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転校初日のリフト
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私、吉沢姫花は中学3年生の時に出場したクラシックバレエの国際コンクールで優勝し海外のバレエ学校に留学していた。
将来を期待される若手バレリーナ…だった。
留学先での学校公演の日、私は回転技を失敗し舞台上で派手に転んでしまった。
ただ転んだだけでなく、変に踏み留まろうとしたせいか膝に変な圧力を加えてしまい稚拙骨折、関節の脱臼、足首の捻挫という大怪我を負ってしまったのだ。
怪我はある程度治ったが、医師に本格的にバレエを踊るにはまだ何年か掛かるといわれ日本に帰ってきた。
でも私はもうバレエを踊るのが怖い。転んだ感覚も、舞台で転んだ私を呆れたように見つめる観客の顔も思い出すと血の気が引いていく。
私はきっともう踊れない。
しばらく休んでいるうちに、体重も増えてしまった。
一般的には標準体型の範囲だがバレエを踊るには重たく、特に男性と組んだら負担をかけてしまう体型になってしまった。
でもバレエが好きな気持ちは捨てられない。
そんな私を見かねたバレエ学校の先生や両親はダンサーではなく指導者になる道があることを教えてくれた。
そんなこんなで私はこの春、高校2年生から一流バレエダンサーの育成のために設立された『洋舞芸術学園』のバレエ教師養成コースというバレエの指導者を目指すクラスに編入することになった。
「ここが洋舞芸術学園…」
校門をくぐると校庭…というよりは庭園のような綺麗な校内が目に入る。
全国からダンサーや指導者、振付家の卵を集まる全寮制の学校と聞いたがとても綺麗で落ち着いた雰囲気の学校だ。
周りをキョロキョロと見回しながらまるで西洋のお城を小さくしたような校舎に入った。
この学校では午前中は普通の高校のようにクラスごとに一般科目の授業を受け、午後に自分が所属するコースの講義やレッスンを受けるシステムらしい。
私のクラスは二階にある2年A組と聞いていたので階段を登っていると…
転校初日だから緊張していたのだろうか?
足がもつれて階段を踏み外してしまった。
「キャッ!!!」
階段の真ん中辺りから滑ったせいか、かなりの高さがある。
あまりの恐怖に目を瞑り少しでも痛くない体勢になろうと身を縮めると…
腰のあたりを優しいがしっかりとした手つきで支えられ、まるで自分の体重が無くなったかのようにふわりと着地した。
この感覚…海外のバレエ学校のパドドゥクラスで経験がある。
男性ダンサーが女性をリフトといい、持ち上げる動きと同じだ。
「…え?」
覚悟していた痛みは全くなく恐る恐る目を開けると長身の男の子が立っていた。
この男の子が落ちる私を受け止めてくれた…のだろうか?
「ごめんなさっ…あ、ありが…」
お礼を言いかけた時、男の子は半笑いになり
「お前…見た目よりどっしりしてるな。」
「…ふぇ?」
「それじゃパドドゥで持ち上げて貰えないぞ~じゃっ!」
男の子はそれだけ言うと走り去って言ってしまった。
お礼言い忘れちゃった…
でも、どっしりしてるとかパドドゥで持ち上げてもらえないとか…私が重いってことじゃない!?
初対面なのに…失礼な!
