星のカケラ。

雪月海桜

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世界で一番美しいのは。

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「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだぁれ?」
「……検索の結果、千九百九十一件ヒットしました」
「多……っ!? 何で!? 私は世界一を聞いたのよ? ナンバーワンでオンリーワンよ!?」
「いやあ……だって『世界で一番美しい』なんて条件曖昧なんですよ。もっと絞って下さい」
「し、絞る……?」
「私は優秀な魔法の鏡なので『だぁれ?』の時点で対象を人間には絞ったんですけど」
「絶妙な声真似やめて恥ずかしい」
「鏡なもので、対象者を真似るのは得意です」
「鏡って映してるんじゃなくて真似てるの!?」
「まあそれは置いておいて。……とにかく世界で一番は曖昧過ぎます。世界とは『地球規模』? 『宇宙規模』? それとも『あなたの見知った生活圏内』ですか?」
「置いておかれた。……そしてまさかの世界の概念を問われている……?」
「あ、それから『現在の最新版』なのか『過去も含めて』なのか『何年から何年』みたいに区切るのかも願いします」
「……色々と細かい」
「そりゃあそうですよ、一番なんて条件次第で幾らでも変わりますからね!」
「た、確かに……?」
「それから、美しいの基準についてももっと明確にお願いします!」
「美しいの、基準?」
「評価は主観に基づくことが多いですからね……例えば可愛いアイドルを沢山並べたとして『この中で誰が一番可愛い?』ってなったら、百人中百人が意見一致とは限りませんし」
「アイドルとか世界観壊す単語出さないで……。でも、そう、成る程ね……美しさって思ったより奥が深いのね。てっきりあなたが選んだ一番を消せば、私が繰り上げ当選するものと思っていたわ」
「消した場合、永久欠番になる可能性もありますけどね?」
「!?」
「でもまあ、女王様が気にされている『世界一』の美しさ。その基準が女王様の中で明確になれば、より高みを目指せるはずです!」
「そうね! まずはそこから始めてみるわ!」
「はい、頑張って下さい!」
「ええ! ありがとう!」

 目標を見付けて意気揚々と鏡の間から出て行く、私の持ち主であるこの国の女王様。
 毎日私におめかしした姿を見せては美しさについて尋ねて来るあなたは、あくまで『私基準』で答えるならば、出会った頃から変わらず世界一美しくて、可愛らしいお人です。
 あなたがこうして私に会いに来てくれる限り、どんな美少女やアイドルが現れようとも、ずっと変わらないことでしょう。

 だけど、あなたがいつか検索条件として『鏡にとって一番は?』と聞いてくれるその日まで、私が本心から答える『世界で一番美しい人』は、私だけの秘密です。
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