終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答

春ノ領

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6-"G"線城のアリア

亡霊騒ぎ 決

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「うん、開かない」

 本館の最上階、尖塔に登るための階段を塞ぐ開かずの扉にメルが取り付いて2分、針金をひらひら振りつつメルは笑った。

「開かないじゃねえよ!」

「だってしょうがない、実際のところピッキングとかやった事ないもん。教わりながらやればなんとかると思ってたんだけど、こりゃ1時間は欲しいわ」

「そんな時間は無いぞ!? 急がないとこの城穴だらけに……ちょっと待て、教わりながら?」

 下の階では銃撃戦が続いている、付け加え、ドンパチに紛れて城の壁が掘削されていく音。
 ワームのやる事は単純だ、穴を開ける、バトルドールを出す、自分を盾にしつつバトルドールに攻撃させる、それを延々続ける。既に殲滅は諦めた、フェルトとヒナが場内を駆け回って時間を稼いでおり、この場にはシオンとメル、道案内してきたシズがいる。なるべく高所に陣取りたいというのでここまできたのだが、この城で最も高い場所は例の開かずの扉が塞いでいた。それで急遽ピッキング作業に入ったのだが、メルは早々に諦め、タブレットを取り出す。

「カミングアウトには早い気がするけど…仕方ない、本人にやってもらお」

「待てメル子、何を言ってる?」

「バトルドールを奪う、丁度こっち来てるね、撃たないで」

「え、何それ、できんのそんなこと?」

「1体だけなら、たぶん防御措置を取られる前に掠め取れる」

 すぐに騒がしい足音が近付いてきた、咄嗟にシオンはライフルを構えるも、メルはタブレット操作を継続、「周波数、周波数はどこだー?」などと言っている。周波数特定、干渉、OSを書き換えてワームの支配下から切り離し、代わりにメルのタブレットから操作できるように。
 しているのだと思う、シオンにはよくわからないが。バトルドールとはいえあれは高価なラジコンだ、指示を受け取る周波数を変えてしまえばこちらのものになる。ただメル自身が操作する、という点は間違いのようだ、作業を終えた彼女はタブレットを片付けてしまった。
 間も無く廊下の曲がり角からバトルドールが2体現れるも、1体目は蹴っ飛ばされたような形で転がってきて、射撃を受け頭部に穴を開けた。

『大体だな、状況が違う、ピッキングの速度を追及するのは泥棒と変態だけだ、悠長な事を言っていられるか? 違うだろう』

 1体目を破壊した2体目はなんというか、ずかずかと歩き寄ってきた。人間らしい外観を持たない、いかにもロボット然とした個体だ、発声機能を持たず、音を出しているのはタブレットのスピーカー。ライフルを片手にぶら下げ、シオンとメル、シズの間を通って開かずの扉へ。

『建物自体が穴だらけになる中でドア1枚にこだわるアホがどこにいる! というのだ!』

 そして行く手を塞いでいた扉を蹴破った、単なる木製ドアである、機械のパワーなら造作もない。デッドボルトを失ったヒンジは役目を思い出したように回転、塔内部の螺旋階段を人の目にようやく晒した。

「おっしゃる通り」

「えぇ…!?」

 その行為に対して真っ先に反応したのはシズで、しかも肯定、真っ先に扉をくぐる。

『やあ、何と呼べばいいのかな? リーダー? 分隊長? シオン? リタ?』

「ば……その前にお前は誰だ!?」

『あぁ、話した事はなかったな。確か人間から妙な名前を付けられていたはずだが……そう、悪夢ナイトメア

 おいマジか、そんな顔でメルを見る。返ってきたのは舌出しウインクだ、手を頭に、右目をつぶり、ペコちゃんみたく舌を出す笑顔。てへっ♩みたいな。

「いやいやなんで……うおっ!」

 いつの間にかAI搭載となっていたメルのタブレットについて今すぐにでも追及したかったが、廊下の床をぶち抜いてシールドマシンが現れればそんな事は話していられなくなる。慌てて階段へ、メルを従え駆け上がっていく。

『この場は守っておくが手早く済ませろ、このゴミボディじゃ長くは保たん』

「いいのかそれは!? 裏切りにならんのか!?」

『あんなモノ味方と思った事なぞ無いわ! 逆らえないから従ってただけだ!』

 ぐるりぐるりと頂上まで続く階段を2周分上がれば屋根の上まで出て、同時にワームも天井を突き破ってくる。いい塩梅だ、こちらは一番上まで走るだけでいい。『ちょっと今なんか嫌な思い出のある声したんだけど!?』『やあエレナ、久しぶりだな、もっとも私はかなり前から見守ってたが』『はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』とかいう通信は無視、その件のすったもんだは後でもできる。

「レア! 準備はいいか!?」

『心の準備は……』

「照準の話だ!」

『狙うとかじゃないのよこの弾……うわぁぁ装填しちゃった……!』

 シオンとメルを狙うワームは細身の塔に対しては穴を掘らずヘビよろしく巻きついてきた。各所にある小さな窓がキャタピラや何やらで塞がれ、その内コンテナのハッチに当たった窓からは格納されたバトルドールが内部を覗いている。最初こそ正直に前を通って撃たれるも、次からすべての窓を避けていく。

