5分で読めるブラックユーモア

夜寝乃もぬけ

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時間は夜。僕達、男女6人は円形に座っている。

「はじめまして、私の名前は木村高志、45歳です。今日ここに来た理由は、お酒です」

僕の真横に座る木村さんは椅子から立ち上がると、自己紹介をはじめた。お酒にはまった理由と、止められない理由を語る。語っている間は終始、手が小刻みに震えており、恐らく緊張のせいではなくアルコール依存症、特有のそれだと思った。

自助グループ。なにからしらの問題を抱えた人達が集まり、相互理解や支援をするためのグループ。
今日ここに集まっている6人は、みんなが何かの問題を抱えているのだ。
もちろん、僕もその一人。

「……現在は禁酒、4日目です」
木村さん言い終わるとみんなが拍手で称える。
次は僕の番だ。僕は椅子から立ち上がる。

「えーと、初めまして。僕の名前は田口翔です。歳は28歳。今日ここに来た理由は、えーと、スマホのアプリゲームです」
僕はスマホのアプリゲームが止められなくて、この会に参加した。

日々、アプリのログインに追われ、定期的なイベントに時間を費やし課金をする。
それがおよそ3年間。
まるでハムスターのように、滑車を延々と回し続けてきた僕。
そには、何もなかったことに気づいた。なぜ僕はあんなムダな時間を。
人生を変えたい。そう決意して今日ここに来たのだ。

「……以上が僕の近況です。アプリは今日、一切していません。今日が僕の再スタートの日です」

みんなが拍手で称えてくれた。僕は自分の3年間の感情を吐露して椅子に座る。今の心は雲一つない澄渡る空の様だった。

「えーと次は私の番ですね。」

僕の隣に座っていた、恰幅のいい男性が椅子から立ち上がる。

「はじめまして、私の名前は斉藤友和。歳は35。今日ここに来た理由は、殺人です」

「えっ!」

みんなの声が一斉に上がる。僕もあっけにとられて声をあげていた。

「いつからと言いますと……小さい頃からだったでしょうか。はじめは、虫、次は小さな動物でした。そして中学の頃ですかね。人を殺したのは。でもあれは事故みたいなものでした。」

なにを言っているんだ?この人は。僕は突拍子のない事で言葉が出なかった。

「いやあの斉藤さん、それはなにかの冗談ですよね……?」

僕の向かいに座る女性が割って入る。斉藤さんのリアクションを見逃すまいとみんなが注目した。

「ははっ。そうです。悪い冗談です」

斉藤さんはニッコリと笑みを浮かべる。
なんだ冗談か。ふー。と、みんなが口ぐちに言い胸を撫で下ろした。嘘をつくことがやめられないとか、そんな病気かな。僕はそう思った。

そんな僕らをよそ目に斉藤さんはしゃがみこみ、手持ちのバッグから金槌を取り出した。

「これも悪い冗談だと思ってください」

斉藤さんが振り上げた金槌が僕の頭を直撃した。


…………。
……。

「っ!!」

僕は地面に倒れており、目を開けた時は眼前に木村さんの生首が転がっていた。その表情は目が見開き口が大きく開かれ、とてつもない恐怖を体験したという顔だった。

急いで起き上がろうとする。が、頭に激痛が走り前に突っ伏した。
頭が痛い。僕は頭にゆっくり手を持っていき、触る。生温かい、ぐにょぐにょしたものに指が触れた。手を見ると血がべっとりついている。

「っう…うう」

意識が混濁している中、遠くの方で音がする事にきづいた。

「やめて、もうやめて、やっ……」

ゴツゴツゴツゴツ。重たいものが骨に当たる音が聞こえる。

「ふんふんふ♪ふんふんふーふん♪」

それと鼻歌。斉藤?

警察に電話しなければ。

斉藤がこちらに気づく前に。

僕は途切れそうな意識の中、なんとかポケットからスマホを取り出す。

画面を見る。

時刻は23:58。

僕は急いで画面を操作した。

『ご主人様、連続ログイン1,000日おめでとう。本日のデイリーログインボーナスはこちらだよ。スタミナ回復のホットケーキ。また明日忘れずにもログインしてね』

ギリギリ間に合った。最後の力を振り絞り、なんとかアプリゲームを起動してログインを果たす。

遠のく意識の中、さきほどのデイリーログインボーナスの音声を聞きつけた斉藤が、こちらに近づいてくる音が聞こえる……。
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