14 / 102
1章 商業都市フレンティア
大魔協
しおりを挟む
「悪い、すぐ動けなかった」
「気にすんな、ゼルナが動いてくれたけど俺も動けなかったし」
男の起こしたことをゼルナが警備舎に魔法で伝え、身柄も転移魔法で送ると、俺は2人に頭を下げた。
ハースは俺が落ち込んでいるのに気づいて、肩を優しく叩いた。
しかし、ゼルナは何かを考えこんだまま口を開けない。
俺とハースがゼルナを見て黙っていると、ゼルナはやっと口を開いた。
「ルーク隊長、クレアさんは大魔協に所属していますか?」
「え、たいまきょう…?」
俺の謝罪に対する言葉だと思っていたが、ゼルナは先ほどの男の言葉を気にしているようだった。
しかし、『たいまきょう』とはなんだろうか。
俺が首を傾げたのを見て、ゼルナはすぐに補足を加えてくれた。
「大魔協は『大陸魔法使い協会』の蔑称です。自分は言いやすいから使ってるだけですが…」
「あ、あぁ、そうなのか。クレアの所属は確かそこだったはずだが、どうしてそんなことを?」
俺の問いはハースも同じように思っていたようで、ゼルナに答えを求めた。
ゼルナは何か納得したようなそぶりを見せた。
「ここ、魔法使い少ないですもんね。知らなくて当然です。……さっきの男が死に際に叫んでいた言葉を覚えていますか?」
「えーと……、確か、『あの方』とか『救済者』、あとは『オメルタ、ガイア』って言ってたな」
「はい、その通りです。おふたりには馴染みがないかもしれませんが……オメルタとガイアは大魔協が信仰している魔法の神と全能の神です」
「「っ!!」」
偶然とは思えない。俺たちは唾を飲み込んだ。
ゼルナは淡々と言葉を紡ぐ。
「大魔協以外の魔法使い協会や連盟はオメルタを崇めることはあっても、ガイアを崇めることはありません。
それにあの姿勢。死に際のあの姿勢は大魔協で昔から伝わる祈りの捧げ方です。
あとは、途中で切れた魔道具。……実はあの瞬間、膨大な魔力が周辺に突然発生しました。
自分の推測の域ですが、あれは魔力増強剤だと思います。魔力が増える代わりに、正気が保てなくなる類のものです。
効果があるのは、魔力が多く生活魔法以外の魔法も使える魔法使いに限られます。
つまり、あの男は十中八九魔法使いです」
この場にゼルナがいなければ気づかなかったことだ。
ゼルナはやはり、筆頭魔法使いだ。
俺はゼルナの話を聞いた上でひとつ質問する。
「今回のこととクレアのことは関係があると思っていいのか?」
「可能性は高いです。大魔協は宗教的な側面が強い場所ですし、何しろクレアさんの膨大な魔力とあの技術は維持費を稼ぐのにはもってこいです」
「……連れ戻しに来たってことか?」
「「!!」」
ハースの呟きに否定できなかった。
魔法使いは所属する協会や連盟からレンタルすることができる。金額は『貸す』側が決定権を持つが、『借りる』側は謝礼金を傘増しして払うことができる。
何度か人身売買に近いもので、魔法使いを侮辱していると訴えられているが未だに変わっていない。
クレアは年齢的にも逆らえず金づるになるしかなかったのかもしれない。
それで逃走して、居場所が割れたとしたら。
大魔協が探しにくるのも考えられるだろう。
(つまり今、クレアはテッドと大陸魔法使い協会に狙われているのか……?)
最悪な事態になった。
魔法使いには魔法使いが対処するのが一般だが、フレンティアは魔法使いの人口が極めて少ない。
クレアとゼルナを抜けば、今のフレンティアにいる魔法使いがまとまっても大魔協に勝てるかはわからない。
そして、少ないものの貴族層をバックに持つテッド。
テッドを敵に回すのは、テッドにつく貴族を敵に回すのと同じだ。
力も権力も何もかも俺たちが下だ。
どうすればいいのだろう。
(いや、諦めるな!)
俺はネガティブになっていた自分の考えを追い払うように頭をブンブンと振った。
そうだ、諦めるな。
どうすればいいじゃない、俺たちがどうにかするんだ。
それしかない。
俺は覚悟を決めて胸を強く叩いた。
ハースは俺の顔を見て自分も腹を括ったようだ。
ゼルナは、急に熱くなった俺を見てすごく顔を顰めた。
(僕、この人たちと同じでほんとうに大丈夫か………?
絶対倒れるじゃん…………)
働き詰めにされて疲れる未来を感じたゼルナは、盛大にため息をついた。
「気にすんな、ゼルナが動いてくれたけど俺も動けなかったし」
男の起こしたことをゼルナが警備舎に魔法で伝え、身柄も転移魔法で送ると、俺は2人に頭を下げた。
ハースは俺が落ち込んでいるのに気づいて、肩を優しく叩いた。
しかし、ゼルナは何かを考えこんだまま口を開けない。
俺とハースがゼルナを見て黙っていると、ゼルナはやっと口を開いた。
「ルーク隊長、クレアさんは大魔協に所属していますか?」
「え、たいまきょう…?」
俺の謝罪に対する言葉だと思っていたが、ゼルナは先ほどの男の言葉を気にしているようだった。
しかし、『たいまきょう』とはなんだろうか。
俺が首を傾げたのを見て、ゼルナはすぐに補足を加えてくれた。
「大魔協は『大陸魔法使い協会』の蔑称です。自分は言いやすいから使ってるだけですが…」
「あ、あぁ、そうなのか。クレアの所属は確かそこだったはずだが、どうしてそんなことを?」
俺の問いはハースも同じように思っていたようで、ゼルナに答えを求めた。
ゼルナは何か納得したようなそぶりを見せた。
「ここ、魔法使い少ないですもんね。知らなくて当然です。……さっきの男が死に際に叫んでいた言葉を覚えていますか?」
「えーと……、確か、『あの方』とか『救済者』、あとは『オメルタ、ガイア』って言ってたな」
「はい、その通りです。おふたりには馴染みがないかもしれませんが……オメルタとガイアは大魔協が信仰している魔法の神と全能の神です」
「「っ!!」」
偶然とは思えない。俺たちは唾を飲み込んだ。
ゼルナは淡々と言葉を紡ぐ。
「大魔協以外の魔法使い協会や連盟はオメルタを崇めることはあっても、ガイアを崇めることはありません。
それにあの姿勢。死に際のあの姿勢は大魔協で昔から伝わる祈りの捧げ方です。
あとは、途中で切れた魔道具。……実はあの瞬間、膨大な魔力が周辺に突然発生しました。
自分の推測の域ですが、あれは魔力増強剤だと思います。魔力が増える代わりに、正気が保てなくなる類のものです。
効果があるのは、魔力が多く生活魔法以外の魔法も使える魔法使いに限られます。
つまり、あの男は十中八九魔法使いです」
この場にゼルナがいなければ気づかなかったことだ。
ゼルナはやはり、筆頭魔法使いだ。
俺はゼルナの話を聞いた上でひとつ質問する。
「今回のこととクレアのことは関係があると思っていいのか?」
「可能性は高いです。大魔協は宗教的な側面が強い場所ですし、何しろクレアさんの膨大な魔力とあの技術は維持費を稼ぐのにはもってこいです」
「……連れ戻しに来たってことか?」
「「!!」」
ハースの呟きに否定できなかった。
魔法使いは所属する協会や連盟からレンタルすることができる。金額は『貸す』側が決定権を持つが、『借りる』側は謝礼金を傘増しして払うことができる。
何度か人身売買に近いもので、魔法使いを侮辱していると訴えられているが未だに変わっていない。
クレアは年齢的にも逆らえず金づるになるしかなかったのかもしれない。
それで逃走して、居場所が割れたとしたら。
大魔協が探しにくるのも考えられるだろう。
(つまり今、クレアはテッドと大陸魔法使い協会に狙われているのか……?)
最悪な事態になった。
魔法使いには魔法使いが対処するのが一般だが、フレンティアは魔法使いの人口が極めて少ない。
クレアとゼルナを抜けば、今のフレンティアにいる魔法使いがまとまっても大魔協に勝てるかはわからない。
そして、少ないものの貴族層をバックに持つテッド。
テッドを敵に回すのは、テッドにつく貴族を敵に回すのと同じだ。
力も権力も何もかも俺たちが下だ。
どうすればいいのだろう。
(いや、諦めるな!)
俺はネガティブになっていた自分の考えを追い払うように頭をブンブンと振った。
そうだ、諦めるな。
どうすればいいじゃない、俺たちがどうにかするんだ。
それしかない。
俺は覚悟を決めて胸を強く叩いた。
ハースは俺の顔を見て自分も腹を括ったようだ。
ゼルナは、急に熱くなった俺を見てすごく顔を顰めた。
(僕、この人たちと同じでほんとうに大丈夫か………?
絶対倒れるじゃん…………)
働き詰めにされて疲れる未来を感じたゼルナは、盛大にため息をついた。
10
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる