一条物語

いしぽよ

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第1章 序章

第13話 平重盛と源義平

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ガチィィン!!
間一髪のところで、頼経を救った謎の女。
パッと見たところ、身長は160後半。成人男性くらいの上背があり、着物からはだけたその腕はかなり鍛えられている。
一体何者なのか?
キィィン!女は重盛の太刀をはじき返すと、一気に畳みかける!
キン!キン!キン!美しい太刀筋、美しい刃音だ。
女とは思えぬその力強い戦いっぷりに周囲は驚く。
重盛「お主、中々の強者よのう。その背丈、その腕っぷし、その面構え、お主、よもや巴御前か?見たことはないが、噂には聞いておったぞ。」
女「お褒めのお言葉どーも!でも残念!あいにくだけど、人違いよ!」
重盛「そうか。残念だ。だがそなた、噂に聞く巴御前並の強さじゃな。であれば、ちと、本気を出すか。」
急に重盛のオーラが変わった。物凄い迫力だ。面の男達含め、周囲の者は全員あまりの迫力に言葉を失い、動きが止まる。
女「ふーん。さすがは平清盛が嫡男にして超有能男、平重盛。おじい様から聞いていた通りのいい男ね。
あなたがもう少し長く生きていたら、源氏は平氏に勝てなかったと言われる所以がよくわかったわ。対峙しただけで伝わってくる、本物の強さ。敵じゃなければ、惚れてたかも。迫力も満点。すごいすごい。でも負けないから。そっちがその気なら、こっちも付き合ってあげる。」
女の雰囲気も急に変わった。
次の瞬間、両者の太刀は激しくぶつかっていた!目で追えない速さの、高次元の切り合いが繰り広げられていた。
第五小隊の隊員「じ、次元が違う...」
頼経「あ、ああ。己の無力さを痛感する。助太刀したいところだが、割って入る隙もない。間合いに入れば即、切られる。あの女にとっては、我々など、足手まといでしかないだろう。」
第五小隊の隊員「悔しいですが、おっしゃる通りですね。」
重盛「お主、一体何者じゃ!これほどまでの太刀裁き、先の平治の乱以来の強者ぞ!」
女「平治の乱ね、確かにその通りかもね!あたしの中の人がかつてあなたと激戦を繰り広げたのは、平治の乱だったと聞いているわ!」
重盛「お主、一体何を言っておる。ぐわっ!」
女の太刀が重盛の横っ腹を捉えた。
女「ちょっと、昔話でもさせてあげようかしら?中の人と変わってあげる。」
女の雰囲気がガラッと変わった。
???「久しいのう重盛。平治の乱以来か。太刀裁きだけでよくわしとわかったな。さすがは、戦場にて刃を交えた我が生涯最高のライバルよ。」
重盛「ま、まさか!?お主、義平か!?」
義平「いかにも。我こそは、鎌倉悪源太こと、源義平である。」
その会話を聞き、頼経はハッとあることに気づく。
この女には、ある男の魂が憑依している。頼経にはそれがはっきりと目視できた。そのある男というのが、源義平という男らしい。
重盛「カラクリはよくわからんが、お主、義平なのじゃな。こうしてまた会えたこと、嬉しく思う。」
義平「こっちもカラクリはよくわからんが、お主に会えたこと、嬉しく思うぞ。さぁ、存分にやろうぞ。」
女「ふぅ、もういいでしょ?義平さん。で?わかった?平重盛。あたしの太刀裁きが、やけに誰かさんに似ている訳が。」
重盛「ふむ。わかったぞ。相手が義平とわかり、この世に蘇った甲斐があったというもの。」
女「まっ!正確には蘇ってないんだけどねー。」
重盛「何?」
女「自分がどういう状態か、自分でもよくわかってないみたいね。ある意味気の毒かも。」
