9 / 19
死神はFF外から失礼する~有名になりたい男~
しおりを挟む
何の取柄もないどこにでもいる平凡な若い男。
彼は死んでも有名になりたかった。
今日も有名になりたいという野心を燃やしつつ、コンビニのレジ打ちを終え帰宅する。
そして、1000回目の有名になりたいツイートを投稿。
『僕は死んでも有名になりたい』
すると「FF外から失礼します」とリプライが届いた。
人生ではじめてのリプライに思わずテンションが高まる彼。
「有名になりたいなら。ここへ行ってみてください。この祠でお願いをすると夢が叶うそうですよ」
地図と祠の写真が添付されている。
なんだこれ?
怪しむ彼。リプ主のアカウントを調べてみる。
異沢 奈未
@izawa_nami
フォローもフォロワーも0人。
何のツイートもしてない。
そして長い黒髪の女のアイコンと画像。
「女の人……」
童貞の彼は女の人に対する免疫など持ち合わせていないので「ワンチャンあるかも」などとあらぬ妄想を膨らませた。
地図の画像をもう一度見る。
ここからそんなに遠くない。
明日はコンビニのバイトも休みだ。
気晴らしに行ってみようかな。
彼はリプに返信をする。
「ありがとうございます。明日その祠に行ってみます」
「もし、道中迷ったら連絡ください」
童貞の彼は返事が返ってきた嬉しさのあまり、その日は興奮してなかなか寝付けなかった。
日曜日。
彼は地図の場所へと向かった。
有名になりたい野心と、ちょっとばかりの長い黒髪の女に対する下心と共に。
電車で片道1時間。
その祠は山を登った先にあるようだ。
彼は長い黒髪の女に連絡する。
「今、山の入り口に着きました」
「祠は道なりを真っ直ぐ進んだ吊り橋の先にあります。お気をつけて」
誰もいない山道を地図を見ながら進んでいく彼。
普段コンビニのレジ打ちと品出ししかしていないので、山登りは辛かった。
だが、野心と下心が彼を突き動かし一歩一歩、山を登っていく。
しばらく行くと吊り橋が見えてきた。
下を覗き込む彼。
木々が生い茂り、落ちたらひとたまりもない高さだと分かり、背筋がゾクッとする。
彼はなるべく下を見ないよう遠くを見つめて、なんとか橋を渡り切る。
ここを渡れば祠はすぐそこだ。
吊り橋を渡り終え、山道を少しそれた木々に囲まれた場所。
そこに木でできた小さな祠があった。
古びたボロボロの祠で今は誰にも管理されていないようだ。
さっさそく彼は長い黒髪の女に連絡する。
「祠がありました。さっそく有名になりたいとお願いします!」
「死なずに無事にたどりついたんですね。よかったです。ではその祠に貼ってあるお札を剝がして中を開け、お願いしてください」
お札を剥がす! そんな事をしていいの?
「あの、お札を剥がしてもいいんでしょうか? 罰があたったりしませんか?」
「大丈夫です。さすればあなたの願いが叶いますよ。さっさとやって下さい」
彼は言われるがままにお札を剥がし中を開ける。
すると一瞬、風が吹いて黒い何かが飛び出たと思ったが……中は空っぽ。辺りを見渡しても何もない。気のせいか。と思った。
彼は気を取り直して手を合わせて目をつむる。
「どうか有名になれますように。それとリプ主の異沢 奈未といい感じになれますように」
彼は声を大にしてお願いした。
祠の扉を閉めて帰ろうと思ったが、壊れてしまったのか、閉める事ができずそのままにしてその場を立ち去った。
帰り道。
吊り橋の真ん中に人が立っていた。
誰かいる! 彼は思わず身構え吊り橋に立つ謎の人物を注視した。
長い黒髪に白いローブ、後ろ姿しか見えないが女性と判断できる。
「あの長い黒髪は……もしや!」
リプしてくれた異沢 奈未だ。僕の願いが通じて会いに来てくれたんだ。そうに違いない。
彼は長い黒髪の女の元に急いで駆け寄る。
脳内はドーパミンで満たされ、足取りはドラマのワンシーンのようにスローモーションに感じていた。
「なっふぅぅぅ!」
長い黒髪の女の目の前で吊り橋の床が抜けた。
彼は上半身だけ挟まり、下半身は宙に投げ出されている状態になった。
両腕に力を込めて這い上がろうとするが、この態勢では力が入らず無理だった。
誰かに引き揚げてもらう他なかった。
「たったったたすけて~」
彼は情けない声で助けを求める。
長い黒髪の女は彼を振り返った。
肌は白く目鼻立ちが整った顔。それと死へと誘うような甘い香り。
長い黒髪の女は生命が奪われてしまうような異常な美しさを秘めていた。
