一条物語

いしぽよ

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第1章 序章

第21話 謎の少女と琵琶の音

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まゆ「も、もうだめ、、助けて、、父上、、」
頼経「くそ、父上、、、お助けください、、」
知盛「ふっ!これで最後だ!死ねぇぇ!」
その時!
「ジャンッ!」
知盛「うっ!何だ!?体が動かぬ!?」
「ジャランッ!」
知盛「うあああああ!頭が割れるように痛む、、、」
頭を抱えてその場に蹲る知盛。
「ジャラン!ビヨン!」
知盛「うッ!か、体が勝手に動く、、。何だこれは!?音!?どこかからだ!」
「ジャラン!ビヨヨヨヨン!」
知盛「うあああああ!」
気が狂ったようにそこら中を走り回る知盛。いや、走る回るというより走りまわされているかのようだ。
知盛「くそ!抗えぬ!さっきからわしの邪魔をするこの音、琵琶の音だな?誰じゃ!?」
「ビ~ン」
知盛「..」
知盛は急に黙ってしまい、その場に立ち尽くしてしまった。よく見ると、知盛は白目を剝いており、口から泡を吹いている。
先ほどから聞こえてくるこの琵琶の音。はたからしてみればただの綺麗な琵琶の音でしかないが、知盛にはやけに効いている。
まゆは琵琶の音の主を見つけた。それは木陰に隠れているあの娘であった。
まゆ「あの子、、どこかで会ったことあるような、、、でも、、だめ、、思い出せない、、、。」
まゆは先ほどの知盛の攻撃で頭を強く打っており、どんどんと意識が遠のいていく。うっすらと遠のいていく意識の中、かすかに見えた娘の姿に
どこか懐かしいものを感じながら、まゆは意識を失ってしまった。
頼経「まゆ!!くそ、一体何がどうなっている?あの娘から発せられている琵琶の音。あれが知盛を苦しめているのは確かだ。
しかし、仮にもしそうだとしたら、なぜ我々には効かない?知盛にだけ効いて、我々には効かないのはなぜだ?」
「ピヨヨン」
知盛「ぎやあああああ!」
先ほどまでの低くドスの効いた低音から一変、一気に高音になったと思うと、知盛は悲鳴を上げて逃げていった。
確かにこの高音はキーンと耳に響く音だが、悲鳴を上げるほどのものではない。どうやら知盛にだけ効いているのは確かなようだ。
知盛が去り、辺りは静まり返る。
気づくと娘の姿はなかった。
頼経「一体、あの娘は何者なんだ。って、そんなこと言っている場合ではなかった!」
頼経はすぐさま鷹に連絡し、いくつかの小隊を呼び巨漢6人及び第九小隊の隊員達とまゆを九条邸へと運び、入念な手当を施した。
全員酷い怪我で中々目を覚まさなかったが、徐々に回復していき、じきに全員目を覚ました。