「だぁぁクソ! 早く撃てって!」

 そうしたらやっこさん、当たりどころ構わず撃ちまくってきた、四方八方から大量の銃弾と銃声を浴びせられ、塔内部で跳弾と反響が暴れ回る。跳弾が命中するかはほぼ運だが、壁に当たる角度からある程度は推測が可能だ。なんとか弾を受けずに最上部まで到達、ワームもここまでコンテナを運ぶ事はできず、大きな窓に駆け寄って、城の庭を見下ろしす。

「き……」

直後、赤の閃光が走った。

 発射直後の動作は魔力貫通弾と同じ、飛翔5mで点火、再加速を行う。だが光の色は赤、さらに残光を引くのではなく継続して発光している。庭から45度程の角度で撃ち出されたそれは本館の屋根を越えた辺りで進路を曲線的に変え水平飛行で塔へ直行、塔表面を這うワームの胴を伝って回転上昇してきて、一度飛び越し、そこから急激に進路反転、ワーム頭部を上方から襲う。

「たぁぁぁぁぁぁ!!」

 僅か20cm、モジュールとモジュールの間にあるシャフトを赤色の閃光が貫いた。40mmグレネード弾の炸裂と同時にワーム頭部のシールドマシンは悲鳴が如き音を上げ、脱落、尖塔頂上から本館屋根へ、屋根から谷底へと消えていく。暗闇の奥で壮絶な衝突音が響いた直後、城内での銃撃戦はぱたりと止んだ。シールドマシン内部にあったメインコンピュータが潰れたのだろう、すべてのバトルドールが機能を停止、胴体も這い回るのをやめている。

「剥がれろクソ虫!」

 それもバルコニーに出たシオンが蹴り飛ばせばそれがきっかけとなって塔から離れ、落下部分の重量と勢いが残りの重量を上回って、ずるずると引き出された尻尾までが頭の後を追う。あまりに大重量すぎて地震が起きたが、城は耐えた、尖塔の揺れが収まるまでしばらくかかり、その間階段頂上でわたわた。

「おおぅ……崩れるかと思った……」

「もっとゆっくりやればよかったじゃん……」

 ようやく静かになった頂上の部屋でシオンとメルは息を吐き、とりあえずハイタッチなどしてみる。

「で」

「じゃ、開けますか」

 振り返れば、そこにはドアがあった。塔頂上の空間を二分しており、こちら側には階段のみ。この場所に目当てのものがあるとするなら向こう側だろう、ライフルにセイフティをかけつつ歩き寄り、シオンがドアノブに手をかける。ちらりと背後を見て、いつの間にか、本当にいつの間にか立っていたシズの顔色を確認。表情は澄んでいた、何も声を発さず、前に開いたのがいつかもわからない扉の開く瞬間を待っている。

 ゆっくりノブを回す、ドアを引き開ける。

「……シズ、あなたはずっとここで? 1人で?」

「わかっています」

 室内を見て固まってしまったシオンの後方、目を伏せながら彼は言った。

「わかっていたのです」

 10年や20年で起きる劣化ではなかった、数百年単位の時間をその部屋はそのままで過ごした筈だ。窓はガラスを失い、壁には大きな穴、原形をほぼ留めていない調度品が並ぶ。そしてそれらに紛れて横たわる者が1人。

「世界が一変したあの日、彼女はここにはいなかった、それでも待ち続ければいつかはと思ってここまできましたが……もはやそれが叶わない事は最初からわかっていた」

 1歩ずつ踏みしめて彼に近付く。残っているのは骨の他には僅かな衣服の残骸のみ、だが確信がある、これは彼だ。

「最期に立ち会えなかった事が心残りですが、皆さんのおかげでようやく自覚できた。私はもう行かなければ」

「そう……何かありますか? 今日のお礼だ、ご遺体探しくらいなら手伝いますが」

「いえ、大昔に起きたたったそれだけの話を今に引きずる訳にはいきません」

 胸元に落ちていた鍵束を拾う、それから必要な1本のみを抜き取り、他は元の場所へ。

「私はここまでです」

「ではここからは我々が」

「ええ、どうか行く末に幸あらん事を」

 振り返ればそこには誰もいなかった、ただメルが呆気に取られて左右を見回しているのみ。

「ちょうど0時だ、魔法が解けた」

 朽ち果てた塔は歩くだけでギシギシと鳴る、壁の穴から下を見れば外の様子もここと同じだ、城は本来の姿を取り戻していた。あれだけ優美だった壁も屋根も倒壊しかけ、風化した残骸も無数のツタが這う。AIの反乱当時から手付かずならこんなものだ、立っているだけで僥倖である。

「魔法か……魔力濃度が高かったのと何か関係があるのかねぇ」

「さてね、弾に込めてぶっ放すだけのもんだと思ってましたが」

「わかってないこと多いよ、実のところ」

 ともかく鍵は手に入った、後は墓をひとつ掘ればこの場でやる事はなくなる。

「じゃあ、メル子、まずは」

 で、
 ドアの反対側、駆け上がってきたものをシオンは指で指して言った。

「あのいつ崩れるかもわからない螺旋階段で楽しくチキンレースでもやりましょうかね」
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