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3章 依存国ツィーシャ
回想 (リュカオンside)
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「全部話さないといけないんだろうけど、僕も生憎、まだ整理しきれてないんだ。
僕の時間は二人が出て行って、『クレア』が死んだと聞いたあの日から止まってる」
僕がそういうと、『ちびっ子』は俯いてしまった。
『ちびっ子』が生きているのは予想外だった。
訃報が届いていなかったけど、『クレア』が死んだから、どこかで死んでしまったと思った。
あのときついていけば、なんてずっと後悔している。
「………出てく?まさか、ここを?」
今でも思い出せる。
「そう。明日、あの子とここを去る」
「それは、同情?」
「ん~……どうかな。わかんないや」
澄んだ冬の夜空を背景に笑う『クレア』はすごく複雑な表情をしていた。
これ以上は踏み込めなかった。
お互いが似たような関係だったから。
「………そっか。まあ、いいんじゃない?『クレア』って一回決めたら、てこでも動かないし」
「言ってくれるね?リュークは、困ってる人を見て助けられなかったら後悔しちゃうもんね?」
「……はあ?なにそれ反論じゃないでしょ」
「反論とかじゃなくて、事実!」
あの日が最後になるなら、もっと話しておけばよかったって、ずっと後悔している。
そうだよ。
二人を助けられなくて、今も後悔してる。
「じゃあね、リューク。元気でやってってね」
「…………うん」
次の日の深夜、『クレア』はそれだけ言って『ちびっ子』と走って出て行った。
『ちびっ子』を追い出したのは国だったのに、出て行くところを誰も見もしなかった。
出て行くように言われたのは『ちびっ子』だけだった。
『クレア』が着いて行く必要はなかった。
でも、『クレア』はあの子の手を取った。
僕もその手を取ればよかったんだ。
けど、逆らう勇気がなかった。
「…………二人が去って、この国も終わりかなって、思ったんだ」
まだ俯く『ちびっ子』に向かって話したら、おずおずとこっちを見てきた。
すごい申し訳なさそうな顔をしている。
15歳なのに、こんな業を背負うことになるなんて誰も思いもしない。
でも、そんな顔をする必要はない。
僕たちはみんな、あの国と教会の被害者だから。
僕は『ちびっ子』を見ながら口を開いた。
「考えてみなよ。あの国を2、3年間維持していたのは『ちびっ子』だろう?
国の要を『魔法使い』という理由だけで追い出したあの愚王が本当に嫌になってくるよ」
「愚王って………治世としてはよかったって聞いてるけど」
「外交は上手くやっていたよ。内政を放ってまで没頭していたくらいには他国にごますりしてた」
『追い出せ、殺せ。国王の目に触れる前に』
このころ、街の至る所で見かけた貼り紙にはそう書いてあった。
魔法使いを排除する動きが出てきた。
国王が代わり、魔法を毛嫌いする風潮が出てきた。
先王が急逝したせいで、いや、学ぶ意欲がなくて誰かの話を鵜呑みにするような方で、今までこの国がなぜ安全だったかも知らない国王のせいで、この国は終わりを迎えるんだと悟った。
そもそも先王がしていたことも許されないけど、まだ国を保とうと必死だった。
私欲に塗れた人間が王位に就いた時点で、タイムリミットは迫ってきていた。
「………やっぱり、減ってる」
二人が去ってから、国力は確実に弱体化した。
魔法の影響がなくなっていることを喜び、魔物が発生していることには目もくれなかった。
調査を行って、進言もしたけど、聞く耳を持たなかった。
王は気にしていなかった。
国民は気づいていないようだったけど、内情を知る僕からすれば、すぐに予想がつくものだった。
王はずっと、弱体化した国を守ってくれる大国にごますりをしていた。
馬鹿なものだった。
弱っていることをひけらかしているようなものだから。
「まあ、僕はそんな愚王のもとでクーデターのときも働いていたんだけどね」
「あんなに、逃げ出してやるって言ってたのに?」
僕の言葉が不思議だったみたいで、『ちびっ子』は怪訝な顔をしてきた。
そう考えるのも当たり前だ。
僕は『ちびっ子』たちに会いに行くと、度々愚痴を言っては、「いつかは出て行く」と豪語していたから。
