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4 燈籠祭りの夜

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「僕は『成宮』の遠縁で、そのせいもあって小さな頃から、あの家には時々出入りしてたんだ……椿の遊び相手として呼んでもらえていたのは、かろうじて『成宮』の血筋だってことと、椿と一番年が近かったから以外の理由はないだろうけどね……」
「そうなんですか?」
「ああ。何よりやっぱり『成宮』は特別だから……その跡取りで一人娘の椿に、近づける者は厳選されるし、僕は運がよかっただけだよ……」
「そう……なんだ……」

 ずいぶんと時代錯誤な話だと思いながらも、それを非難したり、異を唱えたりすることは私にもできなかった。
 あのお屋敷と、椿ちゃんのお父さんを目の当たりにしたせいかもしれない。

「なんとか椿とつりあう人間になれないかと、猛勉強して都会の大学へ行ったけど、『成宮』のお嬢さまに何かを告げられる人間になるには、やっぱりまだまだ時間が足りないな……」

 誠さんは懐からさっきの小箱を出し、寂しそうな目で見つめる。

「来年の春には法律関係の仕事も始めるし、資格試験も受けるけど、なんとか認めてもらえる人間になるには、もうしばらくかかる……その間に椿は、『成宮』を継ぐのにふさわしい男と見合いして、結婚してるだろう……」
「そんな! だって椿ちゃんは……!」

 私は反論の声を上げたが、誠さんにきっぱりと首を振られた。

「いいんだ。それは僕だって、椿だって……子どもの頃からよくわかっていることなんだから」

 あの立派な『成宮』に生まれたから、椿ちゃんは本人の気持ちに関係なく、将来のことが決まってしまうというのだろうか――私には、やっぱりそれが納得いかず、大きな声を上げる。

「でも!」

 その時、私たちが立っている場所へ向かい、懸命に駆けてくる人影が見えた。

(あれ……?)

 人波を必死にかきわけ、足をもつれさせながら走ってくる。
 若い女性のように見えたので、一瞬椿ちゃんかもと思ったが、そうではない。
 小豆色の着物に白いエプロンを付け、髪を首のうしろでお団子にまとめたあの人は――。

(百合さん?)

 私が首を傾げた時、ちょうど私たちの姿が見えたらしく、その人が大きく伸び上がって手を振った。

「誠さま! 和奏お嬢さま!」

(いや、私は椿ちゃんと友だちなだけで、『お嬢さま』なんて呼ばれるような人間じゃ……)

 初対面の時に百合さんが言っていたのと同じような文言が、私の頭には浮かんでいた。
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