えている事に気付く。
 その様子に内心舌を鳴らした鬼の男は、己の青髪荒く掻きむしる。
「――悪かった」
「え」
「怖がらせて、悪かったな。ついカッとなっちまった……許せとは言わんが」
 突然謝る鬼の姿に、困惑した様子で戸惑った女だったが、不満を呑み込み受け入れた。
「……なら、良いわ」
 
 鬼の男は唯我独尊を往く鬼らしさがある。
 傲岸不遜な傲慢さは当然あり、頭を下げる、謝罪の言葉を吐くなど例外を除いて滅多に無い。
 
 ――こいつのせいで、俺はおかしい。
 ――何処まで許されるのか、つい試したくなる男の性を抑えられない。 
 ――先刻だって何時もの俺ならばそのまま殺していた筈だ。

「――くそ」
 
 それは唯我独尊を貫く男には珍しい反省であったが、女には分からない。
「もう良いわ」と呟いた女は己の唇を指でなぞる。僅かに熱のこもった眼差しを向ける先は天井だ。
 まるで独り言のように呟かれた言葉は本当に小声だったのだが、地獄耳とも言うべき聴覚を持つ鬼の耳に届くには十分だった。
 そんな女に眉を顰めた男が問いかけるよりも先に女が口を開く方が先だった。
 何事かを呟いた女の言葉が耳に届くと同時に、鬼の金目が細まる。
「……あ?」
 胡乱な鬼の視線を受け止めた女は、煽るようにくすりと笑って口を開ける。
「あら、ばけものの癖に、……こんなことも分からないの?」
「……はっ。その化け物に殺されかけたってのに、活きが良いな」
 
 一度は冷めた筈の熱が、鬼の中でふつふつと湧き上がる。
 安い挑発だ。何時もの己ならばのるどころか、相手の口を削ぎ落としている。
 だと言うのに、この女ならば悪くないと考えてしまう。
 懲りない女だ――こいつの性分だか知らないが、と口の端を上げる。
「悪い女だな、お前も。仕置が足んねぇんなら、そうだな――」
 
「抱き潰して分からせる」
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