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第1章『ロリ顔の女好きという扱い』

第8話 ペア

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ジロは持ち前の戦闘力を生かして、わたしと同じAクラスに決まった。
学力テストじゃなくて本当に良かったわね。

こうして、わたしとジロはターゲットであるロンと同じクラスになることができた。


一夜明けた今日、Aクラスはとてつもなく騒々しい。


「俺と組んでよ!!」

「いや、俺と!!」


ロンが相当な数の男子たちに囲まれている。
ジロ曰く純粋にロンに憧れている男子や、将来竜騎士団長になるであろうロンへの媚び売りらしい。


「‥俺もう組んだから」


ロンがそう言って気怠そうにわたしを見る。
その途端、わたしはロンの周りを囲むAクラスの男子たちにギロリと睨まれた。


「な、なんであんなエロガッパ‥」


誰かがそんなことを言う。


昨日の手合わせのあと、わたしはロンとペアになることを承諾したけど‥。
ただでさえ変態扱いされているというのに、嫉妬や妬みが酷い。


「エロガッパって言った?」  


わたしがその声の主を睨むと焦げ茶色で短髪のモロ体育会系の男子が押し黙った。


「ねーねー、エロガッパって言った?」    


確か自己紹介でジョンとか言ってたかな。このガタイいい人。


「‥言った!言ったさ!!」


ジョンはふんっと鼻息を荒くしてわたしを睨みつけた。


「ぼくのどこがエロガッパなの?
どこもカッパ要素ないと思うんだけど」


さらさらの白金の髪はキュッと一本結び。
昨日のロザリオ女学院の一件でスケベ扱いされてしまうのは目を瞑ったとしても、カッパ呼ばわりされる筋合いはないわよ。


ジョンがグッと唇を結ぶ。
どうせ、周りがそう言っていたからとかそんなしょうもない理由でしょ。



「リュカ本当女の子みたいだもんね」


突然そう言い放ったのは、わたしと背丈がさほど変わらないポールという少年だった。
ミルクティー色の髪色をしたリスのような男の子。



「俺、リュカ普通に可愛いと思う」


そう言って、ポールは屈託無い笑みを浮かべた。
今のわたしは血生臭くも小汚くもないもの。普通に女の子のように見えてもおかしくないはずだわ。


「目を覚ませポール!
こいつはロザリオ女学院に入学しようとしたスケベだぞ?!そのうえあろうことかニノ玉を引っ叩いたっていうじゃないか」


ジョンがクワッと目を剥いて大きな声を出した。
う、うるさいわこの人!声大きすぎるわよ!


わたしは思わず耳を両手で塞いでしまった。
そんなわたしの態度を見て、ジョンがまるで敵を見るかのような鋭い視線を向けてくる。

ああ、きっとわたしたちの相性は悪いのね。
こんなにプンプンしなくたっていいじゃないの。
そんなにロンと組みたかったわけ‥?


「ロン!今からでも遅くない!
こいつなんかじゃなく俺と組んでくれ!
後悔はさせないから!!」


台詞だけ聞くと略奪愛みたいだわ‥。


「‥落ち着けよ、声でかすぎ」


ロンの表情が翳る。
こんな表情もイケメンなのね。額に入れて飾りたいくらいのイケメンだわ。


「っ、お、おい!リュカ!
どうしてお前なんかがロンと組めたんだよ!」


さっきよりもほんの少しボリュームを落としているようだけど、それでもまだまだ煩い。


「知らないよ。
組もうと言ったのはロンだもん」


わたしがそう言った途端、ジョンだけではなく周囲の生徒たちが騒ついた。
よっぽど意外だったらしい。


いつまでも静まらない教室内に嫌気がさしたのか、ロンは怠そうに口を開いた。


「‥こいつは変態エロガッパだけど、それでもニノ玉を触れたんだ。ど変態だとしても、竜がこいつを認めたんだよ。おまけに髪色は白金だし、戦闘力もある。
それだけで理由は十分だろ」


ロンが半ば吐き捨てるかのように言葉を落とす。
周囲を一瞥してから、また口を開いた。


わー、睫毛長いなぁ。
肌綺麗だし、鼻筋はシュッとしてるわ。

わたしの思考は自由奔放で、こんな時なのにロンを眺めては美少年具合を観察して楽しんでいた。



「もしもそれでも納得できねーって言うなら、まずニノ玉に触ってこいよ。触りもしないでぎゃーぎゃー言うな。うるさいから」


教室は一気にシンッと静まり返った。
氷のような冷たさを帯びたロンの声に、反論できる人はもういないようだった。



「ねーねー、ペアってなにすんの?」


静かすぎる教室内に嫌気がさして、わたしはロンに尋ねた。


「‥ペアはペアだろ。あほか」


あー、堪らん。いけめん。


「リュカ、なんでにやけてんの?」


ポールがわたしを見て少し驚いた顔をした。
ああ、にやけちゃってたのか。いけないいけない。


「ポールは知ってる?ペア」


「あーうん、ペアはペアだよ。何かと一緒なんだよ。
授業も行事も戦闘も。基本卒業までの3年ずっとね」


「へぇー、それはそれは」



さすがに任務達成に3年間も費やさないと思うけど、とにかくわたしはロンと行動を共にしまくるということね。

イケメンも拝めるし情報も収集できるし、命も狙える。


うん、いい事づくしだわ。





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