「でも…かっこいい人だったな…」
身長が高くて端正な顔で、それにリフトが上手な…ダンサー志望の生徒だと思う。
黙っていたら王子様みたいな人だった。
今度こそ気をつけて階段を登って2年A組に入ると優しそうな女性の担任が迎えてくれた。
「あら!転校生の吉沢さんね!早速クラスの皆に紹介するわね!」
先生に手を引かれて教壇の前に立った。
「初めまして…吉沢姫花です!よろしくお願いします!」
クラスの雰囲気は温かく、皆が拍手をしてくれた。
…何か1人寝てる人いるけど。
「吉沢さんはあそこの席に…こら!高嶺くん起きなさーい!」
先生が声を掛けると机に突っ伏して寝ていた生徒が起きた。
「んん…今寝たばっか…」
顔を上げた高嶺と呼ばれた生徒は…さっき私を助けてくれた男の子だった。
「あっ!お前はさっきのどっしり女!」
私を見るなり大きな声で叫んだ。皆が少しザワつく
「あら!2人は知り合いなの?」
先生が私に聞く。
「いえ…さっき転んだところを助けて貰って…」
「高嶺くん優しいじゃないの。でも女性に失礼なあだ名を付けるのはスマートじゃないわよ。」
先生は優しくたしなめると私に席に着くように促した。
「じゃあホームルームはこれで終わります。1時間目は数学だから先生が来るまで静かにね。」
私が着席したのを確認すると担任の先生は教室から出て行った。
「へぇ…どっしり女、お前転校生だったんだ」
隣に座った私の顔をまじまじと見ながら言ってきた。
「ちょ!その変なあだ名やめてよ!」
先生に注意されてもなお失礼な呼び方をする高嶺くんについムキになってしまった。
「だってお前…姫花だっけ?姫って体格じゃねぇだろ…まぁ胸は立派みたいだけど?」
私の顔を見ていた目線が体へと移って行った。
「それはセクハラでしょ!変態!!!」
男の子にそんなことを言われたのは初めてだ。恥ずかしさと悔しさで顔が熱くなるのを感じる。
しばらく考えるような素振りをしていた高嶺くんがぼそっと呟いた。
「じゃあプリンだな。」
「は?」
プリン?何の話かと思い聞き返した。
「姫花の姫はプリンセスだろ?」
なんかバカにされてる気がする…
「そうだけど…」
「まだプリンセス未満ってことでプリンちゃんな」
「ちょっ!何よそれっ!!!」
なんて失礼な奴なんだ。
我慢ならなくて強く言い返そうとした瞬間、高嶺くんはニヤッと笑うと、
「胸もプリンちゃんだし♪」
「ちょっ!!!変態!!!」
言いたいことだけ言うと教室から出ていってしまった。
これから授業なのにどこいったんだろう…
午前中の授業は数学、国語、社会が続いたが隣は空席のままだった。
4時間目は総合の時間で担任の先生が担当のようだ。
私がトイレに行ってる間にいつの間にか戻ってきたらしい高嶺は机に突っ伏して寝ていた。
何だか野良猫みたいなヤツだ。
「…おいプリン」
隣から何か聞こえた気がするが…気のせいということにして無視した。
「プリーーーーーン」
わざとらしく伸ばしても無視だ。
「吉沢ぷりーーーーー」
「なによっ!!!ていうか苗字覚えてるんならそっちで呼んでよ!」
思わず反応してしまった。
「担任には今まで授業受けてたことにしといてよ。」
「はぁ?なんで私がサボりに協力するのよ…」
「昼飯奢ってやるからさ」
「はぁ…」
別に奢りに釣られたわけじゃないけど言い合うのが面倒くさくて了承してしまった。
4時間目のチャイムと同時に担任の先生が教室に入ってくるなり
「高嶺くん、今日はちゃんと授業受けてて偉いじゃない」
と声をかける。高嶺くんはサボり常習犯らしい。
「へへっ!まあね~!」
なんて、当の高嶺くんは調子のいいことを言っている。
ホームルームではクラスの学級委員や委員会決めをして終わった。
ちなみに私は文化祭実行委員になった。
まだ4月になったばかりだから私が委員会の仕事に取り組むのはまだまだ先になりそうだ。
授業が終わると同時に私の席の周りに同じクラスの女子が集まり、
「吉沢さん留学してたってほんと?」
「色々話聞きたい!」
「一緒にお昼食べようよ!」
と、声を掛けてくれた。
