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4th フェーズ 奪
No.88 破滅への第一歩
しおりを挟む突如倒れるシドー。
「ワンッ!!ワンッ!!」
後ろで何かに気付いたタローが吠えた。
「貴様らッ……ッ!!」
顔の皮膚の殆どを食いちぎられていたヴァ―リが起き上がっていた。彼の手には煙を吐く銃が。
「くそ……しぶとい奴だ」
シドーは腹部を撃たれたのだ。
「グルルルルッ!」
再びタローが噛みつこうと跳びかかる。
しかしヴァ―リは逃げる事もなく、背後から何かを取り出す。そしてそれをタローに押し付けるとタローの体を稲光が駆け巡る。ヴァ―リが取り出したのは強力な電気ショックを与える武器だった。
眩しい歪んだ光が部屋を照らす。
直後タローが地面に落ちた、ぐったりとし動かない。
「タローッ!」
「ハハハッ!!ガラクタの体にはよく聞くだろう!」
ヴァ―リはタローを蹴とばす。
ヴァ―リの視界の端にイヴが映る、彼女は装置に再び向き合い装置の設定を変えようとしているのが瞬時に分かった。
「イヴ!貴様の大事なお友達ががら空きだぞ!」
「ダメッ!」
彼は数回発砲する。
「……テメェッ!」
弾丸を受けたのは倒れていたシドーだった、彼は立ち上がり盾になった。
「シドーッ!」
「人の……大事な子にッ!何してくれんだテメェッ!」
「死にぞこないがッ!」
ヴァ―リが銃を撃ち尽くし、タローに使用した武器を取り出しシドーを殴り飛ばす。
「イヴ!貴様!」
イヴに近づこうとするヴァ―リ。しかし彼の足が止まる。
「逃がさねぇぞ!」
「グルルッ!」
シドーとタローが彼の足にしがみついていた。
「ガラクタに敗残兵がッ!役目を全うできん連中が!」
ヴァ―リはシドーとタローを蹴るが絶対に離れない。イヴは再設定を終えようとしていた。
「ならばこれならどうだ!」
彼は持っていた武器を起動させ装置に投げた。
「ッ!」
高電圧が装置に流され、イヴが弾かれる。
「さあどうなる?」
ヴァ―リは装置を凝視した。
「再設定を強制終了、グレイボットの起動開始」
「は……はははッ!やったぞ!やはり私の役目は終わってないんだ!私は間違っていなかった!世界は私が、役目を全うする事を望んでいるんだ!」
「てめぇ、なにを……」
起き上がったシドーはヴァ―リに殴りかかろうとする。しかし彼の腕が崩壊し始める。
「なんだこれ……!?」
「そんな、シドー!」
「ははは!素晴らしい!ちゃんと動作している!シドー!貴様はこの人類を導く最初の審判を受けた者だ!光栄に思うんだな!」
シドーはヴァーリを睨みつける。
「お前がやったのか?」
「わたし?違う、私はこんなの作れやしない、イヴ博士と君の大事な大事なダイキくんだよ!」
「……!」
シドーをみてヴァーリは笑う。
「ハハハ!そうだ!貴様が嫌いな戦争の!人殺しの道具を作っていたんだよ、この施設は私達は!」
「それがなんだ……」
「なに?」
シドーはガラスの破片を拾いヴァ―リに突き刺した。倒れていた時に拾っていたのだ。
「ぐはっ……!?」
「あの人たちが何を作ろうが、悪意を持って利用したのはテメェだろうが。なに責任を押しつけてんだよ。テメェみたいなバカが明るい未来に影を落とすんだ。何が役目だ自惚れんな、テメェはただのクズだ!」
「クズか……ごほっ、何とでも言えばいい。世界は私が使命を全うするのを待っている。この状況がその証拠だ!」
ヴァ―リはシドーを突き放す。
シドーの足が消失し倒れる。
「ふん、それではな」
ヴァ―リは傷口を押さえて部屋から出ていく。
「……ん、ッ!シドー!大丈夫?!」
イヴは目を覚ましシドーに駆け寄る。
「すまない先生、奴を逃がしちまった。おれは見ての通りダメそうだ。ダイキを連れてここから逃げてくれ。これを」
シドーは銃をイヴに手渡す。
「これはヴァ―リの」
「あいつ弾倉の予備を持ってた。相当焦ってるぜアイツ」
笑ってそういうシドー。
「ダイキを頼んだぞ、先生」
「……分かった!」
イヴはまだ意識が戻らないダイキを抱えて部屋を出る。
「はぁ、はぁ」
薄れゆく意識の中でシドーは動かなくなったタローの元へ這いつくばりながら向かった。
「お前も良く頑張ったなタロー」
そう言ってシドーが撫でるとタローの目が光る。
「くぅん」
弱々しい声でなくタロー。
「タロー!お前生きてんのか?それともやっぱダメそうか?」
タローは弱々しく立ち上がり何かを探している。
「どうしたんだ?何を探してんだ?ダイキならもういないぞ」
目的のものを見つけたタローは一枚の布を持って来た。
「それって、ダイキと先生が作った。”そうるぱっち”ってやつか?救急箱にダイキがいれてたのか?」
タローはそのソウルパッチをシドーに渡す。
「おれが使うのか?」
「ワン」
肯定するように吠えるタロー。
「よく分からないけど。ダイキと先生が作ったもんだ、それをお前が渡してくれた。ならきっと間違いない。どうせ何もしなくてもおれは消えちまうからな」
シドーは自分の胸にソウルパッチを当てた。ソウルパッチは光を放つ。
「くぅん」
目の光が点滅するタローはシドーの顔を金属製の舌で舐める。
「ありがとうなタロー」
シドーはタローを撫でて目を閉じた。
「待て!」