「"命令"があったからね」
少しだけ言葉を濁して伝えた。
逃げようと思っていたのは本当だった。
僕は追い出しも殺されもされず、アナスタシア王家を護るという名目に変わった魔法師団の団長として働いていた。
魔法使いなのに残っていられたのは、"根回し"と"命令"が下ったからだった。
『見届け、報告しろ』
あんなに短い手紙は初めてだった。
多分、こいつも見限ったなと思った。
結局、抜け出そうという意気込みだけで、実行する勇気はなかった。
見限られていても、背いて殺されるのが怖かったから。
「僕は言われたとおりに国に居続けて、あの日も国に居た」
クーデターが起きた日。
僕は早朝から王都から離れた小屋みたいな場所でいつもみたいに研究をしていた。
あの場所が壊されてから、ずっとここを棲家にしていた。
あのころの僕には研究だけが心の支えだった。
まだ日が昇るには早い時間、いつもは静まっている時間が、昼のように騒がしくなった。
郊外のこの小屋にまで聞こえてくる騒がしさが不思議で、鳥の視覚を共有してもらう魔法を使って、王都を見て理解した。
ついに終わると。
「あのクーデターについて述べた最近の書物で使われている『革命軍』って方の主導者は、辺境の貴族だった。魔物の増加に耐えられないのに、あの愚王が何もしなかった結果だろうね。
民衆も貴族もいたけど、中でも驚いたのはやっぱり、トランスヴァールかな」
僕の言葉に『ちびっ子』は肩を揺らした。
今こうして隠れて生活しているのもトランスヴァールのせいなのだから、仕方がない。
トランスヴァールとアナスタシアの間には
『絶壁』と呼ばれたカラギナ砂漠があった。
天候が変わりやすくて、一度でも彷徨ったら野垂れ死ぬと言われているあの砂漠。
カラギナ砂漠を避けて通るにしても、険しい山がそこらに連なり、魔物も大量に発生していたから、1番最適なのはカラギナ砂漠を通ることだった。
カラギナ砂漠は軍事的に勢力を伸ばしていたトランスヴァールに侵略されない理由だった。
それなのに、当時のトランスヴァール軍は、カラギナ砂漠の近くに住むアナスタシアの人しか知らないはずの『安全ルート』を通ってきた。
裏切りだった。
カラギナ砂漠は国境地帯でもあって、魔物の増加が酷い場所だった。
先王は国を護るために、辺境を常に気にかけていた。
度々辺境に視察へ行って、困ったことがあればすぐに対処してやっていた。
その対処をするのは『ちびっ子』たちだったけれど、辺境のことも見ているということをアピールしていた。
ただ、愚王になってから、視察も対処としなかったことがここで裏目に出た。
辺境の情報は入ってくるまで時間がかかる。
知らないうちに、辺境では、トランスヴァールと領土割譲を条件に王家打倒に協力してもらう条約を結んでいた。
押し寄せてきた革命軍になす術もなく王城へ侵入を許し、一瞬にして王族が殺されていった。
「ここに王政は崩壊を認め、新たな時代の幕開けを宣言する!」
国王とその側近を除いた王家にいたすべての者が殺されて、貴族の政治が始まるように思えた。
それも一瞬にして終わりを迎えた。
トランスヴァールが裏切った。
王政の崩壊に歓喜し、緩みきっていた空気を好機に変えたトランスヴァールが、範囲を国中に広げて虐殺を始めた。
一瞬にして各地で叫び声が聞こえ出して、火の手も上がって、やりたい放題だった。
僕はいつでも、死の接近を察してから行動する。
惨状を目の当たりにして、ようやく動き出した。
"命令"は果たしたと、言い聞かせて、空から亡命した。
「たった半日であの国は終わった。
あっけなかったけど、当たり前と言ったら当たり前だったね。
………………問題はそこからだったけど」
「……指名手配」
『ちびっ子』の苦しそうなつぶやきが聞こえた。
『クレア』も『ちびっ子』も僕も、指名手配をされて生きづらくなった。
特に『クレア』と僕なんかは、故郷からも追われることになったから大変だった。
「トランスヴァールから指名手配されて、こうして再会したと思うと、ちょっと複雑なんだけどね」
僕が肩をすくめて言ってみせると、『ちびっ子』は少しだけ笑った。
これくらいにはぐらかしておいたほうが、お互いのためかもしれない。
僕は飲み終わったティーカップを魔法で台所まで運んで『ちびっ子』と向かい合った。
