1 / 19
デイリーストップステップ
しおりを挟む
時間は夜。僕達、男女6人は円形に座っている。
「はじめまして、私の名前は木村高志、45歳です。今日ここに来た理由は、お酒です」
僕の真横に座る木村さんは椅子から立ち上がると、自己紹介をはじめた。お酒にはまった理由と、止められない理由を語る。語っている間は終始、手が小刻みに震えており、恐らく緊張のせいではなくアルコール依存症、特有のそれだと思った。
自助グループ。なにからしらの問題を抱えた人達が集まり、相互理解や支援をするためのグループ。
今日ここに集まっている6人は、みんなが何かの問題を抱えているのだ。
もちろん、僕もその一人。
「……現在は禁酒、4日目です」
木村さん言い終わるとみんなが拍手で称える。
次は僕の番だ。僕は椅子から立ち上がる。
「えーと、初めまして。僕の名前は田口翔です。歳は28歳。今日ここに来た理由は、えーと、スマホのアプリゲームです」
僕はスマホのアプリゲームが止められなくて、この会に参加した。
日々、アプリのログインに追われ、定期的なイベントに時間を費やし課金をする。
それがおよそ3年間。
まるでハムスターのように、滑車を延々と回し続けてきた僕。
そには、何もなかったことに気づいた。なぜ僕はあんなムダな時間を。
人生を変えたい。そう決意して今日ここに来たのだ。
「……以上が僕の近況です。アプリは今日、一切していません。今日が僕の再スタートの日です」
みんなが拍手で称えてくれた。僕は自分の3年間の感情を吐露して椅子に座る。今の心は雲一つない澄渡る空の様だった。
「えーと次は私の番ですね。」
僕の隣に座っていた、恰幅のいい男性が椅子から立ち上がる。
「はじめまして、私の名前は斉藤友和。歳は35。今日ここに来た理由は、殺人です」
「えっ!」
みんなの声が一斉に上がる。僕もあっけにとられて声をあげていた。
「いつからと言いますと……小さい頃からだったでしょうか。はじめは、虫、次は小さな動物でした。そして中学の頃ですかね。人を殺したのは。でもあれは事故みたいなものでした。」
なにを言っているんだ?この人は。僕は突拍子のない事で言葉が出なかった。
「いやあの斉藤さん、それはなにかの冗談ですよね……?」
僕の向かいに座る女性が割って入る。斉藤さんのリアクションを見逃すまいとみんなが注目した。
「ははっ。そうです。悪い冗談です」
斉藤さんはニッコリと笑みを浮かべる。
なんだ冗談か。ふー。と、みんなが口ぐちに言い胸を撫で下ろした。嘘をつくことがやめられないとか、そんな病気かな。僕はそう思った。
そんな僕らをよそ目に斉藤さんはしゃがみこみ、手持ちのバッグから金槌を取り出した。
「これも悪い冗談だと思ってください」
斉藤さんが振り上げた金槌が僕の頭を直撃した。
…………。
……。
「っ!!」
僕は地面に倒れており、目を開けた時は眼前に木村さんの生首が転がっていた。その表情は目が見開き口が大きく開かれ、とてつもない恐怖を体験したという顔だった。
急いで起き上がろうとする。が、頭に激痛が走り前に突っ伏した。
頭が痛い。僕は頭にゆっくり手を持っていき、触る。生温かい、ぐにょぐにょしたものに指が触れた。手を見ると血がべっとりついている。
「っう…うう」
意識が混濁している中、遠くの方で音がする事にきづいた。
「やめて、もうやめて、やっ……」
ゴツゴツゴツゴツ。重たいものが骨に当たる音が聞こえる。
「ふんふんふ♪ふんふんふーふん♪」
それと鼻歌。斉藤?
