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4th フェーズ 奪

No.83 天才博士と少年

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「私は……最悪の兵器を開発するために」
イヴがそう話すとジーナ達が目を見開く。

「最悪の……兵器」
シャーロットが小さく呟いた。

「当時は核兵器が大ブームでね。人類は自分達の足元に広がる大地を簡単に吹き飛ばせるものを生み出した」
イヴは床を足で軽くトントンっと叩く。

「世界大戦でそれをアメリカが日本に使用し、その脅威を人類は思い知った。バカ過ぎだよね、被害を出してからようやく理解し始めるんだからさ。まあそれが戦争の恐ろしい所なんだろうけど、始めた当初は展望があったように思えるのに、途中からそれすらも訳が分からなくなるのさ」
彼女の話を聞いてシドーはゆっくりと頷く。

「そんな恐ろしい兵器は二度と使うべきじゃない、でも手に入れた力はそう簡単には捨てられない。そんな時に大国同士が核ミサイルを向け合う事態がおきた。なんとか発射は免れて、今日もこの地上にこうやって生命が繁栄できている訳なんだけど。でも各国はビビり倒した、あれを撃ち合う戦争が起こる寸前まで行ったからね。世界大戦を経験した直後に」
イヴは頭を振る。

「そんな連中の一部が、天才と呼ばれる人たちを集めた。その者たちを使ってある研究開発を秘密裏に行うようになったんだ。その目的は核を超える兵器の開発」
彼女は手からいくつかの書類をホログラムで映し出す。

「私が主任として選ばれた、その計画の名前が【プロジェクト・ウルティメイト】」

「ウルティメイト社名は……」

「そう、間違いなくここから取った名前だよね」
ホログラムの書類を広げるイヴ。

「例え手足が吹き飛んでも、パーツを付け替えれば即座に戦線復帰できる兵士。長期にわたり若い身体を維持するための若返りの薬。身体能力を強化し驚異的な治癒能力を得る血清。あとは透明になるスーツとかもね。君たちにはどれも聞いたことがあるようなものでしょ?」
そう言われて頷くジーナたち。

「島はその研究拠点を作る為に来たの。島は本土から距離もあるし、住民が外部に連絡をする手段は非常に限られている。情報が洩れずらい環境が整っていた」
島のホログラムを見せるイヴ。

「そこで出会ったのユキチカに、その時の私はまあやさぐれててね。最初は彼をウザイなんて思ってた。子どもなんて大っ嫌いって感じの嫌な大人だった」
曇っていたイヴの表情が明るくなっていく。


「ねぇーねぇー何してるの?」
ダイキは丘の上に座っていたイヴに話しかける。彼女は丘の上から海を眺めタバコを吸っていた。

「ん?なんだ村の子か。なに、チョコでも恵んで欲しいの?」
「チョコって?おー!チョコ!美味しそう!」

「知らないのか知ってるのかどっち?」
そう言ってイヴはチョコレートをポケットから取り出してダイキに投げ渡す。

「ほら、これあげるから向こういって」
「はーい、ありがと!」
チョコを受け取ったダイキは走り去った。

「子どもめ」
そんな彼の背中をみてイヴはそうつぶやいた。


「こんにちは!」
「また来た、あーもうほら、とっとと向こうに」
数日後また現れたダイキにチョコを渡すイヴ、しかし彼はそれを受け取ってイヴの隣に座った。

「ちょっと、あげたんだから向こういってよ」
「今日はここで食べる」
ダイキはチョコの包み紙を破り食べ始める。

「はぁ?なにそれ」
「けほっけほっ」
ダイキは咳き込んで鼻をつまんだ。どうやらイヴが吸ってるタバコの煙が原因のようだ。

「あーもう、だから向こう行ってって言ったのに」
イヴはタバコの火を消す。

「いやなにおい、それ」
「うるさいな、知ってるよ」


その数日後またダイキは丘に現れ、イヴの隣に座ってチョコを食べていた。

「うま、うま」
「いいよね、あんたら子どもは気楽で」
隣で食べるダイキをみてため息をつくイヴ。

「疲れてる?目の下に隈できてる、血行不良でできるやつ」
自分の目の下に指をあてるダイキ。

「そう、寝れないの最近。色々あってね、まったくさ……」
それからイヴはどういう訳か次々と自分の事を話し始めた。当時の彼女はそんな事をペラペラと話す質ではなかった、しかしこの時は自然と流れるように話してしまったのだ。

「……ていう賞を取って、人の為にこの才能を使って働くのも良いなぁって思ってたら、結局利用されてるだけだった。……あれ?なんでこんなに色々話しちゃったんだろう。君の名前も知らないのに。そもそも人と話すの好きでもないのに」
ハッと気づいたイヴがダイキを見る。

「ぼくダイキ!」
ダイキはニコッと笑って名乗った。

「……そう、どうも」
「名前なに?」

「イヴ、アウガスタ・ド・ヴィリエ・ド・イヴ。というか、私は君よりお姉ちゃんなんだからもう少し口の聞き方に気を付けなよ」
イヴが名乗る、昔の貴族のような名前だ。大半の相手はもう一度名乗って貰う事を頼むか、覚えられないことを誤魔化す為に笑って頷くだけだ。

「イヴお姉ちゃんはフランスから来た?それともアメリカから?」
しかしダイキからは違う返答が来た。

「え?あー名前ね。母方がフランス人で父がアメリカ人。名づけてくれた祖母はエヴってしたかったみたいだけど、父が勘違いして書類の表記をイヴにしたの。だからそこだけイヴ」
説明を終えたイヴはダイキに目を向ける。

「おー!ちょうちょ!」
「って、聞いてないし」
既に興味の対象が移ってしまったダイキだった。



 その日の夜、建設されたばかりの施設内で。

「イヴ博士、こちらでしたか」
ヴァーリ・ジョーンズは廊下から村の方をみるイヴに話しかける。

「地下資源データは取れた?」
イヴは彼にそう聞くと彼は紙を取り出して頷く。

「ええ、やはり豊富な地下資源がこの島にはあるようです。研究にも大いに役立つことでしょう。掘削作業員の方も随時募集しています。作業員とは言えやる事は掘削用機材が正常に動作しているかの定期チェック程度ですが」

「そう、当分はその資源を送っとけば上の連中は静かにするでしょ。ようやく研究に集中できる」
彼女の目は夜の空をほんのりと照らす村の灯りを見ていた。それは電灯だった。

「あの灯りは?この島に電線なんて引かれてないはず」

「イヴ博士、せめて報告書ぐらいは観ておいてくださいよ。ダイキくんといって、すごい発明家なんですよ。うちに来てからも掘削作業員の為に色々な物作ってくれて」
イヴに向かってヴァーリは話す。

(ダイキ、あの子か)
「例えば?」

「エレベーターとか、作業員が落下した際に安全に着地できるようにクッションが現れる装置とか。どれもこの環境にある素材で作ったとは思えない程精巧なものです。一体どこでそんな知識を身に着けたのか、この島にある教育なんて近所で集まって簡単な計算や読み書きを教えられる程度の事なのに」

「ふーん、興味あるね、今度その少年を呼んで、私のオフィスに連れて来て」
イヴの発言に対しヴァ―リが驚く。

「え?!ここの研究は非公開なんですよ……いくらなんでもそれを子どもに見せるのはどうかと」
「そのタイプの人間は自分の能力を発揮する場所に常に飢えているもの、心配の必要はないよ。そもそもここで見聞きした事を外で言ったって子どもの作り話だって流されておしまい。使えるものは使わないとね」

「博士は残酷ですね。分かりました明日連れてきます。それでは博士失礼します」
ヴァ―リはため息をつきそういった。

 イヴは自分の部屋に入る。その部屋の家具といえばベッド、机、棚、そして黒板だけしかない。研究員によっては母国の有名なコミックやミュージシャンのポスターを張ったり、観葉植物を置いているものもいたが彼女はこれだけだ。チョークとコーヒーとタバコの匂いが絶えない部屋だった。

彼女は着替えもせずベッドに横になる。

「最高の兵器……それを成し遂げたら、その先は何が……?」

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