皆すごくフレンドリーだし優しそうで良かった。
彼女たちとお昼を食べに行こうと席を立つ準備をしているといきなり隣の席の高嶺に腕を掴まれた。
「えっ!?何?」
痛くはなかったが驚いて大きめの声を上げてしまう。
「俺がメシ奢るって言ったじゃん!」
そう言うと掴んだ腕を引っ張って強引に教室から連れ出されてしまった。
周りに集まっていた女子達が苦笑いをしつつ哀れみの目で私を見送っている。
まるで「厄介なヤツに気に入られちゃって…可哀想に…」とでも言いたげだ。
高嶺くんは私の手を掴んだまま食堂へ連れていく気らしく、傍から見たら手を繋いでるようだ。
…実際は引っ張られれているだけなのだが…
「ちょっ…手放してよ!」
「えー放したら逃げそうだしー」
通りすがりの女子達がチラチラ見ているが全く意に介していないようだ。
「ほら。ここが食堂!」
初めて来た食堂はガラス張りで日光が差し込むオシャレなカフェテラスのようだった。
「すごい、素敵…」
思わず口にすると
「え?俺が?」
高嶺くんがニヤニヤしながら顔を覗き込んできた。
「ちがっ…食堂の話!」
とりあえず空いている席に荷物を置きメニューを見に行くことにした。
舞踊系に力を入れている学校だけあってボリュームの多いメニューに偏らず健康やカロリーに配慮したものや軽食もある。
大盛りのカレーやハンバーグも気になるけど…そんなのを頼んだらまたどっしりなんてからかわれるんじゃ…
私は泣く泣く小ぶりなサンドイッチの食券を購入し、カウンターのおばさんに渡した。
「あれ?俺が奢るって言ったじゃん」
「別にいいよ。奢って欲しいわけじゃないから。」
こんな奴に借りを作ってたまるか。
高嶺くんは少し考えるような顔をすると自分の分の食券を買いだした。
私のサンドイッチができあがり、先に席に戻って座る。
無理矢理連れてこられたとはいえ一緒に来たのだから高嶺くんが戻るまで食べるのを待つことにした。
「おまたせ~」
大盛りのカレーが乗ったトレーを持ってやって来た高嶺くんは向かいに座ると私の前に何かを置く。
「…これなに?」
「プリンだよ。」
確かに美味しそうな黄色いプリンだ。
「プリンちゃんにプリン奢ってあげるよ。」
「だからその呼び方っ…」
「まあまあ、ここのプリン手作りで美味しいから食べてみなって!」
私の抵抗なんてガン無視でニコニコとプリンを差し出す。
「あ…ありがと…」
プリンを渡してきた高嶺くんの笑顔はまるで王子様のように爽やかで何だか恥ずかしくなってくる。
「ところでプリンちゃんは何で2年生から転校?っていうか編入してきたの?」
私立の高校、しかもかなり特殊な学校ということもあってか全学年合わせても編入は私一人だけだ。
高嶺くんじゃなくてもみんな気になっていだと思う。
「バレエダンサーを目指して留学してたんだけど…怪我しちゃって…」
私が答えると途端に高嶺くんは申し訳なさそうな顔になり、
「あっ…ごめん。聞かれたくないこともあるよな…」
と謝ってきた。
「怪我は仕方ないし、気持ちはもう吹っ切れてるから気を使わないで。今踊れなくても、指導者の勉強もできるなんて素敵な学校に入れたよ。」
これは私の本音だ。
私の顔をじっと見ると高嶺くんはほんの少しだけ悲しそうな笑顔になり、
「…俺もそんな風に綺麗な気持ちでバレエに向き合えたらな…」
と自分に言い聞かせるように呟くと元のやんちゃそうな笑顔に戻った。
高嶺くんは明るくて少しだけ不良のような雰囲気があるけど、バレエで何か大きな悩みを抱えているみたい。
でも今日初めてあった私が踏み込むのはどうかと思うし、今はその事には触れるのはやめておこう。
それからは何気ない話をしながら昼食を食べ終わると午後の授業まで10分を切っていた。
「わりぃ!そろそろコース別の教室に行かなきゃだな。プリンちゃんは…」
「私は教師養成コースだから…隣の棟の3階かな?高嶺くんは…」
「バレエダンサーコース。」
私が聞くとムスッとしながら答えた。
ダンサーコースってことはバレエ団への所属を目指してレッスンを受けるコースのはず。
…あんまり楽しくないのかな?
