33 / 102
1章 商業都市フレンティア
暴露 (ゼルナside)
しおりを挟む
すべてを言い切ったメイウェル伯爵は、クレアさんの手を掴んだ。
「私は全部言ったぞ!だからっ、早くアレをどうにかしてくれ!!」
解放される安堵と、アメリア令嬢が治る喜びとが混ざり合って、メイウェル伯爵の表情はこれ以上ないほどに綻んでいた。
正直言ってあまり近づかないでほしいくらい気持ち悪い。
クレアさんはヒルゼ様のほうを向いて、
「案内してください」
とお願いした。
一連の流れを近くで、黙って見ていたヒルゼ様は、クレアさんを複雑な表情で見つめた。
そして、どうにもならないと考えることを止めるように息を吐いて、取り調べ室を出た。
「全知全能だぁっ!!」
「ふふふ、ガイアが世を正すんだ!!」
「早く、いかないと!!あぁ、ガイア!!」
地獄絵図だった。
アメリア令嬢を軟禁していた部屋で、アメリア令嬢は例のポーズをしながら意味のわからないことをずっと言っていた。
聞くところによると、軟禁してからずっと今までこの状態らしい。
様子を一目見に来たメイウェル伯爵は、娘の変わり果てた姿に一層顔面を青くして、クレアさんにすがりつこうとする。
すんでのところでヒルゼ様が止めてくれたけど……、メイウェル伯爵はプライドがないのだろうか。
黙ってアメリア令嬢を見ていたクレアさんは、静かに部屋の中へ入った。
突然のことで、誰もクレアさんを止められなかった。
扉と反対側にある窓に顔を向けて、例のポーズのまま叫んでいるアメリア令嬢は、クレアさんが入ってきたのもわかってないようだった。
クレアさんはアメリア令嬢の視界に映るように、目の前まで歩いて、止まった。
アメリア令嬢は目の前に立つクレアさんを見て、クレアさんを指さして「あぁぁぁぁっ!!!」と叫んだ。
こちらからではアメリア令嬢の顔は見えない。
一体何が起きたんだろうか。
クレアさんが何か言おうとしたのと被せるように、アメリア令嬢が口を開いた。
「お、お前!銀の魔法使い!!知ってる、知ってるぞ!!」
しん………と静まり返った部屋の中で、アメリア令嬢だけが、僕たちの方を向いてクレアさんを指さし、騒ぎ立てて、その言葉が周りにいる全員に届く。
「アナスタシア王国を追放された出来損ない!!ガイアの、ガイアの慈悲を馬鹿にした!!死んでしまえ!!!」
「知ってる、知ってるぞ!お前の名前も、お前の過去も、全部全部全部!!!ガイアが教えてくれた!!!」
「ガイアはお前を裁くために、私にすべてを与えたんだ!!!殺してやる!!殺してやる!!」
「死んで償え!出来損ない!!!」
「ははは!怖いのか?さっきから動いてないぞ!」
「お前はあの日、多くの人を犠牲にした!!そして、お前はクレアを、」
『閉じろ』
罵倒され続けていたクレアさんが最初に発したのは、魔法だった。
アメリア令嬢の口は閉ざされ、喋ろうと思っても口を開けないでいる。
「たしかに多くの犠牲を出した。後悔しない日はない」
俯いているクレアさんの顔は見えない。
でも、声が傷ついているみたいだ。
後ろに立つクレアさんはアメリア令嬢に近づいて頭に手を置いた。
アメリア令嬢は触れられたくないらしく、とんでもなく暴れるが、クレアさんはお構いなしにアメリア令嬢を縛り上げた。
そして、もう一度頭に手を置いた。
『解呪』
クレアさんのひと言で、あたりは黄金色に包まれて何も見えなくなる。
眩しくて、きゅっと目を瞑り、次に目を開けたときには、クレアさんの腕の中で脱力したアメリア令嬢がいた。
そして、数秒してアメリア令嬢が目を覚ました。
「あら……ここは?貴方は……?」
先ほどとは打って変わって清楚なアメリア令嬢に、僕を含めた皆で目を白黒させた。
貴族と関わることは平民の僕たちには少ないことだから、アメリア令嬢の本来の性格を知らなかったことが多分原因だ。
あたりを見回して、なぜここにいるのかわからないでいるアメリア令嬢に、メイウェル伯爵が駆け寄った。
クレアさんを押し退けて。
「アメリア……ッ!本当に、よかった……!」
「お、お父様?一体何が……」
ここだけ切り取れば、娘の完治を喜ぶ家族想いな伯爵だ。
でも、クレアさんを押し退けたことが、すべてを無に帰している。
メイウェル伯爵はクレアさんを一瞥した。
「お前がそんなに恐ろしいやつだったなんて知らなかったぞ!娘が治ったからいいものの……お前は化け物だ!」
娘の恩人になんてことを言っているのだろう。
化け物?
