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3rdフェーズ 散
No.65 凄腕刑事さん
しおりを挟むハウンドに潜入したキビとコウノ。順調に話が進んでいたのだが、二人の目の前にヒメヅカが現れる。
どういう訳かウルティメイト社の秘書であるヒメヅカがハウンドの代表になっていたのだ。
「いやはや、バレてましたか」
ヒメヅカとキビだけしかいない応接室で二人は鋭い視線を向け合っている。
キビの手には酒の入っている銀の瓶が。そしてヒメヅカの手にはナイフがあった。
「キビ・カオル、ベテランの凄腕刑事さん、それとコウノ・ウラメさんですね?」
「悪いがそっちの名前が入った名刺は持ってなくてね。渡せなくて残念だ、せっかく大企業のお偉いさんと会えたのに。連絡先でも交換する?」
「その必要はありませんよ」
「そりゃどうして?」
キビの質問に対しヒメヅカはナイフを突き出して答えた。
それを躱すキビ。
「だってあなたはこれから行方不明になり、捜索を開始してから数日後、崖から転落した自分の車の中で亡くなっている所を発見されるんですから」
「へぇー!そうなんだ!ハウンドって警備だけじゃなくて占いもやってるの?」
「まったく余裕ですね」
テーブルを挟んで向かい合う二人。
「ウルティメイト社の秘書さんがこんな所で代表してるなんてな。ウルティメイトの汚れた仕事もやってるのか?」
「どうして?」
「そんなナイフを持ち歩いてる秘書がいるかよッ!」
テーブルを蹴りヒメヅカの動きを止めるキビ。その隙に彼女の頭目掛け銀の瓶を振り下ろす。
しかしヒメヅカはすぐさまそれを回避し、瓶を蹴り飛ばした。
「危ないですね、瓶の中身がスーツにかかったらどうするんですか。にしてもなんという偶然か、ユキチカくんも来ているタイミングでここに来るなんて。忙しいのでさっさと大人しくなってくださいよ!」
ナイフを振るうヒメヅカ、しかしその攻撃は弾かれてしまう。
「絶対にヤダね!」
キビはテーブルの上にあったペンで防いだのだ。
「もう一回借りるぜ、ペンは剣より強しってな」
ヒメヅカが繰り出すナイフの攻撃をいなしていくキビ。
(本当にナイフ相手にペンで闘うなんて)
苛立ちを覚えつつも感心するヒメヅカ。
(こいつ本当アブねぇな、的確に急所を狙ってきやがる)
相手の攻撃を受けないように立ち回るキビ。
攻防の最中キビはナイフを持っている相手の腕を掴んだ。
「こいつはどうだッ!!」
キビは相手の左腿にペンを突き刺す。
しかしヒメヅカは怯む事はなく、キビを掴んで投げ飛ばした。
「マジかよ、ペンが足に刺さってるのに声1つ上げないとか。想像以上にイカれてんなこれは」
「この程度なんてことないですよ。愛の前には」
ペンを抜き取り捨てるヒメヅカ。
「ひゅー♪良いセリフ今度どっかで使ってもいい?」
「貴女に今度は無いと言ってるでしょう!」
ヒメヅカが突き出したナイフを側にあった椅子で受け止めるキビ。
そのまま椅子をひねり相手のナイフを奪った。
「これくれんのか?やっぱりサービス精神旺盛だな!」
「クソ!」
「あらお口が悪うございますね。それでも秘書か?いや、今は代表か」
キビはヒメヅカの名刺を拾い上げてそう言った。
すると突然、部屋の警報がなる。
「なにこの警報は!?」
応接室から離れた場所、そこにある火災報知器の側で。
何か一仕事終えたコロちゃんを回収するシャーロット。
「コロちゃんナイス!ジーナ、ユキチカ、ウルルお待たせ!」
シャーロットがそう言って振り向く。
「せーの」
ジーナの合図に合わせて4人は息を大きく吸う。
「「「火事だーーー!!」」」
大声で叫ぶと同時に火災報知器のけたたましい音が鳴り響く。
「えっ火事!?みんな避難口へ!」
案内をしていたハウンドの職員がその場にいた者を急いで誘導し始める。
避難する者達に紛れて出ていくシャーロット達。
シャーロットはポケットから一枚の紙きれを取り出す。
(このメモ通りに火災報知器は鳴らせた、後はキビさん頑張って!)