「そっか。じゃあ頑張ってね。」
教室へ向かおうと席を立つと高嶺くんも一緒に立ち上がり、
「あー…なんだその…初めてだろ?次の教室まで送ってくよ。」
と言うと私の前を歩き出した。
階段を登るとき、高嶺くんは私の後ろにすっと回り込むと
「リフトの練習はもう嫌だからな。次落ちたら罰金な!」
と悪戯っぽく言う。
いちいちからかってくるのが癪に障るけど、根は優しい奴…
「あーもう少しスカート短かったらパンツ見えそ…」
…前言撤回。
「この変っっっ!!!キャッ!!!」
急いでスカートを抑えようとした途端、バランスを崩してしまった。
落ちるまではいかなかったが階段を踏み外してよろける。
「うおっと!!!」
後ろにいた高嶺くんが私を受け止め、朝と同じような体制になる。
「あっ…ごめ…」
私の顔を覗き込んだ高嶺くんは一言、
「今度はプリンちゃんがプリン奢りな!」
屈託のない笑顔だ。
プリンを奢るってことは…もしかして、私は明日も高嶺くんとご飯を食べるのかな…?
私を指導者養成コースの教室前まで送ると高嶺くんも自分のコースの授業へと向かっていった。
コース別授業では同じクラスの生徒は誰もいないらしく教室に入るのに少し緊張する。
大丈夫。よし!
元気よく扉を開ける。
「初めまして!2年生に編入してきた吉沢です!」
将来を期待される若手バレリーナ…だった。
留学先での学校公演の日、私は回転技を失敗し舞台上で派手に転んでしまった。
ただ転んだだけでなく、変に踏み留まろうとしたせいか膝に変な圧力を加えてしまい稚拙骨折、関節の脱臼、足首の捻挫という大怪我を負ってしまったのだ。
怪我はある程度治ったが、医師に本格的にバレエを踊るにはまだ何年か掛かるといわれ日本に帰ってきた。
でも私はもうバレエを踊るのが怖い。転んだ感覚も、舞台で転んだ私を呆れたように見つめる観客の顔も思い出すと血の気が引いていく。
私はきっともう踊れない。
しばらく休んでいるうちに、体重も増えてしまった。
一般的には標準体型の範囲だがバレエを踊るには重たく、特に男性と組んだら負担をかけてしまう体型になってしまった。
でもバレエが好きな気持ちは捨てられない。
そんな私を見かねたバレエ学校の先生や両親はダンサーではなく指導者になる道があることを教えてくれた。
そんなこんなで私はこの春、高校2年生から一流バレエダンサーの育成のために設立された『洋舞芸術学園』のバレエ教師養成コースというバレエの指導者を目指すクラスに編入することになった。
「ここが洋舞芸術学園…」
校門をくぐると校庭…というよりは庭園のような綺麗な校内が目に入る。
全国からダンサーや指導者、振付家の卵を集まる全寮制の学校と聞いたがとても綺麗で落ち着いた雰囲気の学校だ。
周りをキョロキョロと見回しながらまるで西洋のお城を小さくしたような校舎に入った。
この学校では午前中は普通の高校のようにクラスごとに一般科目の授業を受け、午後に自分が所属するコースの講義やレッスンを受けるシステムらしい。
私のクラスは二階にある2年A組と聞いていたので階段を登っていると…
転校初日だから緊張していたのだろうか?
