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2nd フェーズ 集

No.45 施設の偉い人と元囚人くん

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【光のシャボン玉】という不思議な現象が多発する、その原因と思われる施設に侵入したユキチカ達。

途中離ればなれになってしまったユキチカは、この施設の責任者でありエデンズゲートプロジェクトのリーダーである人物に出会う。

その女性の名はカイ・ザイク。

彼女は自分のオフィスにユキチカを案内した。

「座りなよ」
「ありがとー」

カイはユキチカに飲み物を出して来た。

「ジュースだ、林檎ので良かったかな?」
「やったー!いただきまーす」

金属製のグラスに入ったジュースを勢いよく飲むユキチカ。

「美味しい!」
そう言ってユキチカは飲み干したグラスをテーブルに置いた。

「ふん、やはり薬は効かないか。体が麻痺する薬をいれたんだが」
「うん、大丈夫だよー」
平然と答えるユキチカ。

「眩しいからきってくれないか、その装置。君も体を機械にしているんだろう?それがなくても問題ないんじゃないか?」

「あれ、もうしってたの?じゃいっか、きっちゃおー。あ!車だー」
ユキチカは装置を止めた。そして彼はカイのデスクに置かれているおもちゃに興味を惹かれる。

彼女の机の上や棚には子どもが遊ぶような木製のおもちゃがいくつか置かれていた。

「遊んでいいよ。私はそこまで物に固執するタイプじゃないのでね」
許可を貰ったユキチカはおもちゃの内の一つである車を動かして遊び始めた。

「木で出来てる!本当の車も木で出来たやつもあるのかな?」
「たしかにあってもおかしくないが大量生産には向かないな。そういえば、おもちゃは木で出来ているのが相場かと思ったが違うのかね?」

遊ぶユキチカをみてカイは椅子から立ち上がる。

そして彼女の部屋にある【窓】の電源を入れた。

「これをみてくれ」
遊んでいるユキチカに声をかけるカイ。


窓にはカイとうり二つな女性が幸せそうに笑って、彼女の家族と思われる者達と過ごしている様子が映し出されていた。

「あ!カイさん」

「そう、この窓は別の世界をみる事ができるんだ。そして彼女は別の世界の私……幸せそうだろ?彼女はどの時も楽しそうに笑ってる。たまに辛そうな時もあるけど、その時はいつも子どもたちや旦那が側にいるんだ」

カイはため息をつく。

「ここに行きたいの?」
ユキチカがそう質問する。

「流石、天才くんは理解がはやい。そうだよ、私はあそこにいるべき人間なんだ。あの位置こそ、私が座っているべき場所なんだ。こんな日の光も差さない洞窟にある部屋に私はいるべき場所じゃない。鬼丸ユキチカくん、私はね、ただ家族に会いたいだけなんだ」

「そうなんだ!それは会わないとだね!」

カイの言葉を聞いて頷くユキチカ。

「分かってくれるかい?」
「うん、ぼくもお父さんやお姉ちゃんに会いたくなるもん」
ユキチカはニコッと笑ってそう言う。

「そうか、そうか!理解してくれるか!やはり君ほどの知性ならば理解してくれると思っていた!」
カイは嬉しそうな顔をする、そして【窓】を指さす。

「このプロジェクトは瞬間移動ではなく時空間の移動を可能にする。空間といっても今からアメリカのニューヨークにいきなり現れるとかじゃない。上の連中はその程度の事しか考えていないが違う、別の世界にいくのが真の目的だ、これで私は……」

プロジェクトについて話はじめた時、彼女が付けていた腕時計が振動する。

「おっと、薬の時間だ。失礼」
時計のアラームを止めて、カイは机に向かう。

「もう君は理解しているだろうが、この施設は”あるエネルギー”を扱うための実験を行っている。この施設を囲んでいるバリアもこのプロジェクトの副産物さ。だが……」

彼女は手袋をはずす。
その下から現れたのは機械で作られた義手だった。

「ぼくと一緒だ!」

「そうだな、手足は完全に機械化している。胴体と頭部はこの施設に満ちている高エネルギーによって体内が損傷しないよう、内側から特殊な防護膜でコーティングしている。その上で内臓自体にも同様のコーティングをしている」

カイは机から小さな箱を取り出し、その中にある一本の注射器を手に取った。

「だが君は凄いな、その装置、それがあれば生身でもこの空間の影響を受けずに過ごせる。ここでは生き物は長く生きていけない、お陰で食事や飲み物も特殊な容器にいれないといけないんだ。これが結構重くてね」