「ナイスタイミング!それじゃーね」
椅子を持って出たキビは外に出て扉を閉める。
そして持っていたイスをドアノブとドアの間に立てかけた。これにより内開きであるこの部屋ではヒメヅカ側からは開けられなくなった。
「待て!クソ!」
ドアに体当たりするヒメヅカだが扉は開かない。
キビが部屋の外に出るとすぐにコウノがやって来た。
「よお秘書ちゃん」
「せん、社長!大丈夫ですか?これは一体」
「大丈夫だ、火事じゃない。後で説明する、マモリさんは?」
「一緒に避難の列に並んだフリしてまいてきました」
それを聞いて頷くキビ。
「流石、私達も出るぞ」
「この部屋は?」
「開けろっ!!」
扉が大きく揺れる。
「猛獣が出たんで閉じ込めた、観てみる?」
「いえ、遠慮しておきます」
二人は建物の外に向かう。
キビとコウノが建物の外に出た頃、ヒメヅカは扉を壊し外に出ていた。
脚の止血をして自分の部屋に戻る。
彼女は部屋に戻るとすぐに靴を脱いでその裏に付いてる小さいボタンのような物を引きはがす。それから襟の裏、ジャケットの裾の内側、そこからも同様の物を引きはがしデスクの上に置いた。引きはがした物は赤い小さな光が点滅していた。
ジャケットを脱いだ状態のまま椅子に腰かける。その光が点滅しているボタン状の物をまとめて手に取るヒメヅカ。
「おい、聞こえてるかキビ・カオル。こんなもので私を出し抜けると思うな。次にあったらこの借りは返すからな!」
ヒメヅカはそう言って、手に掴んだ三つ全てを握りつぶす。
「あーあ、盗聴器壊されちゃった」
「え?バレちゃったんですか!」
ハウンドの駐車場に止めた車にいたキビとコウノ。
「いいんだよこれで、奴は盗聴器を見抜いた。そう思ってるんだろうな。でもそれが落とし穴だ」
盗聴器が壊されたのに余裕そうなキビ。
「あいつ名刺入れを持ってたんだ。新品のな」
キビは車を少し移動させる。
「革製のやつ、高そうなやつだ。でも革製品特有の使い込まれている感じがなかった。てことは普段は名刺入れなんて滅多に触りもしないってことだ」
「なるほど、でも内ポケットに入れてましたよ。そのままだとシャーロットちゃんの装置を使うのは無理なんじゃ」
「アイツは結構神経質なタイプだ。私が握手を求めた時一瞬止まった。心を許してない相手に触れるのが嫌なんじゃないかと考えた。勿論そういう文化がないだけかもしれない。そこでもう一つ確認したんだ」
「肩を叩いたやつですね」
コウノはキビの身体に傷が無いかをチェックしながら話す。
「そうだ、肩に触れる寸前ほんの少しだが身体に力が入った。反射的に身を引くのを身体に力入れて抑えたんだろう。その直後に意識的に深い呼吸を一回だけした、落ち着くためだ」
「そんな神経質な奴が普段使わないものをずっと身体に当たる場所のポケットにいれておくか?必ず取り出して元の位置に戻すさ」
キビは会社の側にある店の駐車場に車を移した。
「でも名刺入れの中や他の盗聴器も探すんじゃ」
「それも対応済み」
「人ってのは不思議だな、奇数の数字に妙な信頼感を寄せちまうらしい。自分の身体につけられた3つの盗聴器を見つけたら、何故か途端にもう無いって思っちまう。靴の裏、襟の裏、ジャケットの裾の内側、全部見つけた、衣服についている物は完全に見つけ終わった完璧だってな」
「それともう一つ、奴は呑気に自分が身につけているものを探す余裕はないだろう。酷くイラつかせておいたからな。それが最後の罠だ、きっともうすぐ立派な車がここを飛び出して行くぜ」
キビが車を止めた所からはハウンドの駐車場から出ていくものが良く見える。
その頃ヒメヅカはジャケットを着て再度椅子に座った。
「全く、あの戦いの最中3つも忍ばせるとは、侮れない奴だ」
内ポケットから革製の名刺入れを取り出し、デスクの引き出しの中に放り込んだ。
「ああ!!なんて事だ!リリィさんから貰ったスーツがこんなに汚れて!ボールペンで刺すとか何考えてるんだ!それも脚に!シャツは消耗品だ、買い足した大した事はないがわざわざ貰ったスーツに突き刺すなんて!」
座った彼女は自分の足を見て怒りをあらわにし、履いていたスラックスを脱ぎペンを刺され開いた穴を凝視する。
「ヒメヅカ代表!良かった、ここにおられたんですね、ってなんで下着なんですか!?それにその傷!」
「ああ、マモルさんか。どうかしました?」
息を荒くしながら、なんとか平静を見繕うヒメヅカ。
「どうしたって火事ですよ!警報がなってるじゃないですか!代表が見えなかったので、ここで何してるんですか!早く避難しないと」
「火事じゃない。うるさいから警報を止めてください」
そう言ってスーツに再び目を向けるヒメヅカ。
「予備のスーツとかあるかな、これはクリーニング行き、いやその前に修繕だ。クリーニング店は、この側のここはダメだ、この前シワが残っていた。こっちだ」
「その前に病院ですよ!」
「そんなことよりスーツです!こんな傷は後で手当すれば良い」
「えぇ……」
一呼吸するヒメヅカはマモルに目を向ける。
「で……何をボーっと立っているッ!早く着替えを持って来てください!車も!」
「は、はいー!」
ハウンドの駐車場から勢いよく車が飛び出した。
見るからに高級そうな車だ。
「今の車!」
「どうやらあのスーツは相当お気に入りらしい。もしもしシャーロットちゃん?もう大丈夫だと思うから、うん、うん、よろしくー」
シャーロットに連絡を入れるキビ。
「久々に先輩の事見直しましたよ」
「何を今更、私は"凄腕刑事さん"だからな」
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