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並木道あっけらかん
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今日はとてもあっけらかんとした一日でした。今もあっけらかんとしています。なぜでしょうか。きっと三時間しか眠れなかったせいでしょうな。
今日は一月の十六日月曜日、共通テストが終わった次の次の日です。午後五時前の空が水色に墨汁を一滴混ぜたような色の空でした。補習の後で私は一人で帰る支度をしていました。一緒に補習を受けていた仲間は何やら用事があって補習の片付けは一人でしました。いいのです。誰も褒めてくれなくても。情けは人の為ならずと言うのですから。
そんなことを思い、用事を済ませて帰ってきたお仲間は私が黒板掃除を終わらせた頃でした。彼女たちは私にありがとうと言って隣の部屋のお仲間と帰りました。一人残った私は、窓を閉めて机を消毒していました。そこに米粉のパンのような雰囲気のこの二年間私の現代文の授業を持っていた先生が教室に顔を出しました。あけましておめでとうも言いませんでした。お疲れ様ですとかそんな感じの言葉を残して、先生は教室を出ていきました。
私もようやく帰る支度ができて、教室を出ました。家庭科室の前を通って下駄箱へ行き、靴を履き替えて外に出ました。寒かったので一階の校舎内を通って途中から外に出て門を出て、並木道を通りました。いつも通りだと思います。
その並木道を通る間、随分ぼんやりと考え事をしていました。
私は丁度一週間ほど前にこの命を断ち切ろうか考えていました。少しばかり自分自身に嫌気がさしただけでした。結局それは止めました。次の日、学校から帰ってきた時に惚れた男からの年賀状が届いていたからでした。私が大切に思っていたものはどうでもいいものではなかったとそう思えたからです。
生きていることがどうでもいいと思えました。受験も惚れた男のこともどうでも良いと思えてしまったのでした。
私は一つ学びました。本当に何もかも嫌になってしまえば、きっと私は本当に生きる意味すら無くしてしまうのだと。
私はただただ歩きながら問いかけました。私にとってあの男はどうでもいいはずがないだろうと。優しく早口の話し方も、日に焼けた茶色い肌も鍛え抜かれた腕の筋肉も、考え方も心も、何もかもが私は好きでした。どうでもいいはずありません。彼は私にとって大切な人でした。
ずっとぼうっとしていました。時間は流れ、私は歩きました。途中、後輩が友達らしい人と曲について話していました。新歓だとか、文化祭だとかそんな言葉が聞こえてきました。
ああ、もうそんな季節でしたか。これを忙殺というのでしょうか。ふと並木を見上げました。少しずつ蕾が膨らんでいるように感じました。前はもっと小さかったと思います。
「私、ここの並木が好きなんですよ。毎年春に桜の道ができるんです。とても綺麗なんです。」
「ええ、そうですね。」
「でも、私もそのうち消えてしまうかもしれません。」
「どうしてですか。」
「十年前に私は生きるのが嫌になったので自殺をしようと思ったんです。だけど、自分で死ぬのは嫌だなと思ったんです。車に轢かれるか、雷が落ちるか、誰かに刺されるか、それならいいんです。あと十年全力で生きてみてそれでも嫌になったら死んでもいいから、後十年間だけ生きてみようって約束したんですよ。もうすぐ十年経つんです。」
「死ぬんですか。」
「いいえ。私はあなたと生きていたいと思っています。子供は三人ほどほしいかと。あなたとの間になら産んでもいいかと思ってますよ。」
そんな会話を十年後に男としたいと思いました。電車に乗るまでもあっけらかんとしていました。電車に乗って米粉のパンのコマーシャルが流れました。米粉のパンが食べたくなりました。
けれど、私は帰ってクロワッサンを食べました。なぜでしょうか。答えはあっけらかんとしていました。
今日は一月の十六日月曜日、共通テストが終わった次の次の日です。午後五時前の空が水色に墨汁を一滴混ぜたような色の空でした。補習の後で私は一人で帰る支度をしていました。一緒に補習を受けていた仲間は何やら用事があって補習の片付けは一人でしました。いいのです。誰も褒めてくれなくても。情けは人の為ならずと言うのですから。
そんなことを思い、用事を済ませて帰ってきたお仲間は私が黒板掃除を終わらせた頃でした。彼女たちは私にありがとうと言って隣の部屋のお仲間と帰りました。一人残った私は、窓を閉めて机を消毒していました。そこに米粉のパンのような雰囲気のこの二年間私の現代文の授業を持っていた先生が教室に顔を出しました。あけましておめでとうも言いませんでした。お疲れ様ですとかそんな感じの言葉を残して、先生は教室を出ていきました。
私もようやく帰る支度ができて、教室を出ました。家庭科室の前を通って下駄箱へ行き、靴を履き替えて外に出ました。寒かったので一階の校舎内を通って途中から外に出て門を出て、並木道を通りました。いつも通りだと思います。
その並木道を通る間、随分ぼんやりと考え事をしていました。
私は丁度一週間ほど前にこの命を断ち切ろうか考えていました。少しばかり自分自身に嫌気がさしただけでした。結局それは止めました。次の日、学校から帰ってきた時に惚れた男からの年賀状が届いていたからでした。私が大切に思っていたものはどうでもいいものではなかったとそう思えたからです。
生きていることがどうでもいいと思えました。受験も惚れた男のこともどうでも良いと思えてしまったのでした。
私は一つ学びました。本当に何もかも嫌になってしまえば、きっと私は本当に生きる意味すら無くしてしまうのだと。
私はただただ歩きながら問いかけました。私にとってあの男はどうでもいいはずがないだろうと。優しく早口の話し方も、日に焼けた茶色い肌も鍛え抜かれた腕の筋肉も、考え方も心も、何もかもが私は好きでした。どうでもいいはずありません。彼は私にとって大切な人でした。
ずっとぼうっとしていました。時間は流れ、私は歩きました。途中、後輩が友達らしい人と曲について話していました。新歓だとか、文化祭だとかそんな言葉が聞こえてきました。
ああ、もうそんな季節でしたか。これを忙殺というのでしょうか。ふと並木を見上げました。少しずつ蕾が膨らんでいるように感じました。前はもっと小さかったと思います。
「私、ここの並木が好きなんですよ。毎年春に桜の道ができるんです。とても綺麗なんです。」
「ええ、そうですね。」
「でも、私もそのうち消えてしまうかもしれません。」
「どうしてですか。」
「十年前に私は生きるのが嫌になったので自殺をしようと思ったんです。だけど、自分で死ぬのは嫌だなと思ったんです。車に轢かれるか、雷が落ちるか、誰かに刺されるか、それならいいんです。あと十年全力で生きてみてそれでも嫌になったら死んでもいいから、後十年間だけ生きてみようって約束したんですよ。もうすぐ十年経つんです。」
「死ぬんですか。」
「いいえ。私はあなたと生きていたいと思っています。子供は三人ほどほしいかと。あなたとの間になら産んでもいいかと思ってますよ。」
そんな会話を十年後に男としたいと思いました。電車に乗るまでもあっけらかんとしていました。電車に乗って米粉のパンのコマーシャルが流れました。米粉のパンが食べたくなりました。
けれど、私は帰ってクロワッサンを食べました。なぜでしょうか。答えはあっけらかんとしていました。
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