足がもつれて階段を踏み外してしまった。
「キャッ!!!」
階段の真ん中辺りから滑ったせいか、かなりの高さがある。
あまりの恐怖に目を瞑り少しでも痛くない体勢になろうと身を縮めると…
腰のあたりを優しいがしっかりとした手つきで支えられ、まるで自分の体重が無くなったかのようにふわりと着地した。
この感覚…海外のバレエ学校のパドドゥクラスで経験がある。
男性ダンサーが女性をリフトといい、持ち上げる動きと同じだ。
「…え?」
覚悟していた痛みは全くなく恐る恐る目を開けると長身の男の子が立っていた。
この男の子が落ちる私を受け止めてくれた…のだろうか?
「ごめんなさっ…あ、ありが…」
お礼を言いかけた時、男の子は半笑いになり
「お前…見た目よりどっしりしてるな。」
「…ふぇ?」
「それじゃパドドゥで持ち上げて貰えないぞ~じゃっ!」
男の子はそれだけ言うと走り去って言ってしまった。
お礼言い忘れちゃった…
でも、どっしりしてるとかパドドゥで持ち上げてもらえないとか…私が重いってことじゃない!?
初対面なのに…失礼な!
「でも…かっこいい人だったな…」
身長が高くて端正な顔で、それにリフトが上手な…ダンサー志望の生徒だと思う。
黙っていたら王子様みたいな人だった。
今度こそ気をつけて階段を登って2年A組に入ると優しそうな女性の担任が迎えてくれた。
「あら!転校生の吉沢さんね!早速クラスの皆に紹介するわね!」
先生に手を引かれて教壇の前に立った。
「初めまして…吉沢姫花です!よろしくお願いします!」
クラスの雰囲気は温かく、皆が拍手をしてくれた。
…何か1人寝てる人いるけど。
「吉沢さんはあそこの席に…こら!高嶺くん起きなさーい!」
先生が声を掛けると机に突っ伏して寝ていた生徒が起きた。
「んん…今寝たばっか…」
顔を上げた高嶺と呼ばれた生徒は…さっき私を助けてくれた男の子だった。
「あっ!お前はさっきのどっしり女!」
私を見るなり大きな声で叫んだ。皆が少しザワつく
「あら!2人は知り合いなの?」
先生が私に聞く。
「いえ…さっき転んだところを助けて貰って…」
「高嶺くん優しいじゃないの。でも女性に失礼なあだ名を付けるのはスマートじゃないわよ。」
先生は優しくたしなめると私に席に着くように促した。
「じゃあホームルームはこれで終わります。1時間目は数学だから先生が来るまで静かにね。」
私が着席したのを確認すると担任の先生は教室から出て行った。
「へぇ…どっしり女、お前転校生だったんだ」
隣に座った私の顔をまじまじと見ながら言ってきた。
「ちょ!その変なあだ名やめてよ!」
先生に注意されてもなお失礼な呼び方をする高嶺くんについムキになってしまった。
「だってお前…姫花だっけ?姫って体格じゃねぇだろ…まぁ胸は立派みたいだけど?」
私の顔を見ていた目線が体へと移って行った。
「それはセクハラでしょ!変態!!!」
男の子にそんなことを言われたのは初めてだ。恥ずかしさと悔しさで顔が熱くなるのを感じる。
しばらく考えるような素振りをしていた高嶺くんがぼそっと呟いた。
「じゃあプリンだな。」
「は?」
プリン?何の話かと思い聞き返した。
「姫花の姫はプリンセスだろ?」
なんかバカにされてる気がする…
「そうだけど…」
「まだプリンセス未満ってことでプリンちゃんな」
「ちょっ!何よそれっ!!!」
なんて失礼な奴なんだ。
我慢ならなくて強く言い返そうとした瞬間、高嶺くんはニヤッと笑うと、
「胸もプリンちゃんだし♪」
「ちょっ!!!変態!!!」
言いたいことだけ言うと教室から出ていってしまった。