どうして、こんなに恩知らずなんだ。
僕は思わず怒りに震えた。
クレアさんがこんなことを言われる筋合いはないのに、どうして彼女に、しかも15歳の歳下の少女に酷いことが言えるんだ。
傷ついているのではないかと、クレアさんの顔を伺うと、クレアさんは蔑みのこもった瞳を向けて微笑んでいた。
「……治ったら駆け寄るんですね」
クレアさんはそれだけ言って、部屋を出て行った。
部屋には、クレアさんを無礼だと非難するメイウェル伯爵と、状況を掴めていないアメリア令嬢、そしてギャラリーの警備員たちが残り、空気は最悪を極めてしまった。
クレアさんの話が本当なのかとざわめき出した。
居心地が悪くなった僕は、クレアさんが気になって、すぐに後を追った。
「私は全部言ったぞ!だからっ、早くアレをどうにかしてくれ!!」
解放される安堵と、アメリア令嬢が治る喜びとが混ざり合って、メイウェル伯爵の表情はこれ以上ないほどに綻んでいた。
正直言ってあまり近づかないでほしいくらい気持ち悪い。
クレアさんはヒルゼ様のほうを向いて、
「案内してください」
とお願いした。
一連の流れを近くで、黙って見ていたヒルゼ様は、クレアさんを複雑な表情で見つめた。
そして、どうにもならないと考えることを止めるように息を吐いて、取り調べ室を出た。
「全知全能だぁっ!!」
「ふふふ、ガイアが世を正すんだ!!」
「早く、いかないと!!あぁ、ガイア!!」
地獄絵図だった。
アメリア令嬢を軟禁していた部屋で、アメリア令嬢は例のポーズをしながら意味のわからないことをずっと言っていた。
聞くところによると、軟禁してからずっと今までこの状態らしい。
様子を一目見に来たメイウェル伯爵は、娘の変わり果てた姿に一層顔面を青くして、クレアさんにすがりつこうとする。
すんでのところでヒルゼ様が止めてくれたけど……、メイウェル伯爵はプライドがないのだろうか。
黙ってアメリア令嬢を見ていたクレアさんは、静かに部屋の中へ入った。
突然のことで、誰もクレアさんを止められなかった。
扉と反対側にある窓に顔を向けて、例のポーズのまま叫んでいるアメリア令嬢は、クレアさんが入ってきたのもわかってないようだった。
クレアさんはアメリア令嬢の視界に映るように、目の前まで歩いて、止まった。
アメリア令嬢は目の前に立つクレアさんを見て、クレアさんを指さして「あぁぁぁぁっ!!!」と叫んだ。
こちらからではアメリア令嬢の顔は見えない。
一体何が起きたんだろうか。
クレアさんが何か言おうとしたのと被せるように、アメリア令嬢が口を開いた。
「お、お前!銀の魔法使い!!知ってる、知ってるぞ!!」
しん………と静まり返った部屋の中で、アメリア令嬢だけが、僕たちの方を向いてクレアさんを指さし、騒ぎ立てて、その言葉が周りにいる全員に届く。
「アナスタシア王国を追放された出来損ない!!ガイアの、ガイアの慈悲を馬鹿にした!!死んでしまえ!!!」
「知ってる、知ってるぞ!お前の名前も、お前の過去も、全部全部全部!!!ガイアが教えてくれた!!!」
「ガイアはお前を裁くために、私にすべてを与えたんだ!!!殺してやる!!殺してやる!!」
「死んで償え!出来損ない!!!」
「ははは!怖いのか?さっきから動いてないぞ!」
「お前はあの日、多くの人を犠牲にした!!そして、お前はクレアを、」
『閉じろ』
罵倒され続けていたクレアさんが最初に発したのは、魔法だった。
アメリア令嬢の口は閉ざされ、喋ろうと思っても口を開けないでいる。
「たしかに多くの犠牲を出した。後悔しない日はない」
俯いているクレアさんの顔は見えない。
でも、声が傷ついているみたいだ。
後ろに立つクレアさんはアメリア令嬢に近づいて頭に手を置いた。
アメリア令嬢は触れられたくないらしく、とんでもなく暴れるが、クレアさんはお構いなしにアメリア令嬢を縛り上げた。
そして、もう一度頭に手を置いた。
『解呪』
クレアさんのひと言で、あたりは黄金色に包まれて何も見えなくなる。
眩しくて、きゅっと目を瞑り、次に目を開けたときには、クレアさんの腕の中で脱力したアメリア令嬢がいた。
そして、数秒してアメリア令嬢が目を覚ました。
「あら……ここは?貴方は……?」
先ほどとは打って変わって清楚なアメリア令嬢に、僕を含めた皆で目を白黒させた。
貴族と関わることは平民の僕たちには少ないことだから、アメリア令嬢の本来の性格を知らなかったことが多分原因だ。
あたりを見回して、なぜここにいるのかわからないでいるアメリア令嬢に、メイウェル伯爵が駆け寄った。
クレアさんを押し退けて。
「アメリア……ッ!本当に、よかった……!」
「お、お父様?一体何が……」
ここだけ切り取れば、娘の完治を喜ぶ家族想いな伯爵だ。
でも、クレアさんを押し退けたことが、すべてを無に帰している。
メイウェル伯爵はクレアさんを一瞥した。
「お前がそんなに恐ろしいやつだったなんて知らなかったぞ!娘が治ったからいいものの……お前は化け物だ!」
娘の恩人になんてことを言っているのだろう。
化け物?
どうして、こんなに恩知らずなんだ。
僕は思わず怒りに震えた。
クレアさんがこんなことを言われる筋合いはないのに、どうして彼女に、しかも15歳の歳下の少女に酷いことが言えるんだ。
傷ついているのではないかと、クレアさんの顔を伺うと、クレアさんは蔑みのこもった瞳を向けて微笑んでいた。
「……治ったら駆け寄るんですね」
クレアさんはそれだけ言って、部屋を出て行った。
部屋には、クレアさんを無礼だと非難するメイウェル伯爵と、状況を掴めていないアメリア令嬢、そしてギャラリーの警備員たちが残り、空気は最悪を極めてしまった。
クレアさんの話が本当なのかとざわめき出した。
居心地が悪くなった僕は、クレアさんが気になって、すぐに後を追った。
11
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる