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2nd フェーズ 集
No.29 道場にカチコミ?
しおりを挟むウルティメイト本社の最上階のオフィスでヒメツカとリリィが話していた。
「チザキア・キナは現在警察署に保護されています。一度は過剰吸血により暴走したという話ですが、一体どうやってもとに戻ったのでしょう」
「それは沈静化させたんだろう。彼女の体内にいる特殊な微生物をね」
リリィの手元にはチザキ・アキナのデータがあった。
「彼女の体内にいる微生物は動物の血液から栄養を接種し、またその血液に記憶されている特性を自らのものにする。吸血コウモリの体内から発見された特異なものか」
「ですが、それは未完成で安定性に難があったと報告書にはありますね。彼女が犯した殺しはそれが原因でしょうか、まあうちの元職員のみ殺害されてますが。にしても、研究者本人が施設から抜け出すために自分にそれを取り込むなんて」
「どうだろうな、本当に本人がやったことなのか。しかしあの暴走した状態のチザキすら対処出来てしまうのか、本当に末恐ろしい才能だ」
リリィは窓ガラスの側に立つ。
「そういえば最近君が一緒に仕事をしているお友達だが……」
「わざとですよね、あんな荒れくれ者、友達なんかじゃありません。本当はあんなのに仕事を頼むことすら嫌なんですから」
不機嫌そうな顔をするヒメツカ。
「ふふふ、そうなのか?彼女にこの戦闘映像を送っておいたよ」
「……な!なぜ!?」
ヒメツカは驚きのあまり一瞬固まった。
「いや、以前彼女と共に軽い食事をしてね」
「そんな話聞いてません!」
グイッとリリィに顔を近づけるヒメツカ。
「それは今初めて言ったからね。君は他の仕事で外に出ていたから。悪かった、今度連れて行ってあげるよ。ランチもおいしい中華だよ」
「そういうことを言ってるんじゃありません!」
「え?じゃあ行かないの?」
真横に立ち、端末を操作し始めるヒメツカ。
「それは行きます。直ちにスケジュール調整します」
チザキ・アキナの事件を解決したユキチカ達。
それから数日後、ジーナは自宅で荷物を運んでいた。
「あーもしもし?」
「ジーナ!今日だよね!パーティ!」
「そうだよー、色々とご飯用意しておくからさ」
ユキチカと通話しながら荷物を片付けていくジーナ。
「シャロは?」
「また荷物あるから一旦家に戻ってる」
「お引っ越し手伝う?」
「大丈夫、もう殆ど終わってるし」
チザキ・アキナの一件があり、シャーロットはジーナの家で共に暮らすことになった。
そして今日がその引っ越しの日、それにあわせてパーティをするみたいだ。
これは全てジーナが提案したことだ。
色々とあったシャーロットを少しでも元気づけたいと思ったのだろう。
「それじゃあ私これから買い出し行くから切るねー。うん、また後で」
「ふっふっふ、じーなちゃん、とっても嬉しそう」
後ろから扉を開けてジーナのおばあちゃんが入ってきた。
「え、そ、そうかな?まあ楽しみなのは本当かな。おばあちゃんもOKしてくれてありがとね」
「この家無駄に広いもんねぇ、一人来るぐらいなんてことないわよ。かわいい孫が増えるなんて、おばあちゃん嬉しいわ。買い出しは一人で行ける?ついていこうか?」
手提げを持ったジーナが笑って答えた。
「大丈夫!それじゃあ行ってくるね」
買い物を終わらせたジーナ、いつもは持たない大量の食材を両手の袋に詰めている。
「えーっとこれで一通り買えたかな。まあ足らなかったら家にあるもので何か作ればいっか」
ジーナは歩きながらあることを考えていた。
(メンハギ、チザキさん、あんなに色んな事があっても街は普通に動いてるんだなぁ)
チザキ・アキナの元へと乗り込む、その朝にシャーロットはボイスレコーダーに録音された音声をジーナ達に聞かせた。
「シャーロットちゃん、このボイスレコーダーに気づいてくれてありがとうね。きっと驚かせてしまったよね、ごめんね。私の事覚えてる?チザキ・アキナ、ほら髪の毛が同じ真っ白だからよく他の研究員に姉妹って茶化されてたの。ラジオ、まだ持っていてくれたんだね、ありがとう」
その声は元気があるとは言い難いが、とても優しい人柄が伝わるものだった。
「この前は怖い思いさせてごめんなさい、本当はただ会いに行ったのに……私、自分でも自分を制御出来なくて……!」
声は静かに泣き始める。