後ろから追いかけたイヴはヴァ―リを部屋に追い詰める、部屋は窓もなく逃げ場はない。イヴはシドーから渡された銃を向ける。
「その銃、そうか予備の弾倉を持っていたのを忘れていた。どうも舞い上がっているようですね」
ヴァ―リがゆっくりと振り向く。
「停止コードを言え!今ならまだ間に合う!」
「いう訳ないでしょう?それよりも良いんですか?彼の事」
ヴァ―リがそう言ってダイキに指を差す、するとダイキの胸部分が光を放つ。
「まさかッ!このソウルパッチは……」
服で隠れて気づかなかった、ソウルパッチがダイキの胸に張りつけられていた。
「……お姉ちゃん?」
目を覚ましたダイキだったが、すぐにまた目を閉じてしまう。
「ダイキ!」
叫ぶイヴ、その隙をついてヴァ―リはイヴを押しのけて部屋の外に出る。
「さて、それでは博士にも眠って貰いましょうか」
「眠る?」
「お忘れですか?兵器開発とは少し離れた研究でしたからね」
ヴァ―リは部屋の外にあるスイッチに手を伸ばす。
「まさか!」
イヴが気付いた時にはもう遅かった。周囲に取り付けられたノズルから大量の冷気が放たれる。
「ははは、ハハハハハッ!そうだコールドスリープだ!」
血を噴き出しながらヴァ―リは笑う。
「部屋を少し改装させて貰いましたよ。この研究はあなた主体のものではないからどうでもいいと脳から消去してましたか?私と他の研究員で作ったもの。まあその共同開発者も今頃はグレイボットの標的となっているでしょうがね」
邪魔者を排除できた喜びに浸るヴァ―リ。
「どうだ、貴様ら天才であっても弱点をついてしまえば私にだってこれぐらい出来るんだ!……がはっ!」
彼の傷口から大量の血が出る。
「もう長くはもたないな。早速このソウルパッチを使わせて貰おうか」
ヴァ―リはソウルパッチを取り出す。
「君の身体を頂くよ、ダイキくん」
「これが過去のログを漁って見つけた音声や映像を組み合わせて作った過去のお話」
「こんな事が」
映像をみていたシドーは拳を握りしめてそう言った。
「男性の大量消失を生き延びた者はその遺伝子特定から外れた者という事なのか」
「まだそのあたりのシステムが精密に作られて無いからね。女性でも被害は出ているから、逆に男性も3万人以上は生き残っている、完全な消失には至らなかった」
キビの発言にイヴが頷く。
「グレイボットはまだ、その空気中に漂ってたりするのですか?」
「それはないよ。一度作動すると消滅するから」
ウルルが不安げにきくもイヴは首を振る。
「でもなんで男性が標的に?」
「簡単だよ、数が減っても雌がいるならまた増やせるからさ。ってあまり言い方が良くなかったね。でも自然界の動物なんかをみればすぐに分かる事さ、もともと人間がレアなんだよこんなに雄雌の比率が半々な種族は」
シャーロットの質問に答えるイヴ。
「奴は計画が上手く行かなかったときに備えていた。だからユキチカの遺伝子情報を事前に入れて彼の身体は無事に済むようにしていた。まあ奴の計画ではそれからユキチカの天才的な頭脳を使って色々悪さをしてやろうと思ってたんだろうけど当てが外れた。ざまあみろって感じだよ」
イヴは嫌味な笑いをみせる。
「イヴさんは?」
「私は見ての通りコールドスリープされて、後々ヴァ―リに解凍された。そうしないと奴だけでここまでの技術開発は出来なかったからね。でも解凍後の私は記憶に障害が出ちゃって、そこに付け込まれた。色々な研究に加担してしまったよ」
「私が目覚めるまでの間に奴はウルティメイト社を設立、そこで研究していたものを利用してアンドロイドを作った。そこからは君たちが知るような歴史どおりだ」
「ウルティメイト社が現れてアンドロイドが急速に普及し崩壊しかけてた人間のインフラを再構築した。そしてこの世界はあの事件が起きた頃よりもさらに発展した社会に成長……って感じですか?」
シャーロットがそう言うとイヴが頷く。
「そうそうそれ。思いっきり学校の教科書がウルティメイトを持ち上げてる奴」
「それでヴァ―リの目的は」
今度はシドーが質問する。
「今度こそ全人類を滅ぼすつもりだよ。奴にとって不要だと思う旧人類って言った方が分かり易いかな」
イヴがグレイボットの画像を見せる。
「アップグレードしたグレイボットを再度世界に散布してね」
「旧人類ってどうやって判別されるんですか?その興味本位で聞きたいんですが」
シャーロットが手を上げて質問する。
「まあ大方遺伝子だろうね。ウルティメイトには世界中の人間の遺伝子サンプルが集まるからね。ほら、男性の定期検査で提出してもらってる精液とか女性でも血液検査とかするでしょ?」
確かにイヴのいう通り、ウルティメイトは業界問わずテクノロジーを必要とする分野ならどこにでも入り込んでいる。世界中の遺伝子情報をかき集めるなど訳ないのかもしれない。
「そこから優秀な人間が持つ特有の遺伝子を特定するんじゃないかな。何もかもが遺伝子で決まるって言うのは聞いていて気分の良い話じゃないけど、意外と核心をついてたりするんだよね」
ため息をつくイヴ。
「ただアイツはイカれてるから、私の推測があたるかは分からないけど。もし私が奴と同じ立場ならそうするって感じ」
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