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怪異19『鏡の中のミセリア』
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その日、僕はドラコニス大陸の北西部。
ドラーテム王国領にある、不毛の荒野・サエウム荒原にいた。
砂嵐にスタックして動けなくなっているところを、たまたま通りかかったキャラバン隊の馬車に乗せてもらい、カルラオアシスに到着することができた。
命の恩人でもあるキャラバン隊の商人・エルネスタさんに食事をおごる約束をした。
そしてカルラオアシスでも老舗だという酒場・クライネヒュッテで食事をすることにしたんだ。
「ルークスさんって、怖い話ってのを集めてるんでしょ?」
「えぇ? なんでご存じなんですか?」
「噂で聞いたことあるもの……話すと、何かおごってくれるんでしょ?」
「そんな噂になってるんですか……恐縮です」
「商人やってるとね。情報が入ってくるから……いろいろとね」
「そういうもんなんですね」
「どっちにしろ、今日は僕のおごりですから、気にせずに……」
そういうと、エルネスタさんは、ニヤリを妖艶な笑みを浮かべると、僕の耳元でささやいた。
「あなたになら、とっておきの話をしてあげる」
そして静かに語り始めた。
----------
幼い頃は、一人でいる事の多い子供だったの。
商家で育ったせいもあるから、親は急がしくてね。
実家は古い家で、周りには歳の近い子供もいなかったから、その頃の私は、一人遊びを見つけるのが日課になっていたのよ。
商家だったおかげで、家の裏には蔵があって、いろいろと変なモノがあったのよ。
ダンジョンから発掘されたアーキテクチャーや、珍しい献上品なんかもあったと思うわ。
ほとんどが古い道具や小物だったけど、遊ぶものを見つけようと、毎日、蔵に入り込んでは、そこにある品々をオモチャ代わりにして遊んだものよ。
ある日、そこで変わった鏡を見つけたのよ。
見たこともない、装飾が施された鏡台でね。
かなり古そうなものだったけど、サビや曇りも無く、とても奇麗だったわ。
その鏡に映る自分を見つめていたら……私の背後に見知らぬ女の子が映っていたのよ。
「え?」
って、驚いて振りむいたけど、もちろん私の後ろに女の子など居なかった。
でも、鏡の中にはずっといるの。
私は鏡の中だけにいるんだって思ったわ。
不思議には思ったけど、何故か怖くは無かったのよ。
色白で髪の長い女の子。
その子は鏡に写る私の肩ごしにこっちを見て、ニッコリと笑うと、
「こんにちは」
って挨拶をしてきたのよ。
その日は、怖くて、逃げちゃったけど……気になって見に行ったの。
次の日も、その次の日も……。
その子は、いつでも私に笑顔で話しかけてくれたわ。
いつしか私たちは、話を交わすようになった。
彼女は、自分のことをミセリアって名乗った。
両親は、納戸に籠り鏡に向かって何ごとか喋っている私を見て気味悪く思ったみたいだけど、小さい頃にはありがちな、空想の友達って思ったみたい。
私から鏡を取り上げるような事はしなかった。
それに、大人達にはミセリアは見えなかったみたい。
ある日、私はミセリアに
「友達がいないんだ」
って、日頃の悩みを打ち明けると、
「ワタシがトモダチになってあげる……」
と、言ってくれたの。
ずっと友達がいなかった私にとって、鏡の中の友達でも、友達ができたということがとても嬉しかった。
でも、彼女と友達になるには、ひとつ問題があるでしょ?
「でも鏡ごしだから……一緒に遊べないね」
するとミセリアは、ニッコリと笑みを浮かべて
「こっちへくれば、アソべるよ」
そう言ってたのです。
「でも、どうやって、そっちへ行ったらいいの?」
「オシエてあげる……」
でも、不意に父と母から『出かける時は誰かに相談しなさい』と言い聞かされていたことを思い出したので、
「じゃぁ、お母さんに聞いてくるね」
と答えるとミセリアは、急に、いままで見せたことの無い怖い顔で、
「ダメっ!」
初めて聞く強い語気にびっくりしたわ。
「このことはダレにもはなしてはいけない。はなしたら、もうあえなくなる」
「それは嫌だけど……」
そうは言ってみたものの、親の言いつけを破るのも怖かった私は黙り込んでしまったの。
するとミセリアは、「じゃあ明日はこっちで遊ぼうね?」と、いつもの笑顔で微笑みかけてきたから、私は「うん」と返事をしたのよ。
「やくそくだよ」
ミセリアは微笑んで、鏡の向こう側にベタリと手のひらをくっつけてきたの。
私はその手のひらを合わせるように、鏡に手を付けたわ。
ほんの少しだけ暖かいような気がした。
不思議と、その夜は眠れなかった。
結局、両親にはミセリアのことを話せなかったけど、ベッドに入って暗闇の中でじっとしていると、いろんな疑問が湧いてくるのよ。
鏡の中に、どうやって入るのか?
