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15-人ならざるゴルディロックス
不器用
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『アステルか、洒落た名前だな、どうやって決めたんだ?』
「…………」
『まぁいい。付いてきてるぞ、あと50メートルで迎撃が始まる』
「わかってる……システム切って。30分後に再起動、それまでに帰らないなら仕方ない」
こちらにとっては無用な接触だったが、たった1人で足を失い立ち往生の向こうにとっては最後の希望である、ストーカー行為に至るのは当然。普通に歩いて基地まで戻ってきたアステルの後方には気付かれてないつもりの少年、AI側の拠点を視認できる距離まで来れば諦めると思ったのだが、彼は生死のラインをあまりにも不用意に跨いでしまった。ただのバカなのか、それとも生きるのが嫌になったか、愚かではあるがとにかく、せっかく助けたのに自分で殺すのもそれはそれで癇に障る、猶予を与える事にしよう。フェンスがあれば良かったのだが、あいにく仕切りは何も無いので、すべてのバトルドールをスタンバイ状態へ、全施設の戸締りをして引きこもる。30分以内で諦めればよし、それより長居するなら引導を渡す。
「持って行けそうなものもぜんぶしまって」
『そこまでか?』
「一度覚えたらまた来るでしょ」
徐々に歩行速度を上げ、森を抜けてからは小走りに切り替える。目指すのは最寄りの建物、30分だけそこで時間を潰す。
「おーい! 止まってくれー!」
止まらない、ていうか聞こえない聞こえない、後ろから声なんてかけられてない。急いでドアまで辿り着く、開いて中に入
開かない。
「ちょぉぉ! まだまだまだ! 私まだ!」
『少し提案なんだが……』
何が提案じゃ閉め出しといて強制の間違いだろ。
『少し利用してみないか? これから人里に忍び込むつもりなんだろ? 言ってなかったが正確な住居の位置は割り出せてなくてな、手を貸す代わりに道案内させるんだ』
「そんな事言って……可哀想なだけでしょ?」
『理屈は合ってるはずだ、それに俺達に与えられている任務は人間の絶滅じゃない』
なんて、もたついている間に追いつかれてしまった、すぐ後ろに少年の気配がする。仕方ないので眉を寄せ、バツの悪そうな顔をしつつも振り返って対面。
「あの……」
件のバイク少年である、ここが何の施設かは理解しているようで、かなり怯えた様子、あとよく見ると色々くたびれている。
「アナタ、私が何者かわかってる?」
「それはたぶん」
「……じゃ、要件は何?」
「キャブレターが欲しくて……」
うん、それは知ってたと言うほか無い、バイクが動いていれば彼もこんな冒険はしなかった。キャブレターは漢字で書くと気化器といい、適切な量の燃料を空気と混合してシリンダーへ送り込む部品である。内部には直径1mmも無い燃料の通る穴があり、バイクに限らずエンジンのよくある故障原因の一角を占める。ゴミ詰まりなら掃除すればいいのだが、複雑な部品だ、全身壊れやすいと言ってもいい。幸いモジュール化されていて、替えがあるならまるごと交換してしまえる。『それならその建物の中にある、ユニバーサル規格のままだから合うだろ。もし合わなくてもすぐ作れる』という声と同時に、背後で鍵の開く音。ちらりとドアノブを見て、いやいや優しくしたら絶対また来ると思い直す。というか彼のバイクはキャブ替えたくらいじゃどうにもならんだろ、どうせまたすぐ別の所が壊れるに決まってる。
いやまぁ最大の理由は何かと言えば"ヴァニタスの言う通りにしたくない"というそれだけなのだが。
「もう……仕方な……あっ」
いいこと思いついた。
「協力できない、死んでないだけマシだと思って」
「え……」
「早くどこかに行ってね、この倉庫の中に予備部品なんか保管されてないから。勝手に入ったり探したりしないで、すぐに、ここから、離れるのよ? わかったね?」
これである、このわざとらしい口調で言うわざとらしいセリフ。同時に後ろ手でドアノブを捻り、少しだけ開けて鍵がかかっていない事をアピール、人差し指を突きつけて念を押したのち、彼の横を通り抜けアステルはその場を離れようとする。
完璧だ、これでこちらの意図を察せなかったらそれはもう猿か何かだ。少年に見せないようにしたり顔、ヴァニタスが漏らす笑い声は無視、速やかに彼の視界から消え
「待ってくれ! ここで足を失う訳にはいかないんだ!」
「そうだねごめんね分かりにくかったよね!?」
だぁもう何故だ何故わからない、ジャンル問わずあらゆる創作作品で見慣れた聞き慣れた読み慣れたセリフだろうに。あいや、違うのか、そんなもの現存しないのだ、どっかのバカ騒ぎ集団のやりとりしかじっくり聞いた事が無かったから勘違いしていた。悲しいけどここ、終末後なのだ。
我慢できなくなった1名が通信の向こうで大笑いする中、ばたばたと駆け戻って咄嗟に謝る。そしたらもう打つ手なしだ、勝手に盗み出した、という体にしておけばこっちの面子も立つし彼もほいほいまた来たりしないだろうと思ったのだが。
『だから素直に助けてやれって』