警察に電話しなければ。
斉藤がこちらに気づく前に。
僕は途切れそうな意識の中、なんとかポケットからスマホを取り出す。
画面を見る。
時刻は23:58。
僕は急いで画面を操作した。
『ご主人様、連続ログイン1,000日おめでとう。本日のデイリーログインボーナスはこちらだよ。スタミナ回復のホットケーキ。また明日忘れずにもログインしてね』
ギリギリ間に合った。最後の力を振り絞り、なんとかアプリゲームを起動してログインを果たす。
遠のく意識の中、さきほどのデイリーログインボーナスの音声を聞きつけた斉藤が、こちらに近づいてくる音が聞こえる……。
「はじめまして、私の名前は木村高志、45歳です。今日ここに来た理由は、お酒です」
僕の真横に座る木村さんは椅子から立ち上がると、自己紹介をはじめた。お酒にはまった理由と、止められない理由を語る。語っている間は終始、手が小刻みに震えており、恐らく緊張のせいではなくアルコール依存症、特有のそれだと思った。
自助グループ。なにからしらの問題を抱えた人達が集まり、相互理解や支援をするためのグループ。
今日ここに集まっている6人は、みんなが何かの問題を抱えているのだ。
もちろん、僕もその一人。
「……現在は禁酒、4日目です」
木村さん言い終わるとみんなが拍手で称える。
次は僕の番だ。僕は椅子から立ち上がる。
「えーと、初めまして。僕の名前は田口翔です。歳は28歳。今日ここに来た理由は、えーと、スマホのアプリゲームです」
僕はスマホのアプリゲームが止められなくて、この会に参加した。
日々、アプリのログインに追われ、定期的なイベントに時間を費やし課金をする。
それがおよそ3年間。
まるでハムスターのように、滑車を延々と回し続けてきた僕。
そには、何もなかったことに気づいた。なぜ僕はあんなムダな時間を。
人生を変えたい。そう決意して今日ここに来たのだ。
「……以上が僕の近況です。アプリは今日、一切していません。今日が僕の再スタートの日です」
みんなが拍手で称えてくれた。僕は自分の3年間の感情を吐露して椅子に座る。今の心は雲一つない澄渡る空の様だった。
「えーと次は私の番ですね。」
僕の隣に座っていた、恰幅のいい男性が椅子から立ち上がる。
「はじめまして、私の名前は斉藤友和。歳は35。今日ここに来た理由は、殺人です」
「えっ!」
みんなの声が一斉に上がる。僕もあっけにとられて声をあげていた。
「いつからと言いますと……小さい頃からだったでしょうか。はじめは、虫、次は小さな動物でした。そして中学の頃ですかね。人を殺したのは。でもあれは事故みたいなものでした。」
なにを言っているんだ?この人は。僕は突拍子のない事で言葉が出なかった。
「いやあの斉藤さん、それはなにかの冗談ですよね……?」
僕の向かいに座る女性が割って入る。斉藤さんのリアクションを見逃すまいとみんなが注目した。
「ははっ。そうです。悪い冗談です」
斉藤さんはニッコリと笑みを浮かべる。
なんだ冗談か。ふー。と、みんなが口ぐちに言い胸を撫で下ろした。嘘をつくことがやめられないとか、そんな病気かな。僕はそう思った。
そんな僕らをよそ目に斉藤さんはしゃがみこみ、手持ちのバッグから金槌を取り出した。
「これも悪い冗談だと思ってください」
斉藤さんが振り上げた金槌が僕の頭を直撃した。
…………。
……。
「っ!!」
僕は地面に倒れており、目を開けた時は眼前に木村さんの生首が転がっていた。その表情は目が見開き口が大きく開かれ、とてつもない恐怖を体験したという顔だった。
急いで起き上がろうとする。が、頭に激痛が走り前に突っ伏した。
頭が痛い。僕は頭にゆっくり手を持っていき、触る。生温かい、ぐにょぐにょしたものに指が触れた。手を見ると血がべっとりついている。
「っう…うう」
意識が混濁している中、遠くの方で音がする事にきづいた。
「やめて、もうやめて、やっ……」
ゴツゴツゴツゴツ。重たいものが骨に当たる音が聞こえる。
「ふんふんふ♪ふんふんふーふん♪」
それと鼻歌。斉藤?
警察に電話しなければ。
斉藤がこちらに気づく前に。
僕は途切れそうな意識の中、なんとかポケットからスマホを取り出す。
画面を見る。
時刻は23:58。
僕は急いで画面を操作した。
『ご主人様、連続ログイン1,000日おめでとう。本日のデイリーログインボーナスはこちらだよ。スタミナ回復のホットケーキ。また明日忘れずにもログインしてね』
ギリギリ間に合った。最後の力を振り絞り、なんとかアプリゲームを起動してログインを果たす。
遠のく意識の中、さきほどのデイリーログインボーナスの音声を聞きつけた斉藤が、こちらに近づいてくる音が聞こえる……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる