終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答

春ノ領

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9-ラプンツェルは塔にはいない

少女は握った

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 防風処理を施したフォレッジグリーンのフリースジャケットとフラットダークアースのカーゴパンツは実際着てみたら見た目ほど重くなかった、むしろかなり動きやすい。それらの腰に太く丈夫なベルトを巻きつけ、6.8mm弾30発の入る弾倉が収まるポーチを2個、止血帯ポーチを1個、最低限な医療品の詰まる応急手当パックを1個取り付けられた。さらに左上腕にも止血帯を1個、サバイバルナイフを1本固定、位置を離すのは紛失対策だとか。
 地下から出る時使ったイヤホンとスロートマイクは「装備者の放出する魔力を受けて充電されるらしい」というところまでは判明したが、周波数の合わせ方がどうしてもわからなかったようで、とりあえず専門家の手に預け、ヘッドホンタイプの複合通信機を頭に、発言するためのプッシュスイッチを胸に装着した、こちらはさすがに少し重い。
 そして武器、シオン曰く「レアの取り巻きが慌てて自分の予備を持ち出してきただけなんで細かいこた考えねーでください、.338口径弾なボルトアクションよかマシでしょう」という感じらしいライフルである。それ自体はシオンのものと同一のようなのだが、彼女のライフルが近距離での取り回しを重視して軽く小さくまとめているのに対し、弾丸をより加速させられるよう銃身は長いものに、無駄な振動を起こさぬようトリガーは抵抗の弱いものに、重心バランスを精密射撃向けにするべく大きく重たいストックに換装されていた。マークスマンライフルというタイプの銃である、スナイパーライフルほど遠距離に傾倒せず、アサルトライフルのチームにくっついて行って中距離からの彼らの支援を目的とする。場合により近距離戦も行わなければならないので最大9倍可変のスコープの他に小さな光学式ドットサイトが斜めに取り付けてあり、合わせて斜めに構えれば近い場所でも素早く照準できる。付け加え、トリガーの強さまで調整するほどの改造が施されながらもフルオート連射機能は残されていた。
 ロマンの塊みたいな銃である、初心者向けとはとても言えない。

「そしてこちらが本邦初公開! 外縁部集落になります! 分類上はバンカーとはまったく無関係です!」

 メル、と自己紹介された少女は両手を広げて見せつけるように言う。
 車両に乗って壁の外に出た途端、まず広がったのは畑、それから草原である。高低差の激しい丘陵部には小さめの森林が点在し、谷部分を縫うように小川が流れる。注意深く観察すれば様々な擬装で身を隠す家屋や施設がたくさんあり、住んでいるらしい人間も相当数に上る。ただし壁の内側との差は歴然だ、バンカー内でさえ内周と外周で格差があるというのにここの住人はもっと酷く服はボロボロ、石器時代の縦穴式住居をややマシにしたような家が目立つ。当然、武器も持っていない、敵が来たら逃げ惑うだけ。そんなものがバンカーを中心に半径20km以上。

「現状バンカーは彼ら全員を壁の内側に収める術を持っていないし偉いさんはそもそも彼らを助けようとしていません! 彼らの農産物を買う! 警報が鳴るより早く敵を察して出撃する! 我々ができるのはそこまででございます!」

「なんとかできないんです!?」

「できるよ! 帰ったらクーデターの話をしよう!」

「こらこら! そういうのはもっと人の少ない場所でやりたまえよ!」

 草原を少し走ったところで榴弾砲の牽引車は車列を離れ停止した、エンジンを止めれば急に静かになり、穏やかな風が頬を撫でる。一斉に車から降りた兵士達に紛れて鈴蘭を含む4人も草を踏み、しかし砲を切り離す皆とは別にカメラとレーザー測距儀、それらを取り付ける三脚と、コードの巻かれたドラムを荷台から取った。コード終端部の処理をティーに任せて臨時編成サーティエイトは走り出す、すぐ近くの丘頂上までコードを引いていって、そこで三脚を設置、簡単な観測所を設けた。これらの機材を使って砲本体へ敵の位置を伝える、本体はその情報を元に撃つ。何故そんな事をするかというと最大射程25kmを誇る155mm榴弾砲はデカくて目立つからだ、本体は敵から視認できない位置に隠し、観測機器だけを露出させ、曲射によって攻撃するのである。

「サーティエイトは敵部隊を視認、先遣隊の情報通りな編成に見えます。観測所からの直線距離14250メートル、先遣隊と川ひとつ挟んで撃ち合ってる」

 広大な草原に覆いかぶさった雲の影をいくつか越えた先にそれらは展開していた、ここからでも微かに砲声が聞こえている。双眼鏡を借りて見てみれば伏射姿勢を取る人型ロボットが十数体、そのすぐ背後に鏡餅みたいなのが2体、下半身みたいなのが1体、人型ロボットの前進を支援している。味方は横長に掘った塹壕の中だ、撃破というよりは時間稼ぎを目的とした戦闘を行っているように見える。

『シオン、いやレア……ごめん、現状サーティエイトの指揮権はどっちにある?』

「私は今日は歩でいいわ……」

「やる気ねーですなぁ」

「だって本当なら1日休むつもりだったんだもの!」

 シオンとレア、会話を聞く限り階級はレアの方が上のようだ、が、指揮を執るのはシオンという事になった。200m後方にいるティーへ無線でその旨を伝え、観測機器の設定を進めていく。

『監視塔からの情報だ、前線の奥5キロほどに敵の新兵器っぽいのを視認したらしい、そこから確認できるかい?』

「新兵器ってどんな?」

『大砲背負ったカメ』

「オーケー、探してみます」

 聞かれて、双眼鏡の向きを変えてみる、それっぽいのはすぐに見つかった、林の影、楕円形のボディから斜め上方に向けて砲を掲げる脚の短いカメである。あそこまで短いならキャタピラにした方がいいと思うのだが、どうしても車輪に頼れない理由があるのだろうか。射撃時姿勢制御しやすい、とか。

「2機見つけた、直線距離18980メートル、マークします」

 ともかく撃たれる前に撃つようだ、シオンがレーザー測距儀で距離を測定、メルがカメラを調整して視界内に収めた。角度やら風速やら射撃に必要な情報をすべて収集、送信すれば砲口は自動で持ち上がる。

『効力射、始め!』

 ズドン!と1発目が飛び出した、直後に薬莢が自動排出され、次弾を手動装填、また発射を行う。それを5度ほど繰り返したのち、初弾の着弾を待つ。

「だんちゃーーく!」

「今!」

 寸分違わず命中である、敵は土色の爆煙に覆い隠された。サーティエイトと砲兵の歓声が上がり、かなり遅れて爆音が耳に届く。念のため煙が晴れるまで待って、残骸を確認してから照準を次へ移す。

『よーし、今のはタラスクと命名された。引き続き大物を狙うが別働隊がいる可能性もある、視野はあくまで広く持って……』

「待ってください」

『む?』

 と、いうところで、何かに見られた感覚がした。
 破壊したカメたちよりも奥、地平線の向こうから、

「何か来ます」

 また別の敵が現れる。
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