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第二章 秘密の任務と憧れの騎士
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その日の夕食の席も、父と母と共に、まるで当たり前のようにアウレディオが同席していた。
「それじゃあ今日は、もうかなり親密になったのね?」
昨日とはまた違うパイを切り分けながら、母は嬉しそうにニコニコ笑う。
「だったらあとは、彼がミカエルかどうかを確かめて、エミリアがキスするだけね」
鈴を転がすような声に、エミリアとアウレディオの手が、同時にぴたりと止まった。
「「確かめる方法があるの?」」
問い質す声まで重なってしまう。
母はきょとんと、いかにも不思議そうに翠の瞳を瞬いた。
「もちろんあるわよ。なあに……? ひょっとして私ったら言ってなかった?」
「言ってないわよ!」
今にも掴みかからんばかりの勢いのエミリアを、アウレディオが手で制した。
「何? その方法って……」
母はちょっとホッとしたように、エミリアからアウレディオへと視線を移す。
「うん。ミカエルは背中の羽と羽の間、つまり肩甲骨の間ぐらいに赤い痣があるの。星の形に似た珍しい痣だから、きっとすぐにわかると思う……」
頭を抱えたまま微動だにしないエミリアと、ふうっと大きな溜め息をついたアウレディオに向かって、母は最上級の笑顔を向けた。
「目印がなかったら困るでしょう? この人かって思う人に、エミリアが次々とキスしなくちゃいけなくなるものね……どう? これで明日にはどうにかなりそう?」
がばっと顔を上げたエミリアは、声を上げる前にアウレディオの大きな手で口を塞がれてしまった。
おかげで母に強い非難の言葉をぶつけることができない。
その代わり、誰にも聞こえることはない心の中だけで、思いっきり叫ぶ。
(お母さんって本当は、天使の顔をした悪魔なんじゃないの!)
絶対に声に出したつもりはなかったのに、怒りに震えるエミリアの肩を、宥めるようにアウレディオが叩いてくれた。
「どう? 心の準備はできた?」
翌日、城に着いた早々、エミリアは今度はフィオナに問いかけられた。
腕組みしながらアウレディオと何事かを相談した末に、フィオナは、念を押すかのようにエミリアに向かってくり返す。
「もしも人違いだった時のために、時間はなるべく残しておいたほうがいいと思う。いい思い出、もうできたでしょ? もういいよね?」
「……フィオナ?」
(確か昨日は、私の心を労わるような発言をしてくれたような……? それでやっぱり友だちって良いものだと、感動を覚えたような……?)
エミリアが首を捻る間にも、フィオナはアウレディオと二言、三言交わし、頷きあった。
「目印があるなんて良かったじゃない。じゃあ今日中にアウレディオが確認するから、本人だったらさっさとキスしてね、エミリア」
あまりの言い草に、エミリアはぽかんとしてしまう。
フィオナにいったいどんな心境の変化が訪れたのだろう。
しかしその疑問は、エミリアに背を向けながら呟いたフィオナの独り言で、すぐに答えが得られた。
「今日でこの仕事終わりにしないと、明日はもう感謝祭。実際に多くの人出の中で城の警備をするなんて……絶対に嫌」
がっくりとエミリアは脱力した。
「エミリア、どうしたの? オーラの色が濁ってるわよ?」
俯くエミリアの周囲を見回しながら、フィオナはいつものように解説してくれたが、エミリアには反論する気力さえなかった。
(濁りもするわよ……私の昨日の感動を返して。フィオナはやっぱり、フィオナだ……)
昔から変わらない親友の姿を、悲哀の感情でしみじみと再確認しているだけなのに、フィオナは少し眉を寄せながら、思いもかけないことを言い出す。
「エミリア? まさか背中の痣を確認する役も、自分でやりたかったの?」
「そんなわけないでしょうっ!」
エミリアの叫びを、アウレディオが肩を震わせて聞いているのがまた、どうにも腹立たしかった。
「それじゃあ今日は、もうかなり親密になったのね?」
昨日とはまた違うパイを切り分けながら、母は嬉しそうにニコニコ笑う。
「だったらあとは、彼がミカエルかどうかを確かめて、エミリアがキスするだけね」
鈴を転がすような声に、エミリアとアウレディオの手が、同時にぴたりと止まった。
「「確かめる方法があるの?」」
問い質す声まで重なってしまう。
母はきょとんと、いかにも不思議そうに翠の瞳を瞬いた。
「もちろんあるわよ。なあに……? ひょっとして私ったら言ってなかった?」
「言ってないわよ!」
今にも掴みかからんばかりの勢いのエミリアを、アウレディオが手で制した。
「何? その方法って……」
母はちょっとホッとしたように、エミリアからアウレディオへと視線を移す。
「うん。ミカエルは背中の羽と羽の間、つまり肩甲骨の間ぐらいに赤い痣があるの。星の形に似た珍しい痣だから、きっとすぐにわかると思う……」
頭を抱えたまま微動だにしないエミリアと、ふうっと大きな溜め息をついたアウレディオに向かって、母は最上級の笑顔を向けた。
「目印がなかったら困るでしょう? この人かって思う人に、エミリアが次々とキスしなくちゃいけなくなるものね……どう? これで明日にはどうにかなりそう?」
がばっと顔を上げたエミリアは、声を上げる前にアウレディオの大きな手で口を塞がれてしまった。
おかげで母に強い非難の言葉をぶつけることができない。
その代わり、誰にも聞こえることはない心の中だけで、思いっきり叫ぶ。
(お母さんって本当は、天使の顔をした悪魔なんじゃないの!)
絶対に声に出したつもりはなかったのに、怒りに震えるエミリアの肩を、宥めるようにアウレディオが叩いてくれた。
「どう? 心の準備はできた?」
翌日、城に着いた早々、エミリアは今度はフィオナに問いかけられた。
腕組みしながらアウレディオと何事かを相談した末に、フィオナは、念を押すかのようにエミリアに向かってくり返す。
「もしも人違いだった時のために、時間はなるべく残しておいたほうがいいと思う。いい思い出、もうできたでしょ? もういいよね?」
「……フィオナ?」
(確か昨日は、私の心を労わるような発言をしてくれたような……? それでやっぱり友だちって良いものだと、感動を覚えたような……?)
エミリアが首を捻る間にも、フィオナはアウレディオと二言、三言交わし、頷きあった。
「目印があるなんて良かったじゃない。じゃあ今日中にアウレディオが確認するから、本人だったらさっさとキスしてね、エミリア」
あまりの言い草に、エミリアはぽかんとしてしまう。
フィオナにいったいどんな心境の変化が訪れたのだろう。
しかしその疑問は、エミリアに背を向けながら呟いたフィオナの独り言で、すぐに答えが得られた。
「今日でこの仕事終わりにしないと、明日はもう感謝祭。実際に多くの人出の中で城の警備をするなんて……絶対に嫌」
がっくりとエミリアは脱力した。
「エミリア、どうしたの? オーラの色が濁ってるわよ?」
俯くエミリアの周囲を見回しながら、フィオナはいつものように解説してくれたが、エミリアには反論する気力さえなかった。
(濁りもするわよ……私の昨日の感動を返して。フィオナはやっぱり、フィオナだ……)
昔から変わらない親友の姿を、悲哀の感情でしみじみと再確認しているだけなのに、フィオナは少し眉を寄せながら、思いもかけないことを言い出す。
「エミリア? まさか背中の痣を確認する役も、自分でやりたかったの?」
「そんなわけないでしょうっ!」
エミリアの叫びを、アウレディオが肩を震わせて聞いているのがまた、どうにも腹立たしかった。
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