サイハテの召喚士

茶歩

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第2章 モフモフへの使命

14 初めて尽くしのX地区

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 一本道に復帰してからは、割とすぐに関所が見えた。
 これなら9日後の約束の時間に、余裕を持って到着できそうだ。

 オリオンのコインのおかげで、関所も難なくクリアである。

 こうして、私たちは無事にX地区へと辿り着いた。



「ねぇ、提案なんだけど‥」


 アキが控えめに手を挙げた。
綺麗目だったはずのアキの服は、もう見る影もないほどにぼろぼろだ。
 まぁ私とブラウンの服はもっとぼろぼろなんだけど。

 川で体を綺麗にはしているものの、着替えはほぼない。私たちと同じように洞窟で生活していたアキの服が汚れるのは無理もなかった。


「なに?提案って」


「X地区はY地区と違ってコインが流通してるんだよ。お店もあるって前に噂で聞いたことがある。
あそこに人里が見えるだろ?
今日はあそこの宿に泊まらないかい?」


「宿?!」


 自分でも驚くほどに目がクワッと開いたのがわかった。きっと今私の瞳はかなりキラキラしている。


「アキさんの提案に賛成です。
この時間から地形を知らない森に入って野宿するのは危険だし、宿があるような人里ならY地区のような危険も少ないんじゃないかな」


「誰も、俺らみたいな薄汚い人たちが大金持ってるとは思わないだろうし‥」


「やったーー!野宿じゃないの生まれて初めて!!」


「ただ警戒は必要だよ。
森での野宿よりは安全、というだけ。
【経験数値】も増えるかもしれないしね」


 ブラウンが冷静に、興奮する私を制した。


「わかった!もしこの間の人身売買みたいなのに狙われたら、次は確実に殺るから!」


「そんなキラキラした瞳で言うことじゃないけどね」



 そういうわけで、私たちは吸い込まれるように人里へと向かった。




ーーー木製の民家が立ち並び、何軒かお店らしき建物もある。
 私の瞳はキラキラしっぱなしだった。


「す、すごい!!栄えてる!!」


「そうだね。もしかしたらギルド登録場もあるのかもね」


「W地区はもう少し街並みが綺麗だよ。
早く見せてあげたいな」


 感動する私とブラウンを、アキが温かい目で見ている。
 きっと、X地区は他の人から見れば廃れていて貧しい場所なのかもしれない。
 でも、私とブラウンからすれば未知の領域でしかなかった。


「装備品やなんかは、もっと上の地区で買った方がいいね」


 ブラウンの言葉に頷いた。私たちが身につけている装備は亡くなった冒険者のおさがりが大半を占めている。
 恐らくもっと上の地区で購入されたものだろうから、この地区のお店で買うのは得策ではない。


「あ、あったよ。宿だ」


 アキが指をさした先には、看板が掛けられた二階建ての建物が一軒。


「はぁー‥記念すべき1泊目‥」


 自分で言ってから気が付いた。
これからはこういう風に建物内で寝れる機会が増えるんだ‥。
野宿が嫌っていう訳ではもちろんないんだけど、未知の領域すぎてドキドキが止まらない。



 扉を開けると、チリンチリンと鈴が鳴った。もう心が踊りすぎてやばい。

 ブラウンもどうやら感動しているようで、口元がややはにかんでいる。

 そんな私たちをリードしてくれたのは、年長者のアキだ。


「いらっしゃいませ」


 白髪のおじいさんが微笑みながら立っている。


『いらっしゃいませ』だってぇぇ!
初めて言われた!!


「3人一部屋、空いてますか?」


「ええ、空いておりますよ。
素泊まり1人3コイン、食事付きなら1人5コインです」


「「食事付きで!!」」


 どうする?とこちらを振り返っていたアキに反応する間もなく、私とブラウンの声が被った。

 美味しくないけど栄養だけはある魔物の肉ばかり食べていた私たち。
 お店で提供される料理に興味津々だ。

 アキも久々にまともな料理が食べれることにホッとした様子。
 これで少しは元気になってくれたらいいんだけど。

 アキがいくら元料理人でも、調味料も調理道具も揃っていない環境では、私たちが食べられる味にも限りがある。
 オリオンからふんだんにコインを貰ったことをいいことに、私たちは今日はじめての贅沢を味わうことにした。



 部屋に案内されると、目にしたことのないもののオンパレードだった。


「ねぇアキ!これは何?!」


「これはシャワーだよ。ここをこうして捻るとお湯が出てくるんだ」


「へぇ‥!!
あ、これはなに?!」


「これは歯ブラシだよ。
君たちはいつも木で磨いてたもんね」


 そうそう。オッドさんに教えられた歯磨き。歯は大切にしなくちゃいけないんだと教えてもらったんだ。
 まさか専用のブラシが存在するとは‥


「こ、これは?」


「これは体を拭くタオルだよ。ちなみにこれは、トイレ」


「うわー、凄い!!
アキめっちゃ物知り!!」


 アキがいなかったら、私とブラウンは何をどう使っていいのかわからずに終始オロオロしていたはずだ。
 アキがいてくれて本当に良かった‥


「‥アキさん」


 ブラウンの声が上擦った。
どうやらブラウンも相当興奮しているらしい。


「なに?」


「あれはもしや‥ベッドですか?」


 オッドさんに聞いたことがあるベッド。
ふかふかの布の上で眠るんだとか。初めてベッドの存在を聞かされた時、私とブラウンは一生懸命落ち葉を集めてベッドごっこしたことあったなー。

結局、髪の毛が枯れ葉の屑だらけになったのと、湿った枯れ葉に集っていた蚊に刺されまくったという苦い思い出だったんだけど‥


「うん、そうだよ。それがベッド」


 私とブラウンは、両手を合わせてハイタッチをした。
人生でいちばん嬉しかった瞬間かもしれない。


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