魔法探偵の助手。

雪月海桜

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第五章【夏と月夜の別れ】

導いた結果。

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 契約書に書き足すあたりまでは、これが最善の方法だと思った。願いを叶えてくれないシオンくんを出し抜けたとすら思った。
 なのに、わたしが何かしなくても、シオンくんはすべて叶えてくれるつもりだったのだ。

「言ってくれればよかったのに……」
「あはは、ごめんね。もちろんトーヤを助けるつもりではあったんだけど、ちゃんとやれる自信がなくて……安請け合いしたくなかったんだ。何しろ相手は上司にあたる魔法使いの大人たち、こっちは家柄だけが取り柄の子供だから」
「家柄……? シオンくんのお家って……?」
「んー、物語風に言えば、魔法使いの貴族みたいな血統? 僕が本家でトーヤは分家なんだ」
「なにそれかっこいい」

 何となく、二人の力関係の根底が見えた気がする。
 それにしても、子供のうちからお仕事をしたり、品のある振る舞いや大人びた言動は、そんな良い家柄だからだったのか。
 改めて、わたしはシオンくんについて、知らないことが多いのだと気付く。

「今回はすぐに回収も出来たし、大きな被害もなかったから、おおめに見て貰えたんだ。……ただし、トーヤにくだされた処分として、この先一年間僕の監視がつくことと……それからその期間、魔法が使えなくなる」
「えっ!? それ、大丈夫なの?」

 監視自体は正直今までと大差ないものの、おおめに見て貰えたと言っても、魔法使いが魔法を奪われるなんて大丈夫なものなのだろうか。
 思わず心配になったわたしとは異なり、シオンくんは穏やかに微笑む。

「大丈夫。彼は魔法使いのトーヤじゃなく、ただの教師の月宮透夜になるだけだよ」
「あ……」

 あの日の神社での会話を思い出し、わたしも安心したように小さく頷く。

「なら、きっと大丈夫だね」
「うん……朝霞さんも、未承認の魔法道具二点を他者に付与した共犯とはいえ、今回の被害者だからね。……そもそも事故にさえ遭わなければ、今回のことも起きなかった。だから特別措置で、上級魔法使いが手を尽くしてくれたんだ」
「すごい……魔法で、目覚めさせられるの?」
「普通は無理なことなんだけど……今回は、ちょっと条件付きで。……まあ、別の魔法の影響を受けた彼女の記憶までは、保証できないけれど」
「それでもいいよ、ありがとう、シオンくん!」

 わたしはじわりと浮かぶ涙を拭う。本当によかったとその場に座り込み、このままわんわんと泣いてしまいそうだ。

「……僕は何もしてないよ、みんなの願いが導いた結果だ」

 シオンくんはそう言って椅子から立ち、机を避けて、座り込んだわたしの傍に来てくれる。
 そして、いつかのように片手を差し出して、優しく立たせてくれた。触れた手の温もりが、心地好い。

「ねえ、みゆりさん。結局、きみの願いはあれでよかったの?」

 確かに、わたしが願わずともみんな揃っての卒業は叶いそうだし、私利私欲を叶える機会を失ってしまったわけだけど、まあそれはそれだ。

 確かにどう頑張ったって叶わないことも、今のわたしには難しいことも多い。けれど魔法なんかなくても、強い気持ちややり方次第で、叶う願いはある。そう思えるようになった。

「うん。みんなと居られるのが当たり前じゃないって、わかったもん。あの願いが叶うなら、それが一番!」
「そっか……。それじゃあ、きみの勧誘は卒業後かな」
「……勧誘?」
「さっき、条件付きで上級魔法使いが朝霞さんに魔法を使ってくれたと言ったけど……その条件っていうのが、みゆりさんを『魔法庁の魔法管理部』に連れてこい、ってことなんだ」
「……へ!?」

 予想外の言葉に、わたしは絶句する。どういうことなのかと頭が回らないものの、シオンくんがすぐに説明してくれた。

「ああ、もちろん魔法使いになれとかじゃないよ。ただ、魔力が見えるきみの目の話をしたら、上に興味を持たれてね。まずは連れてきて、能力を確かめて、良ければ見習いとか手伝いを……っていう」
「つまり……魔法探偵の助手、継続……?」
「……まあ、可能なら、そういうことかな」
「はい喜んで!!」

 とーや先生がこの場に居たら、軽率すぎるとかいろいろ言われそうな気はしたけれど、好きな人とこれからも居られる好条件をみすみす逃す手はない。

 どうやら、わたしの魔法探偵の助手ライフは、これからも続きそうである。


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