訳アリ兄妹 

いしぽよ

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第2章 雪乃との日常

第24話 雪乃の家出4

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ペン吉「俺は南極で生まれた。」
雪乃「それは見ればわかるのである。」
ペン吉「俺はアデリーペンギンだ。」
雪乃「その情報どうでもいいのである。」
ペン吉「ある日俺は、友達のペン太と共にアジを採りに海へと狩りだした。」
雪乃「名前、テキトーであるな。」
ペン吉「海での単独行動は危険と教わった俺は、きちんと群れで狩に出た。」
雪乃「それは群れではなく、もはやペアである。」
ペン吉「しかし、俺はしょうもない海流に巻き込まれてしまい、ペン太とはぐれてしまったんだ。あれは不可抗力だった。」
雪乃「単にうまく泳げなかっただけであるな。」
ペン吉「その後、俺は必死にしょうもない海流に抗ったが、結局抜け出すことができず、元の進路から大きく外れてしまった。」
雪乃「単にまっすぐ泳げなかっただけであるな。」
ペン吉「そうして、俺は一人になった。」
雪乃「自業自得であるな。」
ペン吉「なんとか一縷の望みを掴もうと俺は必死でもがいた。」
雪乃「その場でジタバタしただけであるな。」
ペン吉「しかし、打開策は見つからなかった。」
雪乃「自ら可能性を閉じたわけであるな。」
ペン吉「そうこうしているうちに、俺は何か硬いものに頭をぶつけ、気を失ってしまった。」
雪乃「絶望して勝手に気絶しただけであるな。」
ペン吉「俺は気を失ったまま何日も何日も南極の海を漂流した後、中国の砂浜に打ち上げられた。思えば漂流中、よくシャチやサメに襲われなかったものだ。」
雪乃「ペン吉不味そうだから、需要がなかったのであるな。」
ペン吉「その後、俺は中国のインコ商人に拾われ、介抱された後、インコとして市場に並べられた。」
雪乃「インコに失礼であるな。」
ペン吉「しかし、俺は中々売れなかった、、、」
雪乃「そりゃあそうであるな。」
ペン吉「長らく店頭に並べられ、暇だったので、インコ達とおしゃべりを始めた。」
雪乃「聞こえがいい様に言っているけれど、要は、売れない者同士の傷の舐め合いというやつであるな。」
ペン吉「俺はかなり長いことインコ達と会話をした。そして、インコ達から人間の言葉を教わり、人間の言葉を話せるようになった。」
雪乃「ペン吉よ、おみゃあ、相当売れなかったのであるな。」
ペン吉「かなり長いこと話す時間があったものだから、ついでに、全ての動物の言葉も教わったんだ。」
雪乃「もはや不良品の巣窟であるな。」
ペン吉「しかしそこに一人の日本人女性が現れた。そう、彼女こそ、そなたの姉、三条美月だった。
彼女はインコに混じって販売されている俺に視線を止めると、全ての動物の言語を操れる俺に大変興味を示し、即決で俺を購入してくれた。」
雪乃「姉様は魔窟に手を出してしまったわけであるな。」
ペン吉「やがて俺は美月の愛鳥となり、彼女にとってなくてはならない存在となった。」
雪乃「姉様は物好きなお人であるな。」
ペン吉「長い月日が流れ、美月の帰国日がやっていた。俺は当然、美月に着き従って日本へ行くことにした。
しかし、俺達の乗った飛行機は上空でエンジントラブルを起こし墜落。機体はなんとか海上に不時着することに成功したものの、救命ボートに乗ることができたのは一部の女子供のみで、乗れなかった者は極寒の海に投げ出されあっという間に凍え死に、沈んでいった。美月は乗せてもらえたが、俺は乗せてもらえなかった。」
雪乃「そりゃあそうであるな。」
ペン吉「俺は美月から、泳いで日本へ帰還し、妹の雪乃を正しく導くよう頼まれた。美月と別れた後、俺は必死に泳いだ。しかしどういうわけか、俺はまたしょうもない海流に巻き込まれ、思うように進めなかった。」
雪乃「ただまっすぐ泳げなかっただけであるな。」
ペン吉「そうしている間に、俺はまた何か硬い物に頭をぶつけ、気を失ってしまった。」
雪乃「いっつもそんな感じであるな。」
ペン吉「俺は長いこと漂流した後、奇跡的に目的地であった日本の砂浜に打ち上げられた。しかし、俺にはもう一滴の力も残っていなかった。そこへ一匹の野良猫が迫ってきて俺を食べようとした。万事休す。ああ俺はこんなしょうもない野良猫に食われて生涯を終えるのか、ごめん美月、日本には帰還できたが妹の雪乃ちゃんには会えなかったよと頭の中で唱えた次の瞬間、こらぁぁぁぁぁぁぁ!待つにゃああああ!それを食べるのは止めるにゃあああ!!という甲高い声が聞こえ、なにやら向こうから物凄い形相でこちらに向かってくる一人の少女が見えた。
すると、その野良猫は急に向きを変えて逃げて行った。ああ、助かった、、、通りすがりの心優しい少女のお蔭で俺は助かった、、、この子は命の恩人だと思った。」
雪乃「いや、野良猫ちゃんが見るからにヤバそうなものを食べようとしたので、必死に野良猫ちゃんを守ったのである。」
ペン吉「その少女は俺の近くで足を止めると、2重3重に手袋をつけて俺を摘まみ上げた。ああ、俺に傷をつけないよう丁重に扱ってくれてるんだと思い、その優しさに感服したよ。」
雪乃「いや、見るからにヤバそうな物体だったので、手袋をつけただけである。」
ペン吉「その後、俺はかろうじて残っていた力で、体を少し動かすと、
にゃああああああああああああああ!!動いたにゃああああ!!!とその少女は飛び上がって驚いていたよ。
そして人間の言葉を少し話してみると、
にゃあああああああああああああああああああ!!喋ったにゃああああああああ!!とその少女は更に飛び上がって驚いていたよ。
するとその少女は顔色を変えて俺を家へと連れて行き、温かいシャワーで俺の体に付着した汚れを落としてくれたっけか。優しい子だなと思ったよ。」
雪乃「珍獣の正体を暴きたかったのである。」
ペン吉「汚れが落ち、俺がペンギンだとわかると、その少女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしばらく固まっていたな。」
雪乃「珍獣の正体がペンギンだったというしょうもない落ちで、反応に困ったのである。」
ペン吉「その後、俺はこの少女の家で飼育されることになり、後にこの少女が美月の妹である雪乃だったと知った時は驚いたな。とんでもない奇跡だと思ったよ。」
雪乃「あたしは姉様から珍獣を授かってしまったわけであるな。」
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