終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答

春ノ領

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3-オルレアンの少女は湖畔に哭く

魚、喰う

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 やはりというか、味方は全滅していた。4人揃って同じ場所で、首を刎ね飛ばされている。首以外に外傷は無く、抵抗した痕跡も無い。背後からの不意打ちだろう、刃物で。

「ヒナ?」

「周囲に熱源無し」

「……とにかく散開」

 まとまっていてはおそらく危険だ、それぞれが距離を取る。目に見える敵は死体発見前に潰してきたが、この様子ではまだいるのだろう。サーマルには反応せず、フェルトに聞いても敵らしき音はしない。物陰に隠れて身動きしなければいいだけだ、人間大の物体なら容易にできる。

「今更ですけど、ナイトメアの情報を再確認しても?」

『BD-3LR、AIの反乱以前に使用されていたBD-2の後継機だけど、機体はまったく別のものになってた。機体自体というより搭載AIの形式番号と見るべきだろうね、機体は何度も取り替えていたはず』

 質問に答えたのはメル、実際に交戦したヒナは沈黙している。沈黙というか何も言う事が無いというか、勝ったとは言っても理解しているとは別である、特に彼女は脳を経由しない行動が多い。

『この手のAIは当時からの戦闘情報をすべて蓄積している、あらゆる点において勝てるとは思えないこと、ナイトメアみたいな超都合のいいバグでも起こしてなければ』

「都合のいいバグとは?」

『音がした』

 質問の答えがメルから返ってくる前にフェルトが告げた。咄嗟にライフルを持ち上げ視線を森の中へ、すぐにシオンの耳にも足音が聞こえてきて、その方向へ照準。

「撃…!」

 黒いノースリーブと黒いプリーツスカート、腕にはアームカバー、足にはニーハイソックスを着ける。ナイトメアとまったく同じ服装であるが、身長はやや低く、黒髪はショートカットに。腰両側には鞘が1本ずつ備えられ、中身は抜刀済み、刀身長60cm程度、銀色で、柄まで一体削り出しの直刀が両手に握られている。元はバトルドールという兵器で、家事ロボットに鈍器を持たせただけではなく最初から戦闘用として作られていて、あらゆる身体能力で人間を勝る。さらに紛争地で非戦闘員の世話をする事も考慮して笑顔くらいは作れるはずだ、が、少なくとも今、彼女の表情は完全な無を表している。意味が無いのだ、表情を作るのも、こちらのトリガープルを待つのも。

「づっ…!」

 まったく間に合わなかった、トリガーにかかる指が数mm動いたあたりで相手右手の直刀はシオンの首まで到達しかけ、しかし刎ねる前に槍が割り込んでそれを弾き飛ばす。次いで振るわれたもう1振りの刀身には8.6mm弾が対応、撃った当人もたぶん驚いてる良い当たり方をして軌道がずれ、体を傾けて紙一重で回避、そこでようやくライフルのトリガーパーツはひとつ先のシアーを解放した。直ちに6.8mm弾は発射され、当たりはしなかったものの体勢を崩し、そのまま連射すれば相手は跳ねるような動作で後退、森の中へ消えていく。

「今のは何だ!?」

「宮本武蔵?」

『ソードマスター』

『じゃあ蘭丸』

「名前はいいんだ名前は!」

 事前情報にあったヘカトンケイル、ではなかろう、砲身ハリネズミとか言ってたし。まったく別の新種兵器だ、見た目からしてまず間違いなくナイトメアのご同類、バトルドールである。動きは速いが防御は弱い、1発でも当てられれば倒れるはず。
 とにかく弾倉を交換、薬室に残っていた1発も手動コッキングで排除し魔力貫通弾へ切り替えた。ただこの弾の欠点は銃口から5m飛ばないと再加速が行われない点である、遠距離では卑怯レベルの威力を誇るが格闘戦距離ではただ高価なだけの弾だ、あまり近付けない、いや通常弾にしろ何にしろアレに近付かれて対応できるのはフェルトのみだと思うが。