女「ちょっとそこの僕?あたしが時間稼いであげるから、女子供を解放して怪我人連れてさっさとここから立ち去んな!あなたごときの実力であたしたちの戦いに参加すると怪我するよ。」
頼経「もちろんそのつもりだが、一つ教えてくれ。奴らは一体何者なのだ。そちてそなたは一体何者なのだ。」
女「一つって言っておいて二つ聞くのね、君。欲張りな子ねぇ。まっ、いいわ。一つだけなら答えてあげる。」
女「あいつらの組織名は"烏"。正体は平家の残党達よ。昨今、鎌倉幕府4代将軍、藤原頼経襲撃事件があったでしょ?あれは奴らの仕業よ。烏の狙いは幕府を倒して平家を復興すること!そのための第一歩として、鎮西奉行を落としたってところ。そして昨今の襲撃事件。あれは、九条家の将軍ちゃんが蹴鞠大会にのこのこ呑気にやって来るという情報を烏は事前に仕入れていたみたいね。烏からしてみれば、将軍なんて最高の餌がわざわざ鎌倉から着て、無防備に蹴鞠なんかやりにくるってんだから、この絶好の機会を逃すはずも無く、将軍を殺すか生け捕りにして一気に勢いづけようと暗殺を試みて襲撃したみたいよ。結果、将軍ちゃんじゃなくて、その父親を殺しちゃったみたいだけど。まぁ、あたしが今持ってる烏の情報はこのくらいよ。」
重盛「おい女ぁ!よそ見してのんびりお話とはたいそうな余裕だな!隙あり!」
女「くああああああ!」
女は、重盛の太刀に吹っ飛ばされてしまった。
女「くっ!やっぱり強いわね。平重盛。さっきの横っ腹の傷と合わせて、これでおあいこってところかしら?君、悪いけど、もう君と話してる余裕はないわ。さっさと立ち去りなさい!」
頼経「待て!まだお主のことを聞いていない、お主は一体何者なのだ!なぜ他人の魂を憑依できる?なぜだ!」
重盛「はぁぁぁぁ!」
女「くっ!すごい力。これは本気で集中しないとまずいわね。じゃあ君、元気でね。またいつか!」
女はそう言い残すと、一気に出力を上げて重盛に襲い掛かり、驚いた重盛は逃げ気味で距離を取る。それを女が追いかける形で二人は頼経から遠ざかり、やがて遠い彼方へと消えていった。彼らの戦いの跡は凄まじく、地形が歪んでしまっていた。
第五小隊の隊員「あの娘、かなりの実力でしたね。」
頼経「何度か顔が見えたが、若かったな。二十代前半くらいか?」
第五小隊の隊員「我々が今後戦っていくのはあんな連中ばかりなんでしょうか。」
頼経「わからん。わからんがとにかく、今の我々ではとても太刀打ちできないことはよくわかった。早く仲間の手当をして修行せねばな。」
第五小隊の隊員「それはそうと。結局あの娘、何者だったんでしょうね。やけに色々詳しかったですし。」
頼経「最後、彼女の太刀の柄が一瞬見えた。そこには、父・道家の魂が凝縮された、あの珠が一つ、括りつけてあった。」
第五小隊の隊員「なんですと!?」
頼経「しかも、その珠は、赤く変色していた。元々あの珠は青色だったはず。」
第五小隊の隊員「色、ですか。」
頼経「うむ、まずそもそもなぜ彼女があの珠を持っているのかわからぬが、源義仲が彼女に憑依していたことと何か関係があるのかもしれない。うーむ、分らぬことだらけよのう。
ただ、一つ、奴らの組織のことはよくわかった。これまでの経緯も含めてな。我々の敵はあの烏じゃ。奴らが烏と名乗るのなら、我々は”鷹”と名乗ることとしよう。
第五小隊の隊員「なぜ鷹なのです?」
頼経「烏の天敵が鷹だから。」
第五小隊の隊員「おお、なるほど。」
頼経「よし、組織名も決まったことだし、さっさと帰って再出発だ!」
第五小隊の隊員「へい!」(続く)
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