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第3章ーー爆発ーー
第25話
しおりを挟む普通の人が知らないようなことを沢山知っていて、いつも私を温かく包んでくれて、優しく穏やかなアレクさん。だけどその内に秘められた想いは、優しい笑顔に巧妙に隠されていて知ることが出来なかった。
近い距離にいるのに近くない、そんな感じだった。今のアレクさんはいつもと違って真剣な表情だ。
少しでも、その内側を知れるチャンスかもしれない。
「‥そんなに簡単にスキル保持者が見つかるなら、俺はこんなに長く生きてない」
確かに、人を呼び寄せる為の施設を作る建設スキルと、人を見つける為の探知スキル。両者を見事に見つけ出すのは難しいかもしれないけど。
「探知スキルだけなら、難しいことじゃないですよね」
「難しいのは消去スキルの方さ。あまり需要がないから中級とされてるけど、希少度で言えば上級。探知スキル保持者に協力してもらって旅に出たこともあったけど、消去が見つかる前に探知が死んじゃったよ」
‥そんなことがあったんだ。でも、それなら私も同じなんじゃ?
「旅に出るよりも、人をこの地に集める方が何倍も効率がいい。だから、今回は見つけられるかもしれない。けど、それでもどのくらいかかるかわからないんだ」
長ければ何十年、運が良ければ短期間で済むかもしれないけど、いつまで続くかわからない消去スキル探しに『協力し続けてくれる探知スキル者』がいないってこと?
ああ‥‥だからかな。
「‥だから、私とリアム様を結婚させようとしたんですか?」
「‥‥強制とか、義務じゃだめなんだ。そのうち飽きて逃げ出したくなる」
もし私が反骨心を持っていたら、誰の目にも届かぬところへ逃亡していたかもしれない。国から出て、スキルを駆使して自由に暮らしていたかもしれない。
それは、この先の未来にも言えること。
「‥‥リアム様は、餌ですか」
私が喜んで王宮に留まる為の、餌。
そういうことなのかな。
「違う。ただ、俺の望みのためだけに人生を賭けさせるのが嫌なんだ」
「‥言い方を変えれば同じことですよね。
そのうえこの手法は、私以外に使えない。だから私が死んだあと、何十年も協力してくれる探知スキル保持者はそう簡単に見つからないかもしれない。そういうことですよね」
今はただ、アレクさんに恩を返したい、アレクさんの願いを叶えたい、その気持ちで心は埋め尽くされている。
だけど、何十年後の未来はどうなっているかなんてわからない。
むしろ私は、アレクさんへの想いが強くて前のめりで協力している。けれど他の探知保持者が、そんな想いで協力してくれるかは未知数だ。嫌々仕方なく、なんて調子であれば長期の協力は望めないだろう。
「まぁ、リアムのことは俺のエゴだね。リアムなら、相手としては間違いないから。見た目だけじゃなくて中身も良い奴だから。エレンちゃんがリアムに惚れてくれたら、幸せになれるだろうなってね」
「‥リアム様の気持ちはどうなるんですか。
それに、私は‥」
もうここまで来たら、『町娘だから釣り合うわけがない』とは言えない。そう言えないように『ヴァルキュリーサモナー』にされてしまったんだ。
ぐっと言いかけた言葉を飲み込んだ。
ーー私が好きなのは、アレクさんだ。リアム様をダシに使わなくたって、いつまでもアレクさんの近くにいたい。
「‥本当に似合うと思ったんだよ。2人とも同じように年を重ねて、皺を増やして、髪を白くして、子どもに見送られて逝けるんだ」
俺にはできないこと。そんな風に言っているように聞こえた。
私は、なんと言っていいのかわからずに口を噤んだ。初代王として名が残っているということは、子孫を残したということ。つまりアレクさんには王妃がいたはずだ。
愛する人だけが老けていって、子どものことも見送った。そういう悲しい思い出があっての言葉なのかもしれない。
「‥‥それにね。
いつの日か消去が見つかったとするよ。だけどその消去が協力してくれるかは分からない。スキル保持者の中には、駆け引きや脅しをする輩だって多いんだ。
そしたら、ここまでの努力が水の泡さ」
私は、ここにきてようやく『私じゃなきゃダメ』な理由を理解した。まるで難解なパズルが解けた時のように、目をハッと丸くさせて、口はぽっかり空いてしまった。
「服従‥奪取‥‥」
ポロッと口から溢れ出た言葉。
ああ、そうか、そういうことか。
「そうだよ。君の力は、建設や探知だけじゃない。
真の力はそっちさ。それがあれば、絶対に俺は死ねるんだ。
‥まぁエレンちゃんが生きているうちに消去保持者が見つかれば、の話だけどね」
ああ、そうか‥。
アレクさんを死なせる為の立役者として、私ほど条件が揃ってる人はいないのだろう。
「な‥るほど」
「エレンちゃんに死なれたら俺は相当困る。下手すりゃここからまた何百年も生きる羽目になるかもしれないからね」
だから、エゴでもなんでも私がリアム様とくっつけば、決して無理強いではなく王宮に留まってアレクさんに協力し続けると‥。
そこまでして、私を繋ぎ止める必要があったということなんだ。
「じゃあ‥‥アレクさんが餌になってください」
そこまで私が必要なら。
私じゃなきゃ駄目なのなら。
ただ寄り添って手を握るだけでもいいから。
口が滑るとはまさにこのこと。驚くほど素直に爆弾を落としてしまった。
「‥‥‥‥‥んん?!」
アレクさんの目が丸くなった。ついでに、自分の大胆発言に驚いた私の目も丸くなった。
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