彼女は注射針のカバーを外し、シャツをめくって腹部を出す。

「色々と対処はしているんだが、それでも内臓へのダメージがまだ酷くてね。この薬を定期的にうつ必要があるんだ」

露出した腹部に注射する。

「それ、すごい強い薬……」
「ああ、これを使えば今すぐの損傷を抑えられる。代わりに寿命は縮めるがね。私は足場を固めるために、道を延ばす為に使う予定の資材を投げ売っているようなものだ。滑稽な話に思えるかもしれないが、今のワタシにはこれが最善の手なんだ」

心配そうな顔でカイをみるユキチカ、そんな彼に向かってカイはそう答えた。

「そんな私からみて、君の身体は非常に興味深い。一体どこまで機械化しているんだ?この施設に侵入した時点で簡単なスキャンはしたのだが、君はスキャンされても人間の肉体と判断されるような何かを身体に仕込んでいるね?私の予想じゃ、君は私以上の機械化をしていると思うんだが。つまり私が出来なかった胴体や頭部までも何かしら大掛かりな改造をしているんじゃないか?」

カイはユキチカに近づく。

「後で是非研究させて欲しい。もちろん君の命にかかわるような事はしない。そう上から言われているからね」
「ごめんなさい、それはシャーロットがさきだから」
ユキチカが頭を下げた。

「ああ、それなら問題ないよ、そのお友達は全員始末しないといけないんだ。君には辛い話だろうがね」
カイは部屋にあった大きな鞄を持ってそう言った。

「え?なんで?」
ユキチカが首をかしげる。

「私の邪魔をするからだよ……」
「どうして?」

カイは窓に再び目線を向け、そこに映る別世界の自分に指を差す。

「私は家族に会う!あの席に座るべきは私なんだ!あの女ではない!」

声を荒げそう言い放った彼女は、目線をユキチカに戻した。
「邪魔をするなら始末する。とはいえ君は生かしておく、そういう命令だ。だが他の者は皆始末する、ここの存在を知ってしまったからな」

「なんでそこで殺すになっちゃうの?」
質問を重ねるユキチカ。

「それがこの世界だからだよ。奪うか奪われるかだからだ……幸福になるには奪う側になるしかないんだよ。君はどうする?そのままではお友達を殺されてしまうぞ?」

ユキチカは椅子から飛び上がり、腕を変形させた。

「ダメ!カイさんを止める!」
「そうだ、いいぞ。この世界にちゃんと適応出来ているじゃないか。奪われたくなければ、奪われる前に奪ってしまうしかないんだよ」
そう言ってカイはユキチカをまっすぐと見つめた。

「君にとっての大事なものは彼女らなんだろう?気持ちは分かるよ、よーくね。もし私が同じ立場で、お前を殺さないが夫や子どもは始末すると言われたら、従う道理はない。全力で抵抗するだろう、相手を殺す事だって躊躇せずにしてしまうだろう。それが人間というものだ、それは正当な防衛だ。自身の魂を幸福へと導く道を守る為ために必要な事なんだ」

カイは手を上げると部屋にアンドロイド達が続々と入ってきた。

「取り押さえろ」
アンドロイド達がユキチカに迫る。
ユキチカは変形させた腕から圧縮した空気を地面に向けて放つ。

周囲のアンドロイド達とカイが吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた彼女は壁を突き破って部屋の外に出る。

「空気砲、銃や爆弾ではなく手間のかかるものを。こんな状況でも君は優しいな、まったく嫌になるほどだ。その優しさは私には毒だ……もう毒は」

彼女は座った状態で鞄から何かの装置を取り出した。
その装置に腕から伸ばしたコードを接続する。

「これは最後の警告だ。私の邪魔をしないでくれ」
カイがそう言うと部屋の中からユキチカが現れた。

その背後からアンドロイドが襲い掛かる。
しかしユキチカはそれを目で見る事無く、躱し、アンドロイドの頭を掴む。

「ショックオンッ!」
アンドロイドが痙攣し倒れる。

「戦闘用に改造されたタイプでもその様か。向こうはキリサメに任せるから良いとして、私も動かねばならないか……」

カイは立ち上がる。

「君は殺すなと言われているが傷つけるなとは言われていない。抵抗するなら、行動不能になってもらうまでだ」
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