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2章 魔法の国ルクレイシア
セイルクのお願い
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書店を後にしたクレアは、気づけば賑やかな中心地へ来ていた。
走り疲れたクレアは目の前にあるベンチに腰掛け空を見上げた。
鼠色の雲が立ち込めている。
そろそろ雪が降るかもしれない。
視線を上から下に落とし、さっき起きた出来事を思い出す。
ハシュアたちは大丈夫だろうか。
簡単な対処をしてすぐに出ていったせいでわからない。
ハシュアの驚いた顔と、クレアの魔力を拒絶しようとしたセイルクの体。
頭から離れない2人を交互に思い出していると、雪が降り始めた。
しんしんとおとなしく降る雪を見つめていると、目の前に誰かが立ちはだかった。
ゆっくりと顔を上げてみると、そこには紫紺色の長い髪をひとつにまとめ、小麦色の切れ長の瞳を潤ませ、目を腫らしたセイルクが立っていた。
寒さのせいなのか、それともその目の腫れと同じ理由なのか。
セイルクは鼻まで赤くさせてクレアを見定めていた。
クレアは何も喋らないセイルクが見つめてくるのが怖くなり、その場を立ち去ろうとした。
しかし、クレアがベンチを立った途端にセイルクがクレアの腕を掴んだ。
「………何か、ありましたか」
おそるおそるクレアが尋ねると、セイルクは口を開いては閉じてを繰り返す。
何を言い淀んでいるのか。
長い間セイルクの言葉を待っていると、セイルクが何かを小さく呟いた。
クレアが聞き取れず首を傾げると、セイルクは次は大きな声を出した。
「~~~っ、暴走止めてくれて助かった!
……それだけだ」
「え?あ、あぁ……どういたしまして」
突然の大声に驚きつつも返すクレアにセイルクはまだ何か言いたそうな顔をしている。
一体なんだというのか。
クレアが少し歩き出すと、親に置いていかれそうな子供みたいに見てくる。
「………あー、今日は疲れたし、図書館に寄ったら宿に戻って休もうかな」
クレアはセイルクに聞こえるように大きな声で言って後ろを気にせず歩き出した。
雪が降る中、白くなっていく視界の中でクレアのローブは黒色なので、すぐに追うことができる。
トントン……
クレアの足音に続くように後ろから気づかれないように慎重に歩く足音が聞こえてきた。
結局、図書館への道中一度も話しかけられることはなかった。
【ルクレイシア国立図書館】
『一般的な』魔法の本が珍しいものから赤子の入門編まで幅広いレベルが収蔵されている。
魔法を学ぶならここだとお勧めされることもしばしば。
クレアが図書館の入り口まで来て振り返ると、案の定セイルクが跡を追っていた。
急に振り返ったクレアに驚いてセイルクは歩みを止めた。
クレアが無言で見つめていると、責められていると感じたのか、それとも何か話す勇気でもできたのかわからないが、セイルクが口を開いた。
「………お前、俺よりも魔力が多いんだって」
「そうなんですか?」
「あぁ、それに、コントロールも上手いって」
「それは……ありがとうございます」
クレアが正直にお礼を言うと、セイルクは少し顔を歪めた。
プライドが許さないのだろうか。
「…………あ、のさ」
少し不満そうに、そして悲しそうに声を震わせてセイルクはもう一度口を開く。
クレアが黙って待っていると、セイルクは言いたくなさそうに何度か顔をしかめさせたが、腹を括ったのかクレアを見つめ返した。
「俺に、魔法を教えてほしい」
「……………は」
唐突な頼みにクレアはぽかんと口を開けることしかできなかった。
自分の魔法を手品だと馬鹿にしたセイルクが、なぜ教えを乞うのだろうか。
クレアが何も言えないでいると、セイルクはクレアの手を取って図書館へ引っ張る。
「そうと決まれば魔導書借りるぞ」
「え…ちょっと!?」
了承もしていないのに魔法を教えることになったらしく、クレアは困惑しながらセイルクに連れて行かれる。
中に入ったらゆっくりしたかったクレアは、セイルクのせいで入り口を風のように通り過ぎ、調べたいコーナーを通り過ぎ、あっという間に魔導書がある棚までやってきてしまった。
慣れた歩きからして、セイルクはここにはよく来ているのだろう。
しかし、そんなこと関係なくクレアは図書館で調べ物をする予定が狂ったことに少しだけ憤りを感じていた。
セイルクはそんなクレアに気づかず、いろんな魔導書を手に取っては腕の中に収めている。
(自己中心的ってこういう人かな……)
クレアはじとっとした目でセイルクを見ながら思った。
ひととおり選び終わったのか、5冊くらいの魔導書を借りたセイルクはクレアの手を引いて図書館の階上へ連れていく。
上の階は本が収蔵されているわけではなく、外の景色が見えるドーム状のガラスが天井の代わりになった、とても広い空間だけだった。
「……ここは?」
「魔法が使える場所だ。中級魔法までなら耐えられる構造をしてる」
「へぇ……」
クレアは壁から微細な魔力を感じ取った。
きっとこれが結界だろう。
図書館の本は持ち出し禁止のものもあり、そう言った本の魔法を使いたいときや、試しに使う場所がないときなどに誰でも使えるように開放されているらしい。
クレアが部屋の構造に気になっていると、セイルクがクレアの目の前に本を突き出した。
魔法文字による呪文が書いてあり、隣には魔法陣が載っている。
(これは……)
クレアが本から視線を外してセイルクを見ると、とても真剣な表情でこちらを見ていた。
「これを教えてほしい」
セイルクがクレアに頼んだ魔法は『飛行』の魔法だった。
走り疲れたクレアは目の前にあるベンチに腰掛け空を見上げた。
鼠色の雲が立ち込めている。
そろそろ雪が降るかもしれない。
視線を上から下に落とし、さっき起きた出来事を思い出す。
ハシュアたちは大丈夫だろうか。
簡単な対処をしてすぐに出ていったせいでわからない。
ハシュアの驚いた顔と、クレアの魔力を拒絶しようとしたセイルクの体。
頭から離れない2人を交互に思い出していると、雪が降り始めた。
しんしんとおとなしく降る雪を見つめていると、目の前に誰かが立ちはだかった。
ゆっくりと顔を上げてみると、そこには紫紺色の長い髪をひとつにまとめ、小麦色の切れ長の瞳を潤ませ、目を腫らしたセイルクが立っていた。
寒さのせいなのか、それともその目の腫れと同じ理由なのか。
セイルクは鼻まで赤くさせてクレアを見定めていた。
クレアは何も喋らないセイルクが見つめてくるのが怖くなり、その場を立ち去ろうとした。
しかし、クレアがベンチを立った途端にセイルクがクレアの腕を掴んだ。
「………何か、ありましたか」
おそるおそるクレアが尋ねると、セイルクは口を開いては閉じてを繰り返す。
何を言い淀んでいるのか。
長い間セイルクの言葉を待っていると、セイルクが何かを小さく呟いた。
クレアが聞き取れず首を傾げると、セイルクは次は大きな声を出した。
「~~~っ、暴走止めてくれて助かった!