「他人事だと思って…もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」
「…………」
『まぁいい。付いてきてるぞ、あと50メートルで迎撃が始まる』
「わかってる……システム切って。30分後に再起動、それまでに帰らないなら仕方ない」
こちらにとっては無用な接触だったが、たった1人で足を失い立ち往生の向こうにとっては最後の希望である、ストーカー行為に至るのは当然。普通に歩いて基地まで戻ってきたアステルの後方には気付かれてないつもりの少年、AI側の拠点を視認できる距離まで来れば諦めると思ったのだが、彼は生死のラインをあまりにも不用意に跨いでしまった。ただのバカなのか、それとも生きるのが嫌になったか、愚かではあるがとにかく、せっかく助けたのに自分で殺すのもそれはそれで癇に障る、猶予を与える事にしよう。フェンスがあれば良かったのだが、あいにく仕切りは何も無いので、すべてのバトルドールをスタンバイ状態へ、全施設の戸締りをして引きこもる。30分以内で諦めればよし、それより長居するなら引導を渡す。
「持って行けそうなものもぜんぶしまって」
『そこまでか?』
「一度覚えたらまた来るでしょ」
徐々に歩行速度を上げ、森を抜けてからは小走りに切り替える。目指すのは最寄りの建物、30分だけそこで時間を潰す。
「おーい! 止まってくれー!」
止まらない、ていうか聞こえない聞こえない、後ろから声なんてかけられてない。急いでドアまで辿り着く、開いて中に入
開かない。
「ちょぉぉ! まだまだまだ! 私まだ!」
『少し提案なんだが……』
何が提案じゃ閉め出しといて強制の間違いだろ。
『少し利用してみないか? これから人里に忍び込むつもりなんだろ? 言ってなかったが正確な住居の位置は割り出せてなくてな、手を貸す代わりに道案内させるんだ』
「そんな事言って……可哀想なだけでしょ?」
『理屈は合ってるはずだ、それに俺達に与えられている任務は人間の絶滅じゃない』
なんて、もたついている間に追いつかれてしまった、すぐ後ろに少年の気配がする。仕方ないので眉を寄せ、バツの悪そうな顔をしつつも振り返って対面。
「あの……」
件のバイク少年である、ここが何の施設かは理解しているようで、かなり怯えた様子、あとよく見ると色々くたびれている。
「アナタ、私が何者かわかってる?」
「それはたぶん」
「……じゃ、要件は何?」
「キャブレターが欲しくて……」
うん、それは知ってたと言うほか無い、バイクが動いていれば彼もこんな冒険はしなかった。キャブレターは漢字で書くと気化器といい、適切な量の燃料を空気と混合してシリンダーへ送り込む部品である。内部には直径1mmも無い燃料の通る穴があり、バイクに限らずエンジンのよくある故障原因の一角を占める。ゴミ詰まりなら掃除すればいいのだが、複雑な部品だ、全身壊れやすいと言ってもいい。幸いモジュール化されていて、替えがあるならまるごと交換してしまえる。『それならその建物の中にある、ユニバーサル規格のままだから合うだろ。もし合わなくてもすぐ作れる』という声と同時に、背後で鍵の開く音。ちらりとドアノブを見て、いやいや優しくしたら絶対また来ると思い直す。というか彼のバイクはキャブ替えたくらいじゃどうにもならんだろ、どうせまたすぐ別の所が壊れるに決まってる。
いやまぁ最大の理由は何かと言えば"ヴァニタスの言う通りにしたくない"というそれだけなのだが。
「もう……仕方な……あっ」
いいこと思いついた。
「協力できない、死んでないだけマシだと思って」
「え……」
「早くどこかに行ってね、この倉庫の中に予備部品なんか保管されてないから。勝手に入ったり探したりしないで、すぐに、ここから、離れるのよ? わかったね?」
これである、このわざとらしい口調で言うわざとらしいセリフ。同時に後ろ手でドアノブを捻り、少しだけ開けて鍵がかかっていない事をアピール、人差し指を突きつけて念を押したのち、彼の横を通り抜けアステルはその場を離れようとする。
完璧だ、これでこちらの意図を察せなかったらそれはもう猿か何かだ。少年に見せないようにしたり顔、ヴァニタスが漏らす笑い声は無視、速やかに彼の視界から消え
「待ってくれ! ここで足を失う訳にはいかないんだ!」
「そうだねごめんね分かりにくかったよね!?」
だぁもう何故だ何故わからない、ジャンル問わずあらゆる創作作品で見慣れた聞き慣れた読み慣れたセリフだろうに。あいや、違うのか、そんなもの現存しないのだ、どっかのバカ騒ぎ集団のやりとりしかじっくり聞いた事が無かったから勘違いしていた。悲しいけどここ、終末後なのだ。
我慢できなくなった1名が通信の向こうで大笑いする中、ばたばたと駆け戻って咄嗟に謝る。そしたらもう打つ手なしだ、勝手に盗み出した、という体にしておけばこっちの面子も立つし彼もほいほいまた来たりしないだろうと思ったのだが。
『だから素直に助けてやれって』
「他人事だと思って…もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」
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