ミセリアは、どうしてこっちに来ないんだろう?
鏡の中から、こっちへ帰ってこれるのだろうか?
そんな事を考えるうちに、あのミセリアの怖い表情が脳裏に浮かぶのよ。
それが、私の不安をかきたてたの。
いつしか、ミセリアのことが怖く感じてしまっていたのよね。
だから、次の日、私はミセリアに会いに行かなかった。
次の日も、その次の日も……。
結局、あの日以来、私は蔵に入らなかった。
月日が経ち、私は商人となり、実家を出て、今のキャラバンの仕事を始めたわ。
ドラコニス大陸中を飛び回って実家に帰ることもなくなっていたから、私はミセリアのことなんか、すっかり忘れていたわ。
仕事も軌道にのった頃、父と母の勧めもあって、とある貴族のご子息との縁談が決まったのよ。
婚儀も順調に進んで、子供もできたわ。
出産も近づいたこともあって、久しぶりに実家に帰ったの。
その日の夜の事よ。
ふいに目が覚めて、気が付くと蔵の前に立っていたわ。
「あれ? なんで、こんなところにいるんだろう?」
って思ったら……蔵の扉がすーっと開いた……。
もう……全身が総毛立った。
だって開いた場所に、あの鏡台が置いてあったの。
こっちを向いてね。
『見てはいけない』って本能的に思ったけど……もう鏡から目を離すことが出来なかった。
ミセリアは、あの頃と変わらない姿のまま、鏡の中から私のことを見ていたわ。
懐かしい、あの少女の笑顔でね。
ふと気がつくと、私は布団の中で朝を迎えていたわ。
夢? そう思ったけど、実家にいるのが何となく嫌になった私は、生まれてくる子供の、おくるみを買いに行くって理由をつけて、市場へと向かったわ。
私は、あてもなく市場をぶらぶらとしていたの。
すると、ふいに売られている鏡が目に飛び込んできたのよ。
「あっ!」
思わず声が出たわ。
だって、鏡の中、私の背後には、ミセリアの姿があったんですもの。
もちろん、驚いて後ろを振り向いてみたけど、後ろには誰もいなかったわ。
でも、鏡に目を戻すと、そこにミセリアはずっといたわ。
その店に並ぶ、全ての鏡に、ミセリアは映っていた……。
そして鏡の中から、じっと私を見つめていた。
すると、背後から声が聞こえてきたのよ。
「どうしてきてくれなかったの? まっていたのに……」
「ごめんなさい」
思わず、答えた私に、ミセリアは、
「ねえ、いまからこっちでアソぼう」
「ダメ!」
私は思わず大声で叫んだわよ。
通りの人たちが、みんなこっちを見てたけど、私は動けなかった。
「ごめんなさい。ミセリア……私は、もうそっちへは行けないの。結婚もしたし、もうすぐ子供も生まれるから……」
「そう……オトナになっちゃったんだね。もうアソべないんだね」
ミセリアは少し寂しそうにそう言ったわ。
でも、彼女は、すぐにニコリを微笑むと、
「かわりに、そのことアソぶ」
「え?」
次の瞬間、ミセリアは消えていた。
そして……それきり彼女は、私の前に現れなかった。
一週間後、おなかの子が流産した……。
その後、夫とは離別して……仕事に復帰したわ。
もう、二度と子供をつくるつもりはないの。
----------
「ねぇ? あなたなら、ミセリアが何者か知ってるんじゃない?」
「いや……僕にはわからないですね……」
「そう……」
「でも、なんでそう思ったんですか?」
「だって、あなたにも、ミセリアと同じ種類のモノがくっついてるわよ」
エルネスタさんは、ジッと僕の背後を睨みつけていた。
ドラーテム王国領にある、不毛の荒野・サエウム荒原にいた。
砂嵐にスタックして動けなくなっているところを、たまたま通りかかったキャラバン隊の馬車に乗せてもらい、カルラオアシスに到着することができた。
命の恩人でもあるキャラバン隊の商人・エルネスタさんに食事をおごる約束をした。
そしてカルラオアシスでも老舗だという酒場・クライネヒュッテで食事をすることにしたんだ。
「ルークスさんって、怖い話ってのを集めてるんでしょ?」
「えぇ? なんでご存じなんですか?」
「噂で聞いたことあるもの……話すと、何かおごってくれるんでしょ?」