『ジャック・ザ・リッパーだ! それ以外認めん!』

「お前もか!!」

『水辺まで追い詰めろ! 奴はキミらよりダム側にいるな!? 絶対に森の奥には逃がすんじゃないぞ!』

 ティーはヘリ機内に留まっているはずだがギリギリ見えていたか、一足先に追っていったフェルトには続かずそちらを見れば、擬装ネットをかぶせた機体から白緑色の髪が飛び出してくるのが見えた。コンバットソードは抜刀済み、こちらへ来る気である。

「追い詰めたら!?」

『そっからは博打さな!』

 シオンが駆け出した頃には視界外で金属同士の衝突音が響き渡り、それから何度も打ち合いが続く。フェルトは渡り合えているようだ、下手に邪魔しない方がよかろう。木々の間から現れたヒナとメルには包囲指示を出し、ふたたび散開、姿が見える位置まで走る。
 負けはしないが攻めあぐねていた、敵人形、仮称ジャックが右左と回転しながら両刀を振るっており、それをフェルトは槍1本で残らず防いでいく。ただしそこまでだ、攻撃に移行できず、刃も円筒も魔力発光を起こしていない。このままではいけない、機械と人間では戦闘継続能力に差がありすぎる。

「ヒナ!」

 密着している2人の片方だけを撃つのは不可能である、少なくともシオンには。ヒナは躊躇すらしなかった、ほぼノータイムで発砲、ジャック左肩を掠め皮膚を破損させる。真っ黒な人工筋肉が僅かに露出し、後方宙返りで5m後退、着地直後にシオンとメルからの連射を受けさらに退がっていく。

「しゃおらッ!!」

 そこにティーが突っ込んできた。
 右手に握られ、限界まで後ろに引かれたコンバットソードに魔力を充填する円筒は無い、単なる剣である。それが薄く緑色に発光、全力刺突が行われた。ジャックは左の刀を下から当てて跳ね上げようとしたものの、接触するや刀は軌道をずらす事すら出来ず根元から折れた。かろうじて回避には成功するも体勢を大きく崩し、柄は投棄、空いた左手を地面へ立てて一瞬逆立ち、回転して体勢復帰した。すぐに残った1刀を両手持ちへ切り替え、フェルトからの一閃に対応。
 刃はちゃんと発光していたが、本物と電力変換品の差である、刀は折れずに槍を受け止める。

「下がれ! 下がれ撃てぇ!」

 フェルトが後退、すぐに撃つ、撃ちまくる、トリガー引きっぱなしだ。恐ろしい事にすべて魔力貫通弾にも関わらず1発たりとも当たらなかったが、さらなる後退に後退を重ね、とうとう水辺、ぱしゃりと水が跳ねた。

「でここからは!? ティー!?」

 もう後ろには退がれない、という事はまったく無い、呼吸が不要な点もロボットが人間に勝る部分である。逃げるのなら一思いに飛び込んでしまえばいいし、なんなら道連れにもできる、溺死したくないフェルトは手を止めてしまった。追い詰めてはいるが、決め手を欠いている。指示通りだがどうするつもりなのか、射撃続行か、ヘリからガトリングか。

 などと思ったのも束の間、湖面が急にざわめき出す。

 で

「ゎ…………」

 ここまで一切喋らなかった斬り裂き魔、さすがにというかなんというかほんの僅かに声を発した、ノイズの少ない綺麗な声だった。それを終えたら、巨大マゴイの口の中へ消えていった。

「どぉぉぉぉう!!」

 ばくん!と一飲みである、目に入った動体はすべてエサと認識してしまうのか、ドローンに引き続き2体目、絶対消化できないだろう機械の塊を胃袋へと納め、勢いあまってシオンの眼前まで打ち上がり、その後、ずるずると水中へ。

「フィールドに存在するものを有効に活用する、これができたらシオン、キミは小隊長に推薦してもいいとは思ってるんだけどねぇー」

「ふへっ…3人で手一杯だもんで」

 さあ戻ろう、にやりと笑いつつティーは言う。突然のトラブルは収まったもののまだ谷の下にはサイクロプスがいる、アレをぶちのめさないと工作部隊を逃がせない。

 と、いう所で

「ぐ…!?」

 強い地響きが起きた。
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