これから授業なのにどこいったんだろう…
午前中の授業は数学、国語、社会が続いたが隣は空席のままだった。
4時間目は総合の時間で担任の先生が担当のようだ。
私がトイレに行ってる間にいつの間にか戻ってきたらしい高嶺は机に突っ伏して寝ていた。
何だか野良猫みたいなヤツだ。
「…おいプリン」
隣から何か聞こえた気がするが…気のせいということにして無視した。
「プリーーーーーン」
わざとらしく伸ばしても無視だ。
「吉沢ぷりーーーーー」
「なによっ!!!ていうか苗字覚えてるんならそっちで呼んでよ!」
思わず反応してしまった。
「担任には今まで授業受けてたことにしといてよ。」
「はぁ?なんで私がサボりに協力するのよ…」
「昼飯奢ってやるからさ」
「はぁ…」
別に奢りに釣られたわけじゃないけど言い合うのが面倒くさくて了承してしまった。
4時間目のチャイムと同時に担任の先生が教室に入ってくるなり
「高嶺くん、今日はちゃんと授業受けてて偉いじゃない」
と声をかける。高嶺くんはサボり常習犯らしい。
「へへっ!まあね~!」
なんて、当の高嶺くんは調子のいいことを言っている。
ホームルームではクラスの学級委員や委員会決めをして終わった。
ちなみに私は文化祭実行委員になった。
まだ4月になったばかりだから私が委員会の仕事に取り組むのはまだまだ先になりそうだ。
授業が終わると同時に私の席の周りに同じクラスの女子が集まり、
「吉沢さん留学してたってほんと?」
「色々話聞きたい!」
「一緒にお昼食べようよ!」
と、声を掛けてくれた。
皆すごくフレンドリーだし優しそうで良かった。
彼女たちとお昼を食べに行こうと席を立つ準備をしているといきなり隣の席の高嶺に腕を掴まれた。
「えっ!?何?」
痛くはなかったが驚いて大きめの声を上げてしまう。
「俺がメシ奢るって言ったじゃん!」
そう言うと掴んだ腕を引っ張って強引に教室から連れ出されてしまった。
周りに集まっていた女子達が苦笑いをしつつ哀れみの目で私を見送っている。
まるで「厄介なヤツに気に入られちゃって…可哀想に…」とでも言いたげだ。
高嶺くんは私の手を掴んだまま食堂へ連れていく気らしく、傍から見たら手を繋いでるようだ。
…実際は引っ張られれているだけなのだが…
「ちょっ…手放してよ!」
「えー放したら逃げそうだしー」
通りすがりの女子達がチラチラ見ているが全く意に介していないようだ。
「ほら。ここが食堂!」
初めて来た食堂はガラス張りで日光が差し込むオシャレなカフェテラスのようだった。
「すごい、素敵…」
思わず口にすると
「え?俺が?」
高嶺くんがニヤニヤしながら顔を覗き込んできた。
「ちがっ…食堂の話!」
とりあえず空いている席に荷物を置きメニューを見に行くことにした。
舞踊系に力を入れている学校だけあってボリュームの多いメニューに偏らず健康やカロリーに配慮したものや軽食もある。
大盛りのカレーやハンバーグも気になるけど…そんなのを頼んだらまたどっしりなんてからかわれるんじゃ…
私は泣く泣く小ぶりなサンドイッチの食券を購入し、カウンターのおばさんに渡した。
「あれ?俺が奢るって言ったじゃん」
「別にいいよ。奢って欲しいわけじゃないから。」
こんな奴に借りを作ってたまるか。
高嶺くんは少し考えるような顔をすると自分の分の食券を買いだした。
私のサンドイッチができあがり、先に席に戻って座る。
無理矢理連れてこられたとはいえ一緒に来たのだから高嶺くんが戻るまで食べるのを待つことにした。
「おまたせ~」