「まだ話せなさそうだし、今まで僕の隠し事でも話そうか」
「かくしごと………?」
『ちびっ子』はきょとんとした顔で僕を見てきた。
僕の時間は二人が出て行って、『クレア』が死んだと聞いたあの日から止まってる」
僕がそういうと、『ちびっ子』は俯いてしまった。
『ちびっ子』が生きているのは予想外だった。
訃報が届いていなかったけど、『クレア』が死んだから、どこかで死んでしまったと思った。
あのときついていけば、なんてずっと後悔している。
「………出てく?まさか、ここを?」
今でも思い出せる。
「そう。明日、あの子とここを去る」
「それは、同情?」
「ん~……どうかな。わかんないや」
澄んだ冬の夜空を背景に笑う『クレア』はすごく複雑な表情をしていた。
これ以上は踏み込めなかった。
お互いが似たような関係だったから。
「………そっか。まあ、いいんじゃない?『クレア』って一回決めたら、てこでも動かないし」
「言ってくれるね?リュークは、困ってる人を見て助けられなかったら後悔しちゃうもんね?」
「……はあ?なにそれ反論じゃないでしょ」
「反論とかじゃなくて、事実!」
あの日が最後になるなら、もっと話しておけばよかったって、ずっと後悔している。
そうだよ。
二人を助けられなくて、今も後悔してる。
「じゃあね、リューク。元気でやってってね」
「…………うん」
次の日の深夜、『クレア』はそれだけ言って『ちびっ子』と走って出て行った。
『ちびっ子』を追い出したのは国だったのに、出て行くところを誰も見もしなかった。
出て行くように言われたのは『ちびっ子』だけだった。
『クレア』が着いて行く必要はなかった。
でも、『クレア』はあの子の手を取った。
僕もその手を取ればよかったんだ。
けど、逆らう勇気がなかった。
「…………二人が去って、この国も終わりかなって、思ったんだ」
まだ俯く『ちびっ子』に向かって話したら、おずおずとこっちを見てきた。
すごい申し訳なさそうな顔をしている。
15歳なのに、こんな業を背負うことになるなんて誰も思いもしない。
でも、そんな顔をする必要はない。
僕たちはみんな、あの国と教会の被害者だから。
僕は『ちびっ子』を見ながら口を開いた。
「考えてみなよ。あの国を2、3年間維持していたのは『ちびっ子』だろう?
国の要を『魔法使い』という理由だけで追い出したあの愚王が本当に嫌になってくるよ」
「愚王って………治世としてはよかったって聞いてるけど」
「外交は上手くやっていたよ。内政を放ってまで没頭していたくらいには他国にごますりしてた」
『追い出せ、殺せ。国王の目に触れる前に』
このころ、街の至る所で見かけた貼り紙にはそう書いてあった。
魔法使いを排除する動きが出てきた。
国王が代わり、魔法を毛嫌いする風潮が出てきた。
先王が急逝したせいで、いや、学ぶ意欲がなくて誰かの話を鵜呑みにするような方で、今までこの国がなぜ安全だったかも知らない国王のせいで、この国は終わりを迎えるんだと悟った。
そもそも先王がしていたことも許されないけど、まだ国を保とうと必死だった。
私欲に塗れた人間が王位に就いた時点で、タイムリミットは迫ってきていた。
「………やっぱり、減ってる」
二人が去ってから、国力は確実に弱体化した。
魔法の影響がなくなっていることを喜び、魔物が発生していることには目もくれなかった。
調査を行って、進言もしたけど、聞く耳を持たなかった。
王は気にしていなかった。
国民は気づいていないようだったけど、内情を知る僕からすれば、すぐに予想がつくものだった。
王はずっと、弱体化した国を守ってくれる大国にごますりをしていた。
馬鹿なものだった。
弱っていることをひけらかしているようなものだから。
「まあ、僕はそんな愚王のもとでクーデターのときも働いていたんだけどね」
「あんなに、逃げ出してやるって言ってたのに?」
僕の言葉が不思議だったみたいで、『ちびっ子』は怪訝な顔をしてきた。
そう考えるのも当たり前だ。
僕は『ちびっ子』たちに会いに行くと、度々愚痴を言っては、「いつかは出て行く」と豪語していたから。
「"命令"があったからね」
少しだけ言葉を濁して伝えた。
逃げようと思っていたのは本当だった。
僕は追い出しも殺されもされず、アナスタシア王家を護るという名目に変わった魔法師団の団長として働いていた。
