魔法探偵の助手。

雪月海桜

文字の大きさ
上 下
39 / 70
第三章【昼下がりの恋歌】

分身の術。

しおりを挟む
 そこまで考えて、怖くなった。仕事も学校も両立している今、彼女は燃える命を、倍の速度で使っているのではないか。

 わたしは震える声で、若菜ちゃんに確認をする。

「ねえ、若菜ちゃん……学校にずっと来てるけど、ヒナちゃんの活動を制限してるとかは……」
「ううん。CDも出せたし、ドラマもあるから……前より忙しくしてるよ」
「……え、どうやって?」

 わたしの問い掛けに、今まで疑問にすら思っていなかったように、若菜ちゃんが目を見開く。

「え、あれ、本当だ。昼はドラマ撮影があるのに、学校も……私……どうやって……」

 車内に、静寂が訪れた。やがて、シオンくんが何かに気付いたように、声を上げる。

「ああ、なるほど」
「何かわかったの!?」
「これは隠すじゃなく、レンズの屈折で……見る世界を『歪める』だ」
「歪める?」
「そう。認識を歪める、空間を歪める、存在を歪める。いろいろ応用も利きそうだね」

 歪める、なんとなく怖い響きに、わたしたちは顔を見合わせる。

「例えば真昼さんの感情が強く揺れたり、好意を抱く相手を見ている時には、より魔力が活発化すると聞いたけれど……そういう時には真昼さんの自我が強くなるから、メガネは真昼さんの時間を確立させて認識させて、アイドルとしての時間を歪めているんだ」

 シオンくんは納得したように話すけれど、わたしには理解不能だ。もう少し分かりやすくお願いしたい。

「つまり、魔力によって、真昼さんはアイドルと普通の女の子、二人に分裂して同じ時間を過ごしているんだ」
「!?」
「もちろん、それは周囲の認識を歪めているだけで、実物がそこにいる訳じゃない……幽体離脱とか幻とか、そんな感じだと思ってくれていい。けど、確かに同じだけの質量や記憶を持ってそこに居るから、誰も気付かない」

 つまり、アイドルと普通の女の子を分担している形なのだろうか。オート分身の術。

「それに、本人は強く意識している方を自分の記憶として認識しているから、同時に存在する別の時間の違和感に気付けない」
「……そういえば、この間CDの収録した日、収録に行ったのに、その日休んだはずの学校でやったテストも、ちゃんと返ってきた……。うそ、少し考えたら変なのに、私、そのことにも何の違和感も覚えなかった……」
「ちなみに何点だった……?」
「えっと、百点……」
「ジーザス!!」

 分裂して強く意識していない側の時ですら満点を取る優秀な頭脳を、わたしにも分けて欲しい。

しおりを挟む

処理中です...