「そんな噂になってるんですか……恐縮です」
「商人やってるとね。情報が入ってくるから……いろいろとね」
「そういうもんなんですね」
「どっちにしろ、今日は僕のおごりですから、気にせずに……」
そういうと、エルネスタさんは、ニヤリを妖艶な笑みを浮かべると、僕の耳元でささやいた。
「あなたになら、とっておきの話をしてあげる」
そして静かに語り始めた。
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幼い頃は、一人でいる事の多い子供だったの。
商家で育ったせいもあるから、親は急がしくてね。
実家は古い家で、周りには歳の近い子供もいなかったから、その頃の私は、一人遊びを見つけるのが日課になっていたのよ。
商家だったおかげで、家の裏には蔵があって、いろいろと変なモノがあったのよ。
ダンジョンから発掘されたアーキテクチャーや、珍しい献上品なんかもあったと思うわ。
ほとんどが古い道具や小物だったけど、遊ぶものを見つけようと、毎日、蔵に入り込んでは、そこにある品々をオモチャ代わりにして遊んだものよ。
ある日、そこで変わった鏡を見つけたのよ。
見たこともない、装飾が施された鏡台でね。
かなり古そうなものだったけど、サビや曇りも無く、とても奇麗だったわ。
その鏡に映る自分を見つめていたら……私の背後に見知らぬ女の子が映っていたのよ。
「え?」
って、驚いて振りむいたけど、もちろん私の後ろに女の子など居なかった。
でも、鏡の中にはずっといるの。
私は鏡の中だけにいるんだって思ったわ。
不思議には思ったけど、何故か怖くは無かったのよ。
色白で髪の長い女の子。
その子は鏡に写る私の肩ごしにこっちを見て、ニッコリと笑うと、
「こんにちは」
って挨拶をしてきたのよ。
その日は、怖くて、逃げちゃったけど……気になって見に行ったの。
次の日も、その次の日も……。
その子は、いつでも私に笑顔で話しかけてくれたわ。
いつしか私たちは、話を交わすようになった。
彼女は、自分のことをミセリアって名乗った。
両親は、納戸に籠り鏡に向かって何ごとか喋っている私を見て気味悪く思ったみたいだけど、小さい頃にはありがちな、空想の友達って思ったみたい。
私から鏡を取り上げるような事はしなかった。
それに、大人達にはミセリアは見えなかったみたい。
ある日、私はミセリアに
「友達がいないんだ」
って、日頃の悩みを打ち明けると、
「ワタシがトモダチになってあげる……」
と、言ってくれたの。
ずっと友達がいなかった私にとって、鏡の中の友達でも、友達ができたということがとても嬉しかった。
でも、彼女と友達になるには、ひとつ問題があるでしょ?
「でも鏡ごしだから……一緒に遊べないね」
するとミセリアは、ニッコリと笑みを浮かべて
「こっちへくれば、アソべるよ」
そう言ってたのです。
「でも、どうやって、そっちへ行ったらいいの?」
「オシエてあげる……」
でも、不意に父と母から『出かける時は誰かに相談しなさい』と言い聞かされていたことを思い出したので、
「じゃぁ、お母さんに聞いてくるね」
と答えるとミセリアは、急に、いままで見せたことの無い怖い顔で、
「ダメっ!」
初めて聞く強い語気にびっくりしたわ。
「このことはダレにもはなしてはいけない。はなしたら、もうあえなくなる」
「それは嫌だけど……」
そうは言ってみたものの、親の言いつけを破るのも怖かった私は黙り込んでしまったの。
するとミセリアは、「じゃあ明日はこっちで遊ぼうね?」と、いつもの笑顔で微笑みかけてきたから、私は「うん」と返事をしたのよ。
「やくそくだよ」
ミセリアは微笑んで、鏡の向こう側にベタリと手のひらをくっつけてきたの。
私はその手のひらを合わせるように、鏡に手を付けたわ。
ほんの少しだけ暖かいような気がした。
不思議と、その夜は眠れなかった。
結局、両親にはミセリアのことを話せなかったけど、ベッドに入って暗闇の中でじっとしていると、いろんな疑問が湧いてくるのよ。
鏡の中に、どうやって入るのか?