「私はもう化物になるしかない、もう時間がないのも分かるの。飢えが強くなると自分の意識が薄れていくの……。無茶なお願いなのは百も承知で言うね私を止めて!警察とか大人達に伝えて!私はもう散々酷いことをした、だから……殺して……」
泣きながらもチザキは話す、最後の方は絞り出したような声だった。
「最後にもう一つ、仮面の男に関わったらダメ!それじゃあ、バイバイ……」
ここで録音データは終わっている。
「......私この人を殺したくない。ユキチカ、これ家の周辺にあった血、時間がないけどここからなんとかこの人を助ける方法を一緒に探して!」
シャーロットは試験管をユキチカに渡す。
「りょーかい!リーダー!」
ユキチカは受け取る。
「私はそれと一緒にジーナとウルルの装備作るよ、きっと戦闘になるから、その時は二人共お願い」
「当たり前でしょ、それくらい!」
「もちろんです!」
こうしてヴァンパイアバスターズはあの夜に備えて装備を整えたのであった。
(最近は目まぐるしいなぁ)
ぼーっとそんな事を考えていると連絡が入る。
「ん?なんだろ、家?」
家からの電話、とりあえず彼女はでてみた。
「ばあちゃん、どうしたの?何か買っといた方が良いものあった?」
「どうも」
聞こえてきたのは知らない声だ。
「ッ!誰?」
ジーナは落ち着いた様子で話す。
「いやぁ、どうもお邪魔してます~」
「邪魔するなら帰って」
「あいよーってちゃうわ!そう邪険にせんといてや。ちょーっとジーナちゃんとお話したいなーって思て上がらせて貰ったんです」
飄々とした感じで関西方面の話し方をする相手。
「ばあちゃんになんもしてないだろうね」
「なんもしてへんよ、当たり前やん!ワシはおばあちゃん子なんや。ほいじゃ待っとるでなー」
そういって相手は連絡をきった。
走って帰宅するジーナ。
「え、なにこれ……」
家の前にはズラリとスーツを着た人達がビシッと立った状態で並んでいた。
とりあえずその前を通り過ぎて家に入る。
「お買い物おつかれさまです!自分、荷物持たせて頂きます!」
玄関でスーツを着たものが荷物を持つ。
相手の勢いに押されてついつい渡してしまうジーナ。
「こちら全て冷蔵庫で大丈夫ですか?」
「あ、えっとアイスが入ってるからそれだけ冷凍庫で、他は、はい、冷蔵庫で」
「さ、姉御がこちらに」
そのまま彼女は道場の場所に案内される。
彼女の家は道場があり、普段は彼女が鍛錬を積んでいる場所だ。
そこにはおばあちゃんと一人の女性がいた。
他の者と違い、その女性は赤黒いスーツを着ていた。
「おばあちゃん、全然肩凝ってないやないの~若いんやねぇ」
「いやぁそれでも気持ちいいね」
おばあちゃんはその女性に肩を揉まれていた。
「ばあちゃん!」
「あら、ジーナちゃん」
「お!師範代のお越しやな!」
ジーナは話し方と声でその女性が先程連絡してきた女性だと気づく。
「どうも、お初にお目にかかります、拳鬼会《きけん》会長のオニツノ・モチともうします」
オニツノ・モチ、そう名乗る女性は挨拶をした。
「それで、そのオニツノさんが私になんのよう?」
「そうやな、でもその話をする前に……エンドウ!」
「はい、姐さん」
オニツノの呼びかけに応じて誰かが道場に入って来た。
「ちょっとお茶でもおばあちゃんに淹れたってくれんか?おばあちゃんちょっとの間お孫さんと二人にさせて貰えませんか?」
「ああ、良いよ。二人とも仲良くね」
「おばあ様、こちら土産の茶葉とお茶請けのお菓子です、向こうの部屋でどうぞ」
エンドウは綺麗な紙袋を持って来た。
ジーナのおばあちゃんとエンドウは道場から出ていく。
「さーて、これで二人っきりで話せるな」
「……」
ジーナは立った状態で警戒を解かない。
「肩に力入り過ぎやって。ただワシはジーナちゃんに会うてみたくなっただけなんや」
「だからどうして」
そう聞かれると笑いだすオニツノ。
「はっはっはっは!そりゃあ、バケモン相手に素手で殴りかかるようなオモロイ奴がいたら気にもなるやろ?」
この言葉にジーナはハッとして一歩下がる。
「っ!!あんたは一体!?」
「しょーもない会社に雇われてるただの喧嘩好きなお姉さんや」
座っていたオニツノは立ち上がる。
「なぁジーナちゃん、ワシといっぺん喧嘩してくれへんか?」
「はぁ?」
オニツノは構える。
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