「あああの、……なにしているんですか」
長い黒髪の女は彼を助けるのではなく、スマホを片手に撮影し始めた。
「あの、撮ってないで早く助けてください」
無言で撮影を続ける長い黒髪の女。
彼は腕の力が抜け始め限界が近づいており、挟まっている木の板もピキピキと音を立て裂け始めた。
「早く助けて!死んじゃいますよ」
「あら、あなた死んでも有名になりたいんじゃなかったの」
長い黒髪の女は低い男の声で喋った。
「男!?」
「男じゃないわよ。女でもないけど」
長い黒髪をかけ上げ、ニヤリと微笑み。
「嘘だ! オカマだなんて! ひどい! 童貞の僕を騙して弄んだんだ」
「なに人聞きの悪い事を言っているのよ。騙していないわ。あなたが死ぬところを動画でアップして、有名にしてあげようとしているじゃない」
長い黒髪の女は低い男の声で喋りながらも撮影を続けている。
「そんなことで有名になんてなりたくない!!」
彼は大声で泣きながら叫ぶ。
その瞬間、木の板は完全に裂け、彼は真っ逆さまに落下していく。
「前言撤回するなんて、あなた玉無しね」
そう呟くと長い黒髪の女は撮影を止める。そして落下していく彼に向って大声で叫んだ。
「じゃあどういう風に有名になりたいの?」
彼は落下しながら大声で叫ぶ。
「顔バレせず世間で騒がれる。そんな有名人になりたいです!」
彼は木々の間に落ちていき見えなくなった。
「なにそれ? めんどくさいわね。まあいいわ。お望み通りあなたの言うとおりにして・あ・げ・る」
『~○○市の山で身元不明の遺体発見~』
『去年10月、登山者が吊り橋の下で人骨を発見し警察に通報しました』
『発見されたのは、身長160cm、20代以上の男性とみられる頭蓋骨と大腿骨などです』
『死後、10年以上が経過しているそうです』
『身元が特定できるのもは何一つ身に着けておらず、警察は情報提供を呼びかけています』
彼は死んでも有名になりたかった。
今日も有名になりたいという野心を燃やしつつ、コンビニのレジ打ちを終え帰宅する。
そして、1000回目の有名になりたいツイートを投稿。
『僕は死んでも有名になりたい』
すると「FF外から失礼します」とリプライが届いた。
人生ではじめてのリプライに思わずテンションが高まる彼。
「有名になりたいなら。ここへ行ってみてください。この祠でお願いをすると夢が叶うそうですよ」
地図と祠の写真が添付されている。
なんだこれ?
怪しむ彼。リプ主のアカウントを調べてみる。
異沢 奈未
@izawa_nami
フォローもフォロワーも0人。
何のツイートもしてない。
そして長い黒髪の女のアイコンと画像。
「女の人……」
童貞の彼は女の人に対する免疫など持ち合わせていないので「ワンチャンあるかも」などとあらぬ妄想を膨らませた。
地図の画像をもう一度見る。
ここからそんなに遠くない。
明日はコンビニのバイトも休みだ。
気晴らしに行ってみようかな。
彼はリプに返信をする。
「ありがとうございます。明日その祠に行ってみます」
「もし、道中迷ったら連絡ください」
童貞の彼は返事が返ってきた嬉しさのあまり、その日は興奮してなかなか寝付けなかった。
日曜日。
彼は地図の場所へと向かった。
有名になりたい野心と、ちょっとばかりの長い黒髪の女に対する下心と共に。
電車で片道1時間。
その祠は山を登った先にあるようだ。
彼は長い黒髪の女に連絡する。
「今、山の入り口に着きました」
「祠は道なりを真っ直ぐ進んだ吊り橋の先にあります。お気をつけて」
誰もいない山道を地図を見ながら進んでいく彼。
普段コンビニのレジ打ちと品出ししかしていないので、山登りは辛かった。
だが、野心と下心が彼を突き動かし一歩一歩、山を登っていく。
しばらく行くと吊り橋が見えてきた。
下を覗き込む彼。
木々が生い茂り、落ちたらひとたまりもない高さだと分かり、背筋がゾクッとする。
彼はなるべく下を見ないよう遠くを見つめて、なんとか橋を渡り切る。
ここを渡れば祠はすぐそこだ。
吊り橋を渡り終え、山道を少しそれた木々に囲まれた場所。
そこに木でできた小さな祠があった。
古びたボロボロの祠で今は誰にも管理されていないようだ。
さっさそく彼は長い黒髪の女に連絡する。
「祠がありました。さっそく有名になりたいとお願いします!」
「死なずに無事にたどりついたんですね。よかったです。ではその祠に貼ってあるお札を剝がして中を開け、お願いしてください」
お札を剥がす! そんな事をしていいの?