ミセリアは、どうしてこっちに来ないんだろう?
鏡の中から、こっちへ帰ってこれるのだろうか?
そんな事を考えるうちに、あのミセリアの怖い表情が脳裏に浮かぶのよ。
それが、私の不安をかきたてたの。
いつしか、ミセリアのことが怖く感じてしまっていたのよね。
だから、次の日、私はミセリアに会いに行かなかった。
次の日も、その次の日も……。
結局、あの日以来、私は蔵に入らなかった。
月日が経ち、私は商人となり、実家を出て、今のキャラバンの仕事を始めたわ。
ドラコニス大陸中を飛び回って実家に帰ることもなくなっていたから、私はミセリアのことなんか、すっかり忘れていたわ。
仕事も軌道にのった頃、父と母の勧めもあって、とある貴族のご子息との縁談が決まったのよ。
婚儀も順調に進んで、子供もできたわ。
出産も近づいたこともあって、久しぶりに実家に帰ったの。
その日の夜の事よ。
ふいに目が覚めて、気が付くと蔵の前に立っていたわ。
「あれ? なんで、こんなところにいるんだろう?」
って思ったら……蔵の扉がすーっと開いた……。
もう……全身が総毛立った。
だって開いた場所に、あの鏡台が置いてあったの。
こっちを向いてね。
『見てはいけない』って本能的に思ったけど……もう鏡から目を離すことが出来なかった。
ミセリアは、あの頃と変わらない姿のまま、鏡の中から私のことを見ていたわ。
懐かしい、あの少女の笑顔でね。
ふと気がつくと、私は布団の中で朝を迎えていたわ。
夢? そう思ったけど、実家にいるのが何となく嫌になった私は、生まれてくる子供の、おくるみを買いに行くって理由をつけて、市場へと向かったわ。
私は、あてもなく市場をぶらぶらとしていたの。
すると、ふいに売られている鏡が目に飛び込んできたのよ。
「あっ!」
思わず声が出たわ。
だって、鏡の中、私の背後には、ミセリアの姿があったんですもの。
もちろん、驚いて後ろを振り向いてみたけど、後ろには誰もいなかったわ。
でも、鏡に目を戻すと、そこにミセリアはずっといたわ。
その店に並ぶ、全ての鏡に、ミセリアは映っていた……。
そして鏡の中から、じっと私を見つめていた。
すると、背後から声が聞こえてきたのよ。
「どうしてきてくれなかったの? まっていたのに……」
「ごめんなさい」
思わず、答えた私に、ミセリアは、
「ねえ、いまからこっちでアソぼう」
「ダメ!」
私は思わず大声で叫んだわよ。
通りの人たちが、みんなこっちを見てたけど、私は動けなかった。
「ごめんなさい。ミセリア……私は、もうそっちへは行けないの。結婚もしたし、もうすぐ子供も生まれるから……」
「そう……オトナになっちゃったんだね。もうアソべないんだね」
ミセリアは少し寂しそうにそう言ったわ。
でも、彼女は、すぐにニコリを微笑むと、
「かわりに、そのことアソぶ」
「え?」
次の瞬間、ミセリアは消えていた。
そして……それきり彼女は、私の前に現れなかった。
一週間後、おなかの子が流産した……。
その後、夫とは離別して……仕事に復帰したわ。
もう、二度と子供をつくるつもりはないの。
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「ねぇ? あなたなら、ミセリアが何者か知ってるんじゃない?」
「いや……僕にはわからないですね……」
「そう……」
「でも、なんでそう思ったんですか?」
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