魔法探偵の助手。

雪月海桜

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第二章【夕暮れのお守り】

回収。

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「忘れちゃったか……ねえ夕崎くん。バスケは好き?」
「え、ああ? もちろん……」
「良かった。……でも、今のきみは、バスケットボールより、出所もわからない鉛筆を握ることを選んでいる。それは……きみの意思?」
「オレ、は……」
「自分の確固たる大切よりも、その何かよくわからないものを優先させるのは、何故? きみは、何かに操られていない?」

 夕崎くんの瞳が揺れる。何かに気付いたような、迷うような、そんな戸惑いの顔だ。
 やがてノートに、彼の頭の中に溢れたのであろう『操られている』という言葉が足された。
 そして、夕崎くんの手からころりと、力なく鉛筆が離される。

「ああ、やっぱり……きみの『本質』は……」

 なにかに納得したような呟きを溢したシオンくんは夕崎くんから手を離し、ズボンのポケットからチェーンのついた銀色の懐中時計を取り出す。
 しゃらんと金属の鎖の音がして、それに紛れた彼の言葉の続きは掻き消された。

 そして、次の瞬間。鉛筆の纏う光が、シオンくんの持つ銀の懐中時計へと集約されていった。
 光が虹のように曲線を描き流れる光景に、わたしは息を飲む。
 いつまでも眺めていたいような、美しい光景だった。

「……よし、終わったよ」
「えっ、終わったって……?」
「魔力の回収完了。その鉛筆はただの物になったから、もう害はない」
「!?」

 時間にしてほんの数十秒だろう。光の移動が収まって、さらりと言ってのけるシオンくんに、思わず絶句する。
 物を回収するんじゃなくて、そんな分離回収もありなのか。というか、最初にその懐中時計は強力な魔力を持つと言っていたけれど、魔力の格納庫のようなものだったのか。

 いろんな状況についていけないながらも、事実鉛筆からはすでに光は感じないし、夕崎くんも夢から覚めたように、きょとんとした面持ちで鉛筆とノートを見比べている。

「……さて、書き物の邪魔をしてごめんね、夕崎くん」
「え、あ……うん?」
「ところで。まだ何かを書き続けたい欲はあるかな」
「……え、いや……というか、オレ何書いてたんだっけ? なんだこの落書き……それに、この鉛筆って……?」
「さあ……? テスト続きのストレスから、落書きでもしていたんじゃないかな。どうせなら体育館にでも行って、身体を動かして発散してくるといいよ」
「あっ、そうだ、部活! やばっ、試合近いんだよ! 遅刻する! ……じゃあ、小日向に転校生、また明日な!」
「え、うん……?」
「うん、また明日」

 夕崎くんは光を失った鉛筆と落書きにしか見えないノートを乱雑に鞄に詰め込んで、そのまま体育館まで駆けていった。
 その様子は、いつもの元気な夕崎くんそのものだった。


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