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番外編
泡沫の夢(2)
しおりを挟むあの時、兄達と共にそのまま永遠の眠りについていれば。
何度そう思っただろう。
自分なりに、このスキルを受け止めようとした。その結果が、国を1つに纏め上げて戦の無い世界に導くことだった。
この力に踏ん反り返ったことも、驕ったこともなかったつもりだった。
俺の存在価値ってなんだ??
もう、普通の人よりも多く生きているはずなのに。そんなことすら、いまだにわからずにいる。
もう何年か経ってるのかもしれない。
はたまた数日しか経っていないのかもしれない。湿気の多い洞窟内の牢屋。俺にはお似合いだ。
剥き出しの岩肌からポタッと雫が頬に落ちる。
どうしたってこの命を終わらせられない。いつかこの牢屋を出るかもしれないけど、俺はまた人の世で生きていけるんだろうか。
それすらも不安になってしまうなんて、なにが神だ。なにが初代王だ。妻や子供すら幸せにすることができなかったのに。この世に、こんな王がいてたまるか。
人と深く関わることに関して心底自信を失っていた俺にとって、牢屋は逆にいい隠れ家になっていた一面もある。
もちろん、あまりにも長く居すぎて、空の色も忘れたし海の色も忘れてしまって、外の世界に対しての憧れも強く抱いた。
牢屋から出るまでの最後の数年は、完全に俺は忘れ去られていて、何度も空腹で死んでいたし、流石にその隠れ家にも嫌気がさした。
いつのまにか古く錆びれた牢屋は、簡単に打ち破ることができて、最後は自ら牢屋の外に出たんだ。
文献によると200年もこの牢屋の中にいたらしい。
目に飛び込んできた眩い太陽の光に、俺はしばらく慣れることができなくて、目を瞑ったまま下を向いた。
洞窟から出ても、まだここは城の敷地内。洞窟は随分と奥まったところにあって、俺はフラフラしながらも自由を求めて彷徨ったけど、見回りをしていた衛兵に呆気なく見つかった。
でも、俺はもう忘れ去られていた存在。
文献のおかげで俺が牢屋に入れられていた不死の初代王だと気付かれたけど、その頃の王は俺を再び捕らえようとはしなかった。
俺が築城したはずだった城は、いつのまにか姿を変えて人々から王宮と呼ばれるようになっていた。修繕や増築を繰り返し、もう俺がいた頃の面影はない。
人々が来ている服も様変わりしていて、知らない言葉も多く飛び交っていた。
やっぱり何年経っていても、俺だけが異質なんだと思い知らされる。
王宮では、俺の存在をどう扱うかという議論が続いていた。
このスキルを国の為に利用させるために王宮に留まらせるべきだという人たちと、俺がそのうちまた玉座に座る日が来てしまうかもしれないと俺を追い出したい人たち。
俺は正直、もう放っておいて欲しかった。
誰とも同じ目線で生きていけない、誰かを愛する自信も愛される自信もない。権力なんて、どうでもよかった。
「いくらでも、どんなことでも協力するし‥政治にも関わらないよ。王にだって二度とならない。だから、自由にさせてくれないかな」
そう言うと、誰もが口を閉じて俺を見た。
反対する人は誰もいない。俺は、やっと自由になった。
ぽっかりと心には常に穴が開いていて、死んで蘇るたびに「今回も死ねなかった」と小さく笑う。
死ねないと分かっているのに、毎回期待してしまうんだから心底馬鹿だなぁと思う。
国に協力するために勇者のパーティーに参加して魔物との戦いに明け暮れたり、敵国に潜入して調査をしたり、随分と精力的に協力した。
時には森の中で何もせずに延々と眠り続けたり、海辺で何日も太陽が昇っては沈んでいくのを眺めた。
心が浮き上がることはほぼほぼなかった。何十年何百年とそうした生き方をしているうちに、何代も王は変わっていった。
俺は《ご隠居をしている自由な初代王》として、国への協力はいつのまにか無理強いされることはなくなっていた。
王宮には出入り自由で、好きな時に帰ってこれるように王宮に部屋も用意されていた。まるで気ままな猫のような扱いで、俺は心底楽になった。
結局、刺激を求めて魔物の巣窟に行くことも度々あったけど、あくまでも自分の意思で自分の好きな時に剣を取った。
長く生きてきたくせに、自分の気分に合わせて剣を取ったのはこの時が初めてだったと気付いた時には、なんだか心底笑えた。
一般人としてパーティーに参加して、良い仲間に巡りあえることももちろんあった。
だけど、人間は本当に脆いとその度に思い知らされる。魔物に噛まれただけで、毒を喰らっただけで簡単に死ぬ。
生きて帰ってきて、再会の約束をしても、次に会える頃には死んでいたりする。
悲しむことにも、もう疲れた。
心をこれ以上疲れさせたくない。
俺は、ここまできてやっと世渡りの術を身に付けた。人の心を読み、笑顔は常に絶やさなかった。
いつか、俺の夢は叶うだろうか。
許されないことかもしれないけど、出来ることならまた誰かと生きていきたい。同じ目線で、同じ人間として、深く関わらせてほしい。
そして、この命を終わらせたい。
覗き込んでいた水面に、ぽつんと雫が落ちた。
ああ、俺、泣いてるんだ。
夢を自覚した時、初めて涙が流れた。
きっと叶う日は来ないのかもしれない。
俺の、泡沫の夢。
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