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ブラッククリスマス
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「それで……お前は間違えて俺様を呼び出したというのか」
黒を纏ったソイツはあきれた様子でため息をついた。
禍々しい本を両手で抱き、少年は何度も申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる。
12月25日。
少年はサンタと間違えてサタンを召喚してしまった。
「お前がサンタと間違えて俺を呼んだのは分かった。これは……? お前一人でやったのか?」
今は誰も住んでいないボロ家。
その寂れた木の床に描かれた魔法陣と均等に並んだ蝋燭。
そしてその真ん中には、何故かフライドチキンが一つ置かれていた。
供物のつもりか? これは。
普通はフライされていない鶏の生首が相場だろ。
サタンは呆れて首を振る。
「これ、サンタと間違えた」
少年は本のタイトルを指でなぞる。
そこには【サタン召喚の書】と書かれている。
「……はぁ」
こいつは、この本を読んで俺を召喚させたということか。
サタンは深くため息をつく。
こんなふざけた儀式で召喚させられた自分自身にも呆れた様子だった。
だが、ただの悪ふざけなどでサタンを召喚などできない。
強烈な負の感情が必要だ。今回サタンはそれに呼応して呼び出されたのだ。
「サンタさん僕に毎回プレゼントをあげるのを忘れているんだ。それで会ってみたいなあと思って。絵も描いてきた」
少年はそう言うと、立派な白い髭を生やしたサンタの似顔絵を取り出した。
「へえー。でもサンタに会うことは叶わないぜ。なぜならお前は今日、死ぬ運命だからな」
少年は目を丸くした。
「お前は今日、父親に殺されるんだ。酒を買うはずのお金でフライドチキンを買ったのがバレてな」
少年の父親は酒を飲んでは暴力を振るう、どうしようもないクズだった。
そしてサタンが言った事は真実だ。
少年は今日、実の父親に殺される運命だったのだ。
「俺はサンタじゃなくてサタンだ。お前にやれるプレゼントは一つだけだ。『誰かを殺す事』お前の父親を殺してやる。どうだ」
サタンは少年に顔を近づけるとニヤリとほほ笑む。
「殺すのは……ダメだよ」
少年は首ゆっくりと振る。少年は微かに、父親が優しかった頃を覚えていたからだ。
「そうか。ならお前は死ぬぞ。父親に『ごめんなさい』と何度言っても殴られ続ける。殺しちまえよ、そんな奴。それに死ぬとお前が会いたがっていたサンタに会えないぞ。いいのか?」
少年は似顔絵のサンタを見つめる。
「それは……嫌だ」
少年はまたも首を振る。
「じゃあ、どうする」
サタンは優しく囁き、少年の答えを待つ。
少年は持っていたサンタの似顔絵をぐしゃりと握りしめるとサタンに言った。
「…………ふん。いいだろう。契約成立だ」
サタンは鼻で笑うと少年と契約を交わした。
12月25日の夜。少年の家は真っ赤な炎に包まれた。
そして、月日が流れた。
真っ赤に燃え盛る暖炉。その暖炉の前でギイギイと小さな音をたてて揺り椅子が揺れている。そこに座っているのは立派な白い髭を生やした大柄な男だった。
「よお、ひさしぶりだな」
どこからともなく黒を纏ったソイツが現れた。
「……あ、ああー。あんたか。懐かしいな。」
白い髭の男は間延びした声を出す。
「おお。覚えていたか」
サタンはニヤリとほほ笑む。
「ああ。あれはワシが子供の頃じゃから、50年ほど前になるのかのー」
「50年か。悪魔にとってはあっという間だ」
「あの時の契約を果たしに?」
白い髭の男はサタンにたずねる。
「ああ。そうだ。お前は殺しに来た」
「ほっほほ。そうか。そうか」
白い髭の男は、あの時、サタンに言った事を思い出し愉快そうに笑う。
それは『僕をサンタのおじさんぐらいになったら殺してください』だった。
あの後。少年は家が火事で燃え、重度の大やけど負うが一命を取り留める。
だが少年は父親に見捨てられ、孤児院へ入り、そこで、壮絶ないじめに合う。
それから運命の人と結婚するがすぐに病気で先立たれる。
そして、いま、重い病気を患っている。
少年はあれから、つらい人生を経験してきた。
何度も死のうと思った。
だが、死ねなかった。
それはサタンとの契約のせい
『僕をサンタのおじさんぐらいになったら殺してください』
これは裏を返せば、それまでは死ねないということだった。
「サンタって年齢不詳だから困ったぜ。だから俺の独断と偏見で今日に決めた。契約通りに今日、お前は俺に殺されてやっと死ねるというわけだ。どうだ?最後に何か言い残す事はないか?」
サタンはたずねる。
「……最後になにか。うーん。そうじゃの、おお」
白い髭を生やした男は思いついたように声を出して言った。
「メリークリスマス」
12月25日。今日はクリスマスだった。
その時、部屋の外から足跡と、はしゃぎ声が聞こえてきた。
「おじさんプレゼントありがとう」
白い髭を生やした男がいる部屋のドアが勢いよく開き子供達がプレゼントを持って駆け寄ってくる。
それは白い髭の男が営む孤児院の子供達だった。
「ありがとう」「今年もプレゼントありがとう」