「あの、お札を剥がしてもいいんでしょうか? 罰があたったりしませんか?」
「大丈夫です。さすればあなたの願いが叶いますよ。さっさとやって下さい」
彼は言われるがままにお札を剥がし中を開ける。
すると一瞬、風が吹いて黒い何かが飛び出たと思ったが……中は空っぽ。辺りを見渡しても何もない。気のせいか。と思った。
彼は気を取り直して手を合わせて目をつむる。
「どうか有名になれますように。それとリプ主の異沢 奈未といい感じになれますように」
彼は声を大にしてお願いした。
祠の扉を閉めて帰ろうと思ったが、壊れてしまったのか、閉める事ができずそのままにしてその場を立ち去った。
帰り道。
吊り橋の真ん中に人が立っていた。
誰かいる! 彼は思わず身構え吊り橋に立つ謎の人物を注視した。
長い黒髪に白いローブ、後ろ姿しか見えないが女性と判断できる。
「あの長い黒髪は……もしや!」
リプしてくれた異沢 奈未だ。僕の願いが通じて会いに来てくれたんだ。そうに違いない。
彼は長い黒髪の女の元に急いで駆け寄る。
脳内はドーパミンで満たされ、足取りはドラマのワンシーンのようにスローモーションに感じていた。
「なっふぅぅぅ!」
長い黒髪の女の目の前で吊り橋の床が抜けた。
彼は上半身だけ挟まり、下半身は宙に投げ出されている状態になった。
両腕に力を込めて這い上がろうとするが、この態勢では力が入らず無理だった。
誰かに引き揚げてもらう他なかった。
「たったったたすけて~」
彼は情けない声で助けを求める。
長い黒髪の女は彼を振り返った。
肌は白く目鼻立ちが整った顔。それと死へと誘うような甘い香り。
長い黒髪の女は生命が奪われてしまうような異常な美しさを秘めていた。
「あああの、……なにしているんですか」
長い黒髪の女は彼を助けるのではなく、スマホを片手に撮影し始めた。
「あの、撮ってないで早く助けてください」
無言で撮影を続ける長い黒髪の女。
彼は腕の力が抜け始め限界が近づいており、挟まっている木の板もピキピキと音を立て裂け始めた。
「早く助けて!死んじゃいますよ」
「あら、あなた死んでも有名になりたいんじゃなかったの」
長い黒髪の女は低い男の声で喋った。
「男!?」
「男じゃないわよ。女でもないけど」
長い黒髪をかけ上げ、ニヤリと微笑み。
「嘘だ! オカマだなんて! ひどい! 童貞の僕を騙して弄んだんだ」
「なに人聞きの悪い事を言っているのよ。騙していないわ。あなたが死ぬところを動画でアップして、有名にしてあげようとしているじゃない」
長い黒髪の女は低い男の声で喋りながらも撮影を続けている。
「そんなことで有名になんてなりたくない!!」
彼は大声で泣きながら叫ぶ。
その瞬間、木の板は完全に裂け、彼は真っ逆さまに落下していく。
「前言撤回するなんて、あなた玉無しね」
そう呟くと長い黒髪の女は撮影を止める。そして落下していく彼に向って大声で叫んだ。
「じゃあどういう風に有名になりたいの?」
彼は落下しながら大声で叫ぶ。
「顔バレせず世間で騒がれる。そんな有名人になりたいです!」
彼は木々の間に落ちていき見えなくなった。
「なにそれ? めんどくさいわね。まあいいわ。お望み通りあなたの言うとおりにして・あ・げ・る」
『~○○市の山で身元不明の遺体発見~』
『去年10月、登山者が吊り橋の下で人骨を発見し警察に通報しました』
『発見されたのは、身長160cm、20代以上の男性とみられる頭蓋骨と大腿骨などです』
『死後、10年以上が経過しているそうです』
『身元が特定できるのもは何一つ身に着けておらず、警察は情報提供を呼びかけています』
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる