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第11話 穏やかな日常 (1)
しおりを挟むユユがレイの屋敷に来てから一週間ほどが経った。
この屋敷にいる人々は年齢層がかなり若く、年の離れた弟や妹がいるという人は何人かいたけど、自分の子どもがいるという人は誰1人としていなかった。
もうこの生活にも慣れてきて私も辺りを見渡す余裕ができてきたんだけど、少なくとも私が見てきた中では30前半くらいの執事さんが一番の年長者。
遭遇していないだけで年配の方もいるのかもしれないけど、それにしても若い人が極端に多い気がする。
ユユに必要なものはレイやローラを通して屋敷の人に揃えてもらった。
あの無駄に広かった部屋は、今や私とユユの部屋。
とは言ってもローラは常に側にいるし、ユユが来るまではさっぱり部屋を訪れようとしていなかったレイも、今や不思議なほどにユユに会うためにこの部屋に来る。
「子どもが好きなのね」
ユユを抱くわけでもなく、窓際の椅子に座りながらひたすらユユを見つめるレイに話し掛ける。
「‥‥悪いか」
レイはそう言って、窓の外に視線をやった。
もうユユをこの屋敷で面倒見るということは確定事項らしく、私以外にまともにユユのお世話ができる人がいないため、私は常にユユといた。
まぁ、ローラとのほぼ無言の凍てつく時間を過ごすのは正直ごめんだから、私にとっては有り難い限りなんだけど。
屋敷の調理師とも話し合い、徐々にユユに食べさせる物も増えた。一般的な根菜や葉物を混ぜたり、熱を通した卵や、果物、この世界で一般的な肉や魚などを少しずつ種類を増やしている。
ユユは日に日に笑顔を増やし、特に私にはすっかり懐いてくれているように見えた。
私に抱かれながらぎゅっと私の服を掴む小さなその手に、胸が温かくなる。
単調だった12年間では、全く味わえなかったこの生活。
誰を攻略するとか、そんなことどうでもいい。
そう、未だに毎日聞こえる勇者の声なんて、どうでもいいのだ。
「‥‥あいつは、なんなんだ」
レイが窓の外を見ながら、規則的すぎる勇者に対してそんなことを言う。
「‥‥だから言ったでしょう?
ロボットみたいだって。多分、何かきっかけが起こるまで永遠に続くわよ、あれは」
「きっかけ?」
私はコクリと頷いた。
勇者が毎日訪れるということは、まだゲームはスタートされていないということ。油断したら、いつどのタイミングで強制的に修正されるかわからない。
私を呼ぶ勇者の声は、ある種の『お知らせ』のようなもの。
もしも何かのきっかけでゲームの中のストーリーが始まってしまったら、その『お知らせ』はなくなってしまうだろう。
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