「おじさん……寝てるの?」「おじさん起きてよ」
返事はなく、子供たちの声は虚しく響く。
白い髭を生やした男は安らかな顔で命を終えていた。
黒を纏ったソイツはあきれた様子でため息をついた。
禍々しい本を両手で抱き、少年は何度も申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる。
12月25日。
少年はサンタと間違えてサタンを召喚してしまった。
「お前がサンタと間違えて俺を呼んだのは分かった。これは……? お前一人でやったのか?」
今は誰も住んでいないボロ家。
その寂れた木の床に描かれた魔法陣と均等に並んだ蝋燭。
そしてその真ん中には、何故かフライドチキンが一つ置かれていた。
供物のつもりか? これは。
普通はフライされていない鶏の生首が相場だろ。
サタンは呆れて首を振る。
「これ、サンタと間違えた」
少年は本のタイトルを指でなぞる。
そこには【サタン召喚の書】と書かれている。
「……はぁ」
こいつは、この本を読んで俺を召喚させたということか。
サタンは深くため息をつく。
こんなふざけた儀式で召喚させられた自分自身にも呆れた様子だった。
だが、ただの悪ふざけなどでサタンを召喚などできない。
強烈な負の感情が必要だ。今回サタンはそれに呼応して呼び出されたのだ。
「サンタさん僕に毎回プレゼントをあげるのを忘れているんだ。それで会ってみたいなあと思って。絵も描いてきた」
少年はそう言うと、立派な白い髭を生やしたサンタの似顔絵を取り出した。
「へえー。でもサンタに会うことは叶わないぜ。なぜならお前は今日、死ぬ運命だからな」
少年は目を丸くした。
「お前は今日、父親に殺されるんだ。酒を買うはずのお金でフライドチキンを買ったのがバレてな」
少年の父親は酒を飲んでは暴力を振るう、どうしようもないクズだった。
そしてサタンが言った事は真実だ。
少年は今日、実の父親に殺される運命だったのだ。
「俺はサンタじゃなくてサタンだ。お前にやれるプレゼントは一つだけだ。『誰かを殺す事』お前の父親を殺してやる。どうだ」
サタンは少年に顔を近づけるとニヤリとほほ笑む。
「殺すのは……ダメだよ」
少年は首ゆっくりと振る。少年は微かに、父親が優しかった頃を覚えていたからだ。
「そうか。ならお前は死ぬぞ。父親に『ごめんなさい』と何度言っても殴られ続ける。殺しちまえよ、そんな奴。それに死ぬとお前が会いたがっていたサンタに会えないぞ。いいのか?」
少年は似顔絵のサンタを見つめる。
「それは……嫌だ」
少年はまたも首を振る。
「じゃあ、どうする」
サタンは優しく囁き、少年の答えを待つ。
少年は持っていたサンタの似顔絵をぐしゃりと握りしめるとサタンに言った。
「…………ふん。いいだろう。契約成立だ」
サタンは鼻で笑うと少年と契約を交わした。
12月25日の夜。少年の家は真っ赤な炎に包まれた。
そして、月日が流れた。
真っ赤に燃え盛る暖炉。その暖炉の前でギイギイと小さな音をたてて揺り椅子が揺れている。そこに座っているのは立派な白い髭を生やした大柄な男だった。
「よお、ひさしぶりだな」
どこからともなく黒を纏ったソイツが現れた。
「……あ、ああー。あんたか。懐かしいな。」
白い髭の男は間延びした声を出す。
「おお。覚えていたか」
サタンはニヤリとほほ笑む。
「ああ。あれはワシが子供の頃じゃから、50年ほど前になるのかのー」
「50年か。悪魔にとってはあっという間だ」
「あの時の契約を果たしに?」
白い髭の男はサタンにたずねる。
「ああ。そうだ。お前は殺しに来た」
「ほっほほ。そうか。そうか」
白い髭の男は、あの時、サタンに言った事を思い出し愉快そうに笑う。
それは『僕をサンタのおじさんぐらいになったら殺してください』だった。
あの後。少年は家が火事で燃え、重度の大やけど負うが一命を取り留める。
だが少年は父親に見捨てられ、孤児院へ入り、そこで、壮絶ないじめに合う。
それから運命の人と結婚するがすぐに病気で先立たれる。
そして、いま、重い病気を患っている。
少年はあれから、つらい人生を経験してきた。
何度も死のうと思った。
だが、死ねなかった。
それはサタンとの契約のせい
『僕をサンタのおじさんぐらいになったら殺してください』
これは裏を返せば、それまでは死ねないということだった。
「サンタって年齢不詳だから困ったぜ。だから俺の独断と偏見で今日に決めた。契約通りに今日、お前は俺に殺されてやっと死ねるというわけだ。どうだ?最後に何か言い残す事はないか?」
サタンはたずねる。
「……最後になにか。うーん。そうじゃの、おお」
白い髭を生やした男は思いついたように声を出して言った。
「メリークリスマス」
12月25日。今日はクリスマスだった。
その時、部屋の外から足跡と、はしゃぎ声が聞こえてきた。
「おじさんプレゼントありがとう」
白い髭を生やした男がいる部屋のドアが勢いよく開き子供達がプレゼントを持って駆け寄ってくる。
それは白い髭の男が営む孤児院の子供達だった。
「ありがとう」「今年もプレゼントありがとう」
「おじさん……寝てるの?」「おじさん起きてよ」
返事はなく、子供たちの声は虚しく響く。
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