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3章 依存国ツィーシャ
ようこそ
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ルクレイシアを出てから2週間が経った。
旅立つ前に立ち寄った、ルフトが泊まる宿で、水晶玉を介して久しぶりにリュカオンと話をした。
『いろいろ話したいこともあるし、僕のとこに一回来ない?』
と、提案を受け、その流れでリュカオン───事情によって、次会うときには『リューク』と呼ぶように言われた───へ会いにツィーシャへ行くことになった。
ツィーシャはルクレイシアを西にほぼまっすぐ、誰かの荷車に乗り継がせてもらって1週間近く行ったところにある。
あと少しといったところで、クレアは立ち往生していた。
「んー、こりゃダメだな」
クレアの隣に立って状況判断をしたのは、ルクレイシアからずっと乗せてもらっていた荷車の主の男だった。
トランスヴァールに用事があるという彼に頼み、ツィーシャまで乗せて行ってもらうつもりだったが、ここに来てアクシデントが起きた。
4日ほど前、この地域の冬にしては珍しく大雨が降り、クレアたちも先へ行けないほどの雨だった。
3日間続いた雨がようやく止んで出発し、最初の頃はよかったのだが、進んでいくうちに道が酷くぬかるんできたのだ。
引き返せないところまで来てしまった後だったため、そのまま進むことを決意して進んでいたところで、馬が右前脚をくじいてそのまま荷車ごと横転。
荷車に積んでいた物はクレアの咄嗟の判断で亜空間に入り、何とか無事だったが、馬も荷車も再起不能の状態になっていた。
男はずっと馬が苦しそうにしているのを労るように背を撫でている。
クレアが解決できないわけではない。
脚は治してあげられるし、荷車だって元通りにしたり、亜空間に入れて運んだりできる。
しかし、それを行わないのには色々と理由があった。
「この馬、結構お年寄りですよね?
脚がもともと弱っているので、治しても悪化しちゃうと思います。
それと、この荷車も結構使い込まれていて、少しだけ腐ってる部分があります。
どちらも、これからを考えるなら治すよりは替えるべきだと思います」
「………やっぱり、お嬢ちゃんもそう思う?」
クレアの提案に、男は残念そうな顔をした。
男も替えどきなことには気づいていたようだ。
「こいつらは俺が商人始めたころからずっと同じだったんだ。どうしても思い入れがあってな。替えようと思っててもできなくてな………」
男は馬を撫でていた止めてクレアのほうを見た。
その表情には、期待が込められていた。
「お嬢ちゃんは魔法使いなんだろ?こいつと一生走ってられるような魔法とかがあるんじゃないのか?」
そういった魔法がないわけではない。
だが、今の状態ではできず、できたとしても男の心をを傷つけてしまうだろう。
あそこが作る魔法は傷つけるものばかりだ。
真実を伝えられないと判断したクレアは黙って首を横に振った。
「残念ながら、そう便利なものはないです。ここから先は歩いて行きましょう。
馬や荷車は私が持ちます。それで、近くの馬宿で休ませてあげましょう」
「………そう、だな。そうしようか。助かるよ」
男は明らかに希望を失った目をしていたが、商人として培われた精神力なのか、すぐに決心した。
男は馬をもう一度撫でて、小さく謝ってからそばを離れた。
そうして、クレアが馬と荷車を浮かせようとしたときだった。
「こんなところでどうしたんですか?」
ファルより少し低い、聞き慣れた声が後ろから聞こえて、思わず振り返る。
そこには、見かけ上、明るい茶髪のハーフアップに緑色の瞳、サファイアのピアスをつけた少しきつい印象の男が立っていた。
認識阻害で変わっている髪と瞳を見ても、すぐにわかった。
「リュカ…………リューク」
言い直したクレアの呟きに、リュークと呼ばれた男はクレアのほうを見て目を見開いた。
「……『ちびっ子』?君ここで立ち往生してたの?」
「『ちびっ子』はやめてっていってるでしょ」
クレアの返答に、リュークは確信したらしく、少しだけ口もとを綻ばせた。
「久しぶりに会うと、こんなに……嬉しいものなんだね」
リュークはクレアを見て優しく笑った。
「………なるほどね、ぬかるみで馬の脚も荷車も限界で途方に暮れていたんだ」
事情を聞いたリュークは馬と荷車を見て、少し考え込んでから、何かを決めたように頷いた。
リュークは足もとに詰めれば馬と荷車も合わせて全員が入れそうな円を書いた。
「それじゃあ、みんなこの円の中に入って」
リュークに言われるがまま、クレアは男と馬や荷車を一緒に入れてから円に入った。
全員が入ったのを確認したリュークは、円の真ん中に立った。
『студит кп конквшяф но』
パンッ
リュークが呪文を唱えて手を合わせると、円の中が光り出して、目も開けていられないほどの眩しさになる。
あまりの眩しさにクレアもみんなも目を閉じて、光が収まるのを待つ。
待っているうちに、賑やかな声が聞こえた。
子供や、その親らしき声。競りの声も聞こえる。
クレアが思わず目を開くと、目の前にはぬかるんだ地面が広がる長い道ではなく、石畳の街並みだった。
「ようこそ、検問のいらない小さな国のツィーシャへ」
リュークはにこりと笑ってみせた。