まゆ「ん、んんん、、、あ、あれ、、あたし、、」
頼経「お!目を覚ましたか!」
まゆ「頼経、、、はっ!そうだ!あの男は!」
頼経「あの琵琶の娘が対峙してくれたよ。」
まゆ「あ、あの子が、、、。」
頼経「あの知盛を追い返すとは、あの娘、とんでもない強さを持っていた。」
まゆ「知盛?」
頼経「ああ、あの男は平知盛だよ。」
まゆ「えっ!う、うそ!?おじい様から聞いた話では、平知盛ってあの治承・寿永の乱の頃の人でしょ?そして壇ノ浦で戦死したって話のはずよ?なんでその人がいるのよ。」
頼経「私も色々とよくわからんのだ。以前、平重盛にも遭遇したことがあってな。」
まゆ「平重盛!!?あの平重盛!?」
頼経「そうだ。」
まゆ「話がデカすぎてもう何が何だか、、、」
頼経「無理もない。私も情報量が多すぎて理解が追い付いていない。」
まゆ「考えられるとすれば、治承・寿永の乱での生き残りか、それとも幽霊!?」
頼経「どちらかというと後者に近いっぽいのだよ。私は生まれつき霊感が強いのだが、奴らからは精気を感じず、霊に近いものを感じる。」
まゆ「な、なによそれ。てことは私はそんな得体の知れないものと戦ってたってとこ?」
頼経「そういうことだ。」
まゆ「世の中、不思議なことが多いのね。為朝も、黒髪山の7本の角を持つ大蛇?を退治しに肥前に行ってるみたいだし。
そんな大蛇ほんとにいるのかしら?って感じだけど。」
頼経「ん?為朝?」
急に顔を赤らめるまゆ。
まゆ「ああ、いや、えーっと、そのー、こっちの話!今のは忘れて!」
頼経「ふむ。とにかく、分らんことが多いといいつつも、少しずつ情報が集まってきていてな。
まず、そなたの持つその珠だが、それは我が父・九条道家の魂が9つに分離して珠となったものだ。そなたはその内の一つを運よく手に入れたというわけだ。
そして珠を持つ者はそなたのほかにもいるみたいでな、私は既にそなたとは別に2人出会っている。」
まゆ「ええ!!ちょ、ちょっと待って!今なんて!?」
頼経「ん?いやだから、そなた以外にも珠を持つものがいて、私は既に2人出会っている。」
まゆ「いやいや!!そこじゃなくて!もっと前!」
頼経「ん?もっと前?あー、そもそもそなたの持つその珠は我が父・九条道家の魂が9つに分離してー」
まゆ「そこよ!九条道家の魂が9つに分離!!?そして珠になった!?そしてあたしが持ってるこの珠がその内の一つ!?ていうか我が父・九条道家!?」
頼経「ああ、色々と驚くだろうな。先ずどこから説明すればよいのやら、まず、改めて自己紹介をしようか、
私は藤原頼経。父は前摂政・関白の九条道家で、九条家の3番目の子として生まれ、生まれて間もなく次期将軍として鎌倉に送られた。その為、都生まれだが鎌倉育ちなので、都のことや公家のしきたりに疎い。今は鎌倉幕府4代将軍として形上は幕府のトップだ。実際はただの傀儡に過ぎないがな。」
まゆ「やっぱりあなた、あの九条頼経だったのね。まさかあんな巷の空手大会に来てるとは思わなかったけど。
あたしも都生まれだから、あなたが生まれた当時のことやその後鎌倉に送られた話は知ってるわよ。九条道家の7番目の子が生まれたって当時大騒ぎだったんだから。」
頼経「そうだったのか。なら話がはやいな。ん?今7番目と言ったか?」
まゆ「ええ、あなたは九条道家の7番目の子よ。」
頼経「い、いや、そんなはずはない。私は3番目と聞いているが?」
まゆ「それはきっと、3番目から6番目の子たちの存在を隠すためにそう伝えられたんじゃないかしら?九条家の長男と次男は知っているわね?」
頼経「ああ、もちろんだ、長男は九条教実、次男は二条良実、そして三男が私、だと思っていた。」
まゆ「長男と次男はその通りよ。でも実はあなたには他にも4人のお姉さんがいるの。あ、いや、正確には”いた”の。」
頼経「どういうことだ?”いた”とは?」
まゆ「4人とも、あなたが生まれる少し前に九条家からいなくなっていたのよ。
長女は、とても優秀な娘でなんでもできる万能な人材だったから異国へ留学に行ったんだけど、帰国の際に船が荒らしに巻き込まれて沈没したの。
次女と三女は双子で、10歳の時に政略結婚でそれぞれ四条家と六条家へ嫁いだの。あなたと同じでとても霊感が強い人達だったからよく鞍馬寺にいって霊払いをしてもらっていたんだけど、
ある時鞍馬寺に行ったっきり返ってこなくて忽然と姿を消してしまったの。巷では天狗による神隠しに遭ったんじゃないかって言われていたわ。
四女は、極々普通の女の子だったんだけど九条家の娘は上3人がこういう目に遭っていたから、