大盛りのカレーが乗ったトレーを持ってやって来た高嶺くんは向かいに座ると私の前に何かを置く。
「…これなに?」
「プリンだよ。」
確かに美味しそうな黄色いプリンだ。
「プリンちゃんにプリン奢ってあげるよ。」
「だからその呼び方っ…」
「まあまあ、ここのプリン手作りで美味しいから食べてみなって!」
私の抵抗なんてガン無視でニコニコとプリンを差し出す。
「あ…ありがと…」
プリンを渡してきた高嶺くんの笑顔はまるで王子様のように爽やかで何だか恥ずかしくなってくる。
「ところでプリンちゃんは何で2年生から転校?っていうか編入してきたの?」
私立の高校、しかもかなり特殊な学校ということもあってか全学年合わせても編入は私一人だけだ。
高嶺くんじゃなくてもみんな気になっていだと思う。
「バレエダンサーを目指して留学してたんだけど…怪我しちゃって…」
私が答えると途端に高嶺くんは申し訳なさそうな顔になり、
「あっ…ごめん。聞かれたくないこともあるよな…」
と謝ってきた。
「怪我は仕方ないし、気持ちはもう吹っ切れてるから気を使わないで。今踊れなくても、指導者の勉強もできるなんて素敵な学校に入れたよ。」
これは私の本音だ。
私の顔をじっと見ると高嶺くんはほんの少しだけ悲しそうな笑顔になり、
「…俺もそんな風に綺麗な気持ちでバレエに向き合えたらな…」
と自分に言い聞かせるように呟くと元のやんちゃそうな笑顔に戻った。
高嶺くんは明るくて少しだけ不良のような雰囲気があるけど、バレエで何か大きな悩みを抱えているみたい。
でも今日初めてあった私が踏み込むのはどうかと思うし、今はその事には触れるのはやめておこう。
それからは何気ない話をしながら昼食を食べ終わると午後の授業まで10分を切っていた。
「わりぃ!そろそろコース別の教室に行かなきゃだな。プリンちゃんは…」
「私は教師養成コースだから…隣の棟の3階かな?高嶺くんは…」
「バレエダンサーコース。」
私が聞くとムスッとしながら答えた。
ダンサーコースってことはバレエ団への所属を目指してレッスンを受けるコースのはず。
…あんまり楽しくないのかな?
「そっか。じゃあ頑張ってね。」
教室へ向かおうと席を立つと高嶺くんも一緒に立ち上がり、
「あー…なんだその…初めてだろ?次の教室まで送ってくよ。」
と言うと私の前を歩き出した。
階段を登るとき、高嶺くんは私の後ろにすっと回り込むと
「リフトの練習はもう嫌だからな。次落ちたら罰金な!」
と悪戯っぽく言う。
いちいちからかってくるのが癪に障るけど、根は優しい奴…
「あーもう少しスカート短かったらパンツ見えそ…」
…前言撤回。
「この変っっっ!!!キャッ!!!」
急いでスカートを抑えようとした途端、バランスを崩してしまった。
落ちるまではいかなかったが階段を踏み外してよろける。
「うおっと!!!」
後ろにいた高嶺くんが私を受け止め、朝と同じような体制になる。
「あっ…ごめ…」
私の顔を覗き込んだ高嶺くんは一言、
「今度はプリンちゃんがプリン奢りな!」
屈託のない笑顔だ。
プリンを奢るってことは…もしかして、私は明日も高嶺くんとご飯を食べるのかな…?
私を指導者養成コースの教室前まで送ると高嶺くんも自分のコースの授業へと向かっていった。
コース別授業では同じクラスの生徒は誰もいないらしく教室に入るのに少し緊張する。
大丈夫。よし!
元気よく扉を開ける。
「初めまして!2年生に編入してきた吉沢です!」
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