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第1章『ロリ顔の女好きという扱い』

第15話 めちゃくちゃ良い人

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夜、昨日と同様ロンによる怒涛の勉強会があるのかと思いきや、わたしの部屋を訪れたのはムッとした顔のロンと目を輝かせているポールだった。


「どうしたの?」


なんでポールまでいるのかしら?
わたしは2人を部屋に招き入れながら、ハッと気が付いた。


「わかった!!ポールもお馬鹿さんなんでしょ?!」


だからこの勉強会に参加するのね!
全然オッケーよ!わたしもロンとの一対一の勉強会は息が詰まっていたのよね。


「‥‥言っておくけど、ポールは俺より頭いいぞ」


ロンが怠そうにそう漏らした。


「え??あ、じゃあポールもぼくに勉強教えてくれるの?」


「うん!まぁそんなところだよ!」


ポールが相変わらず可愛い顔でそんなことを言った。
本当リスみたいだわー、髪の毛こねくり回したいくらいの愛らしさね。


「ありがとう!
でもそれならジロも誘えばよかったのに!
ジロもぼく並みの頭脳だよ?」


どうせなら、ペアじゃないわたしじゃなくてジロに教えてあげたほうがいいんじゃないかしら‥?


「ジロはね、調べ物があるんだって。
一階の書庫で資料読み漁ってるよ」


「へー!あのジロが!!珍しい~」


一体なにを調べているんだろう。
でも、そうか‥ジロは情報収集も任されてるし、ダンバルで教えられてきたロザリオの情報と、ロザリオで知るロザリオの情報ではきっと異なる部分も多くあるだろうから‥。

ジロって案外真面目なのよね。偉いぞ、弟。



わたしは感慨深く頷いて、2人に珈琲を出した。
2人は部屋の真ん中にあるソファに腰を掛けて、今日わたしに教え込む予定の教本(小児用)をパラパラとめくっている。

昨日は壁際にある机で勉強していたけど、今日は3人だしソファに挟まれたテーブルで勉強した方が良さそうね。


2人の向かいに座り「よろしくお願いします」と言って頭を下げる。

正直これは強制的にやらされていると言っても何ら過言じゃないけど、2人の時間を割いてもらっているわけだし、一応礼儀はしっかりしておかないとね。



「実はね、リュカ。
俺秘密の道具持っててさ‥」


「秘密の道具?なにそれ」


なんだろう、その素敵な響き。


「じゃん!これだよ!!」


ポールが一本のペンを取り出した。
よく見かける木製のペン。なんなら、部屋にも常備されていたくらい、かなり普及されているものだ。


「‥ペン?」


「そう。これね、魔法道具なんだ!
知識の精霊の力が宿ってるの」


「へぇー、すごい!ポールは魔法道具たくさん持ってるんだね!!
ところで、知識の精霊って‥?」


ロンとポールはチラリと目を合わせた。
まさか知識の精霊の存在すら知らなかったとは‥、と言った表情だ。


リュカはそんな2人の視線に気が付かずに、どんな仕掛けがあるのかしら、とペンを楽しげに見つめる。



「ち、知識の精霊は、勉強の手助けをしてくれるんだよ。普通は教本をサラッと見るだけではなかなか頭に入らないでしょ?このペンには知識の精霊の力が宿っているから、このペンの近くで勉強すればあら不思議!するする~っと簡単に教本の中身が脳にインプットされていくんだ」


「な、なにその夢のような話‥!!」


なんてことなの。ああ、どうしよう‥!俄然やる気が湧いてきたわ‥!!


「これを、テストまでリュカに貸してあげるよ。僕はもうほとんど頭に入ってるから大丈夫」


「ありがとうポールッ!!!」


わたしはガッとポールに抱きつきたくなった衝動を、自分の身を抱きしめることによって落ち着かせた。

まだ出会って数日の男の子同士‥抱きついたらきっと変に思われるわ。

ダンバルの頃の自由奔放さを、少し封印しないとダメね。



「ただね、リュカ。これには色々と約束事があって‥」


美味しすぎる話に身を乗り出すわたしに、ポールが丁寧に説明しようとしてくれる。
ロンは珈琲を口に含むと露骨に苦そうな顔をして、カップをテーブルに置いた。昨日もそんな顔をしていたなぁなんてふと思ったけど、いまはロンの苦い顔よりもポールのお話だわ!


「精霊はね、精霊の力を借りたい人本人が、強くそれを望まないと力を貸してくれないんだ。例えば今回だったら『めっちゃ頭よくなりたい!』とかね」


「ほうほう、それで?」


「うん。あとは、このペンのことはここにいる3人以外に絶対言わないって約束してくれる?」


「え?ジロにも?」


「あー、ジロには、俺から伝えておくから。
俺結構勉強だけは得意なんだけどさ、それがこの魔法道具のおかげだってバレたらちょっと恥ずかしいから」


ポールがそう言って気まずそうに頭を掻いた。
確かに、それはそうだわ。

だけどポールは、そのプライドや羞恥心を捨ててまでわたしにこの魔法道具を貸してくれるのね‥!


「神!!ポール神!!ちょーーいい人っ!
約束は絶対守るからね!!」


わたしが拳を握りしめて鼻息を荒くすると、ポールは安心したように柔らかく微笑んだ。


入学早々、いいお友だちができたなぁ‥




って、違う!
わたし、暗殺しにきてるんだった。

危ない危ない。うっかり普通に爽やか青春ライフを送る心積もりだったわ‥。

任務もしっかり忘れずに頭に入れておかないと‥。




ちらりとロンを見る。




ロンはふわっと欠伸をしていた。
うん、イケメンだ‥。




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