九条家に生まれた娘は不吉というレッテルを張られてしまって、あなたが生まれる少し前に魔除けに定評のある七条家に養女に出されてしまったの。
この子は、今も七条家にいるんじゃないかしら?その後どうなったのかは知らないけど。
てなわけで、あなたが生まれる少し前に色々あって、あなたの4人のお姉さん達は九条家からいなくなっていたのよ。そして九条家に降りかかっていた災いを払拭するため、3~6番目の子4人の存在を消して、あなたを3番目の子としたんじゃないかしら?」
頼経「そんなことがあったとは知らなかった。というかまゆ、そなたなぜそんなに我が九条家のことに詳しいのだ?」
まゆ「まぁ、あたしもかなりの名門出身だからね。九条家は割と身近な存在だったし。」
頼経「そういえばまゆ。そなた苗字はなんという?苗字をまだ聞いていなかったから教えてくれ。そなた名門出身といったが、どこの家の者だ?」
まゆ「........」
頼経「ん?どうした?」
まゆ「悪いけど、苗字は名乗りたくないわ。色々と深い事情があって。ごめんなさいね。」
頼経「...そうか。すまない。今のは忘れてくれ。九条家のこと、色々と教えてくれてありがとう。
話を戻すが、そなたの持っている珠は我が父の魂が珠として具現化したものなのだ。
父は私を庇って死んだ。だがしかし、肉体は滅びたが魂は成仏できなかったようで9つに分離しこの世に留まった。そして9つの魂は珠となり、都の各地へと散らばってしまったのだ。そして、私はその9つの珠を探している。そんなところだ。」
まゆ「なるほどね。そしてその珠を持つ者が3人現れた。そのうちの一人があたしってわけね。あとの二人はどんなひとだったの?」
頼経「1人目は、まゆに出会う少し前に六条河原で出会った女だ。身長は160後半くらいあって年齢は二十代前半くらいの逞しい女だった。その女は源義平の魂を憑依して平重盛と互角に渡り合っていた。」
まゆ「み、源義平!?平重盛!?あー、ちょっと色々突っ込みたいけど、切りがないから敢えてスルーします。」
頼経「助かる。二人目は先ほどの戦いで我々を平知盛から救ってくれたあの琵琶の娘だ。」
まゆ「あー!あの子ね!え!あの子も珠を持ってたの?」
頼経「ああ、よくみたら、琵琶に括りつけてあった。」
まゆ「そうなんだ、あの子、どっかで見たことあるのよねー。誰だったかしら?頭打って意識が朦朧としてたからパッと出てこなかったけど、ちゃんとみたら思い出すはず。」
頼経「見覚えあるのか?」
まゆ「うん。遠い昔の記憶でね、昔、あの子と一緒に遊んだ記憶があるのよ。それどころか、一緒に生活してた記憶もある。でも一瞬のことだったから思い出せない。でもきっとそうよ!あの子はあたしのこと覚えててくれて、あたしの危機に駆け付けて助けてくれたのよ!そうよ!きっとそうだわ!」
頼経「そうか、思い出せるといいな。思い出したら色々と教えてくれ。あの琵琶の音は中々の戦力になると思う。」
まゆ「わかった!ていうか、その二人の内、どちらかは雪ちゃんだと思ったんだけど、二人とも違う人みたいね。
あたし琵琶の子は知り合いっぽいけど、六条河原で出会ったっていうその子は全く知らないと思う。」
頼経「ん?雪ちゃん?誰だ?」
まゆ「あ、えっとね、雪ちゃんっていうのは、あたしの旧友。昔っから仲良くしてくれてる親友っていうのかな。」
頼経「うむ。それで?」
まゆ「その子、あたしの4つ下で三条家の末っ子娘ちゃんでね、三条雪乃っていうのよ。それで雪ちゃんって呼んでるの!ちょっと変わってるんだけど、すごくいい子なの!
昔っからすっごく仲良くしてくれてね!それでね!それでね!」
頼経「あ、ああ、わかった、わかったから。それで?なぜ二人の内一人がその雪ちゃんだと思ったのだ?」
まゆ「あ!お、おほんっ!んっとね、実は雪ちゃんもこの珠を持っているのよ!」
頼経「な、何ぃ!!!?そ、その三条家の娘というのはいまどこにいる!!?」
まゆ「普通に三条邸にいると思うけど。あの子、いっつも三条邸のお庭で愛猫の唯ちゃんと遊んでるから。」
頼経「あ、愛猫の、ゆ、唯ちゃん?」
まゆ「先に言っとくけど、腰抜かす程ぶっとんだ変わり者だからね。かなり面白い子。なんたって、あの帝に猫パンチを食わらせて許されたという逸話があるくらい。」
頼経「な、なんだか会う前から胸騒ぎがしてきた。」
まゆ「うふふっ。じゃあ、あたしの傷が治ったら一緒に三条邸に行こっか!紹介してあげる!」
頼経「ああ、助かるよ。」
こうして新な珠を持つ者、三条雪乃に会いに行くことになった頼経。果たして三条雪乃とは一体どんな娘なのか!?(続く)
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