そこでクレアはリュークがアナスタシア王国の元魔法師団長だったことを思い出した。
旅立つ前に立ち寄った、ルフトが泊まる宿で、水晶玉を介して久しぶりにリュカオンと話をした。
『いろいろ話したいこともあるし、僕のとこに一回来ない?』
と、提案を受け、その流れでリュカオン───事情によって、次会うときには『リューク』と呼ぶように言われた───へ会いにツィーシャへ行くことになった。
ツィーシャはルクレイシアを西にほぼまっすぐ、誰かの荷車に乗り継がせてもらって1週間近く行ったところにある。
あと少しといったところで、クレアは立ち往生していた。
「んー、こりゃダメだな」
クレアの隣に立って状況判断をしたのは、ルクレイシアからずっと乗せてもらっていた荷車の主の男だった。
トランスヴァールに用事があるという彼に頼み、ツィーシャまで乗せて行ってもらうつもりだったが、ここに来てアクシデントが起きた。
4日ほど前、この地域の冬にしては珍しく大雨が降り、クレアたちも先へ行けないほどの雨だった。
3日間続いた雨がようやく止んで出発し、最初の頃はよかったのだが、進んでいくうちに道が酷くぬかるんできたのだ。
引き返せないところまで来てしまった後だったため、そのまま進むことを決意して進んでいたところで、馬が右前脚をくじいてそのまま荷車ごと横転。
荷車に積んでいた物はクレアの咄嗟の判断で亜空間に入り、何とか無事だったが、馬も荷車も再起不能の状態になっていた。
男はずっと馬が苦しそうにしているのを労るように背を撫でている。
クレアが解決できないわけではない。
脚は治してあげられるし、荷車だって元通りにしたり、亜空間に入れて運んだりできる。
しかし、それを行わないのには色々と理由があった。
「この馬、結構お年寄りですよね?
脚がもともと弱っているので、治しても悪化しちゃうと思います。
それと、この荷車も結構使い込まれていて、少しだけ腐ってる部分があります。
どちらも、これからを考えるなら治すよりは替えるべきだと思います」
「………やっぱり、お嬢ちゃんもそう思う?」
クレアの提案に、男は残念そうな顔をした。
男も替えどきなことには気づいていたようだ。
「こいつらは俺が商人始めたころからずっと同じだったんだ。どうしても思い入れがあってな。替えようと思っててもできなくてな………」
男は馬を撫でていた止めてクレアのほうを見た。
その表情には、期待が込められていた。
「お嬢ちゃんは魔法使いなんだろ?こいつと一生走ってられるような魔法とかがあるんじゃないのか?」
そういった魔法がないわけではない。
だが、今の状態ではできず、できたとしても男の心をを傷つけてしまうだろう。
あそこが作る魔法は傷つけるものばかりだ。
真実を伝えられないと判断したクレアは黙って首を横に振った。
「残念ながら、そう便利なものはないです。ここから先は歩いて行きましょう。
馬や荷車は私が持ちます。それで、近くの馬宿で休ませてあげましょう」
「………そう、だな。そうしようか。助かるよ」
男は明らかに希望を失った目をしていたが、商人として培われた精神力なのか、すぐに決心した。
男は馬をもう一度撫でて、小さく謝ってからそばを離れた。
そうして、クレアが馬と荷車を浮かせようとしたときだった。
「こんなところでどうしたんですか?」
ファルより少し低い、聞き慣れた声が後ろから聞こえて、思わず振り返る。
そこには、見かけ上、明るい茶髪のハーフアップに緑色の瞳、サファイアのピアスをつけた少しきつい印象の男が立っていた。
認識阻害で変わっている髪と瞳を見ても、すぐにわかった。
「リュカ…………リューク」
言い直したクレアの呟きに、リュークと呼ばれた男はクレアのほうを見て目を見開いた。
「……『ちびっ子』?君ここで立ち往生してたの?」
「『ちびっ子』はやめてっていってるでしょ」
クレアの返答に、リュークは確信したらしく、少しだけ口もとを綻ばせた。
「久しぶりに会うと、こんなに……嬉しいものなんだね」
リュークはクレアを見て優しく笑った。
「………なるほどね、ぬかるみで馬の脚も荷車も限界で途方に暮れていたんだ」
事情を聞いたリュークは馬と荷車を見て、少し考え込んでから、何かを決めたように頷いた。
リュークは足もとに詰めれば馬と荷車も合わせて全員が入れそうな円を書いた。
「それじゃあ、みんなこの円の中に入って」
リュークに言われるがまま、クレアは男と馬や荷車を一緒に入れてから円に入った。
全員が入ったのを確認したリュークは、円の真ん中に立った。
『студит кп конквшяф но』
パンッ
リュークが呪文を唱えて手を合わせると、円の中が光り出して、目も開けていられないほどの眩しさになる。
あまりの眩しさにクレアもみんなも目を閉じて、光が収まるのを待つ。
待っているうちに、賑やかな声が聞こえた。
子供や、その親らしき声。競りの声も聞こえる。
クレアが思わず目を開くと、目の前にはぬかるんだ地面が広がる長い道ではなく、石畳の街並みだった。
「ようこそ、検問のいらない小さな国のツィーシャへ」
リュークはにこりと笑ってみせた。
そこでクレアはリュークがアナスタシア王国の元魔法師団長だったことを思い出した。
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