ホムンクルスの薬局

1話 傷跡

「いッッつー！しみる…」 

昨日、森から帰って来て宿屋にベットに倒れ込む様に眠った。

そして、早朝に体の痛みと猛烈な生臭さと獣臭で目を覚ました。

悪臭を洗い流すために宿屋に裏にある庭の一角にある井戸から水を汲んで体を洗っている。

昨日うけた傷が滲みてくる。

しかし自分の血と《豚兵》の血を洗い流せなければならないので仕方なく体を擦り乾いた血の跡をおとす。

血の跡を洗い流すと浅い切り傷が見えそこからまた血が少しずつ滲んでくる。

「痛そうだね。大丈夫？」

背後から俺をいたわる言葉がとんできた。
俺をいたわりるはこの宿屋の主人のリアさんだった。

宿屋の店主にしてはやや細身でスタイルもよく優しいし料理上手な人だ。

近所でも噂になるほどの美人で包容力のある女性として人気だ。

しかし、これだけ優良物件のはずなのに浮いた話を耳にしたことがない。

本当ならば引く手数多なはずなのだがよほどの変人かもしくは男に興味のないいわゆるあっちの人かもしれないと言う噂も流れている。

「あ、今失礼なこと考えたでしょ？」
「いや、そんなことないです」

反射的に否定の言葉を返す。

「君が即答する時は嘘をついていることが多いって知ってた？」

彼女はそう言いながら俺の頭を小突く。

「すみません…」

母親の様な姉の様な彼女に対して素直に謝罪の言葉が出てきた。

「よろしい！」

彼女は微笑みながら俺の頭を撫でた。

不思議と心が落ち着きさっきの事をまた心の中で謝罪した。

「しかし、また今度も派手にやられたね…」

彼女は先程とは打って変わって声のトーンが落ちる。

「いつものことです。」

俺はいつも通りに返す。
そういつも通りだ…

もうなんのために強くなるのかわからないはずなのに今もまだ強くなろうとしている。

リアさんは俺の血の滲む傷に包帯を巻きはじめた。

「ありがとうございます…」

なにも言わずに包帯を巻いてくれる彼女の優しさが荒んだ心を潤す。

俺が今も無茶を出来るのは彼女のおかげでもある。

包帯が巻き終わりリアさんは立ち上がり俺を見る。

「回復魔法は使えるの？」

その声には心配する様子が伝わってくる。

「一応は…」

「ならなんで使わないの？」

俺は俯いて答えた。

「いやなんですよ。自分を守っているようで」

昔の惨めな自分に戻ってしまうようで…

なにも出来ずに大切な人を失うのをただ自分を守りながら隠れて見ていただけのあの頃自分に。

「ならポーションを使えば？」

「ポーションですか…」

「それなら自分を守ってるって思わなくていいでしょ？」

「それに自分を守ることは悪いことでもかっこ悪いことでもないよ。」

「そう…ですかね」

まだ割り切れない。

死んだら終わりなんて誰でも知ってることなのにあの醜悪なモンスターに屈するようでいやだ。

「私はさ、この宿に帰って来て欲しいよ。こんな場所にあるから帰ってこなくなった人を沢山見てきたし送り出してしまったようでいやなの。君をその中の1人にしたくないから…ね」

この人は本当に優しいんだな。

「わかりました。ポーションも使ってみます。」

その言葉を聞いた途端リアさんの声は弾んだ。

「ならこの裏の路地の奥にある薬屋があるの！そこのポーションがオススメよ！」

あまりの変化に戸惑いながらも返事を返した。

「は、はぁ…行ってみます。」

その後、朝食を済ませて魔石と金の入った巾着を腰につけて宿屋をあとにした。