……それだけだ」
「え?あ、あぁ……どういたしまして」
突然の大声に驚きつつも返すクレアにセイルクはまだ何か言いたそうな顔をしている。
一体なんだというのか。
クレアが少し歩き出すと、親に置いていかれそうな子供みたいに見てくる。
「………あー、今日は疲れたし、図書館に寄ったら宿に戻って休もうかな」
クレアはセイルクに聞こえるように大きな声で言って後ろを気にせず歩き出した。
雪が降る中、白くなっていく視界の中でクレアのローブは黒色なので、すぐに追うことができる。
トントン……
クレアの足音に続くように後ろから気づかれないように慎重に歩く足音が聞こえてきた。
結局、図書館への道中一度も話しかけられることはなかった。
【ルクレイシア国立図書館】
『一般的な』魔法の本が珍しいものから赤子の入門編まで幅広いレベルが収蔵されている。
魔法を学ぶならここだとお勧めされることもしばしば。
クレアが図書館の入り口まで来て振り返ると、案の定セイルクが跡を追っていた。
急に振り返ったクレアに驚いてセイルクは歩みを止めた。
クレアが無言で見つめていると、責められていると感じたのか、それとも何か話す勇気でもできたのかわからないが、セイルクが口を開いた。
「………お前、俺よりも魔力が多いんだって」
「そうなんですか?」
「あぁ、それに、コントロールも上手いって」
「それは……ありがとうございます」
クレアが正直にお礼を言うと、セイルクは少し顔を歪めた。
プライドが許さないのだろうか。
「…………あ、のさ」
少し不満そうに、そして悲しそうに声を震わせてセイルクはもう一度口を開く。
クレアが黙って待っていると、セイルクは言いたくなさそうに何度か顔をしかめさせたが、腹を括ったのかクレアを見つめ返した。
「俺に、魔法を教えてほしい」
「……………は」
唐突な頼みにクレアはぽかんと口を開けることしかできなかった。
自分の魔法を手品だと馬鹿にしたセイルクが、なぜ教えを乞うのだろうか。
クレアが何も言えないでいると、セイルクはクレアの手を取って図書館へ引っ張る。
「そうと決まれば魔導書借りるぞ」
「え…ちょっと!?」
了承もしていないのに魔法を教えることになったらしく、クレアは困惑しながらセイルクに連れて行かれる。
中に入ったらゆっくりしたかったクレアは、セイルクのせいで入り口を風のように通り過ぎ、調べたいコーナーを通り過ぎ、あっという間に魔導書がある棚までやってきてしまった。
慣れた歩きからして、セイルクはここにはよく来ているのだろう。
しかし、そんなこと関係なくクレアは図書館で調べ物をする予定が狂ったことに少しだけ憤りを感じていた。
セイルクはそんなクレアに気づかず、いろんな魔導書を手に取っては腕の中に収めている。
(自己中心的ってこういう人かな……)
クレアはじとっとした目でセイルクを見ながら思った。
ひととおり選び終わったのか、5冊くらいの魔導書を借りたセイルクはクレアの手を引いて図書館の階上へ連れていく。
上の階は本が収蔵されているわけではなく、外の景色が見えるドーム状のガラスが天井の代わりになった、とても広い空間だけだった。
「……ここは?」
「魔法が使える場所だ。中級魔法までなら耐えられる構造をしてる」
「へぇ……」
クレアは壁から微細な魔力を感じ取った。
きっとこれが結界だろう。
図書館の本は持ち出し禁止のものもあり、そう言った本の魔法を使いたいときや、試しに使う場所がないときなどに誰でも使えるように開放されているらしい。
クレアが部屋の構造に気になっていると、セイルクがクレアの目の前に本を突き出した。
魔法文字による呪文が書いてあり、隣には魔法陣が載っている。
(これは……)
クレアが本から視線を外してセイルクを見ると、とても真剣な表情でこちらを見ていた。
「これを教えてほしい」
セイルクがクレアに頼んだ魔法は『飛行』の魔法だった。
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