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6 夢見た未来

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 誠さんも椿ちゃんの絵を描いていたが、身近な人を描くというのはどういう気持ちなのだろう。
 私自身は、風景や静物の絵しか描かないので、父や誠さんにぜひ訊いてみたいところだ。

 二人の話を父としてみたくて、私は慎重に言葉を選びながら、父に話した。

「私、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会ったよ。お父さんが描いたような夢の中で……」

 実際の私の感覚としては、二人との邂逅は夢よりもっとリアルなものだったが、あの不思議な体験を語るには、『夢』で片づけるしかないだろうという結論に至ったのだった。

「お祖父ちゃんは、すごく絵がうまくて、手先も器用な穏やかな人で、お祖母ちゃんのことが大好きだった……お祖母ちゃんは、泣いたり笑ったり忙しくて、でもそんなところがとっても可愛くて、やっぱりお祖父ちゃんのことが大好きだった……」
「おお! 当たってる!」

 父は手を叩いて笑いながら、私の顔を見た。

「でも和奏……あの燈籠の絵は、夢じゃなくて、現実なんだよ……」
「え……?」

 驚いて目を瞬かせる私に、父は思いもよらない話をしてくれる。

「和奏が五歳の夏だったかな……この町へ家族で帰省して、この家に泊ったんだ。その時の絵だ。あの頃はもうすでに俺は本家に出入り禁止だったから、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんもわざわざ、本家からここへ泊まりに来てくれて……」
「本家?」

 首を傾げる私に、父は頷いた。

「ああ、『成宮家本家』。お前がこの間ちらりと聞いた『成宮』だよ……俺の実家……」
 やはりそうだったのだと、私も父へ頷き返した。
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