魔法使いなのに残っていられたのは、"根回し"と"命令"が下ったからだった。
『見届け、報告しろ』
あんなに短い手紙は初めてだった。
多分、こいつも見限ったなと思った。
結局、抜け出そうという意気込みだけで、実行する勇気はなかった。
見限られていても、背いて殺されるのが怖かったから。
「僕は言われたとおりに国に居続けて、あの日も国に居た」
クーデターが起きた日。
僕は早朝から王都から離れた小屋みたいな場所でいつもみたいに研究をしていた。
あの場所が壊されてから、ずっとここを棲家にしていた。
あのころの僕には研究だけが心の支えだった。
まだ日が昇るには早い時間、いつもは静まっている時間が、昼のように騒がしくなった。
郊外のこの小屋にまで聞こえてくる騒がしさが不思議で、鳥の視覚を共有してもらう魔法を使って、王都を見て理解した。
ついに終わると。
「あのクーデターについて述べた最近の書物で使われている『革命軍』って方の主導者は、辺境の貴族だった。魔物の増加に耐えられないのに、あの愚王が何もしなかった結果だろうね。
民衆も貴族もいたけど、中でも驚いたのはやっぱり、トランスヴァールかな」
僕の言葉に『ちびっ子』は肩を揺らした。
今こうして隠れて生活しているのもトランスヴァールのせいなのだから、仕方がない。
トランスヴァールとアナスタシアの間には
『絶壁』と呼ばれたカラギナ砂漠があった。
天候が変わりやすくて、一度でも彷徨ったら野垂れ死ぬと言われているあの砂漠。
カラギナ砂漠を避けて通るにしても、険しい山がそこらに連なり、魔物も大量に発生していたから、1番最適なのはカラギナ砂漠を通ることだった。
カラギナ砂漠は軍事的に勢力を伸ばしていたトランスヴァールに侵略されない理由だった。
それなのに、当時のトランスヴァール軍は、カラギナ砂漠の近くに住むアナスタシアの人しか知らないはずの『安全ルート』を通ってきた。
裏切りだった。
カラギナ砂漠は国境地帯でもあって、魔物の増加が酷い場所だった。
先王は国を護るために、辺境を常に気にかけていた。
度々辺境に視察へ行って、困ったことがあればすぐに対処してやっていた。
その対処をするのは『ちびっ子』たちだったけれど、辺境のことも見ているということをアピールしていた。
ただ、愚王になってから、視察も対処としなかったことがここで裏目に出た。
辺境の情報は入ってくるまで時間がかかる。
知らないうちに、辺境では、トランスヴァールと領土割譲を条件に王家打倒に協力してもらう条約を結んでいた。
押し寄せてきた革命軍になす術もなく王城へ侵入を許し、一瞬にして王族が殺されていった。
「ここに王政は崩壊を認め、新たな時代の幕開けを宣言する!」
国王とその側近を除いた王家にいたすべての者が殺されて、貴族の政治が始まるように思えた。
それも一瞬にして終わりを迎えた。
トランスヴァールが裏切った。
王政の崩壊に歓喜し、緩みきっていた空気を好機に変えたトランスヴァールが、範囲を国中に広げて虐殺を始めた。
一瞬にして各地で叫び声が聞こえ出して、火の手も上がって、やりたい放題だった。
僕はいつでも、死の接近を察してから行動する。
惨状を目の当たりにして、ようやく動き出した。
"命令"は果たしたと、言い聞かせて、空から亡命した。
「たった半日であの国は終わった。
あっけなかったけど、当たり前と言ったら当たり前だったね。
………………問題はそこからだったけど」
「……指名手配」
『ちびっ子』の苦しそうなつぶやきが聞こえた。
『クレア』も『ちびっ子』も僕も、指名手配をされて生きづらくなった。
特に『クレア』と僕なんかは、故郷からも追われることになったから大変だった。
「トランスヴァールから指名手配されて、こうして再会したと思うと、ちょっと複雑なんだけどね」
僕が肩をすくめて言ってみせると、『ちびっ子』は少しだけ笑った。
これくらいにはぐらかしておいたほうが、お互いのためかもしれない。
僕は飲み終わったティーカップを魔法で台所まで運んで『ちびっ子』と向かい合った。
「まだ話せなさそうだし、今まで僕の隠し事でも話そうか」
「かくしごと………?」
『ちびっ子』はきょとんとした顔で僕を見てきた。
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