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02 こんにちは、悪役令嬢生活
しおりを挟むウィリアム王子による衝撃的な指名は学園中に広まり、女子達の噂の的は専ら私の事だった。
王子と別行動を取っていたその隙に私は案の定質問攻めにあった。
全くなんて事をしてくれたんでしょうかあの王子様。
ただでさえ家柄のおかげで目立つというのにこれでは余計な取り巻きが増えるというものだ。
とにかく噂というものはたちが悪くて尾ヒレに背ビレがついて事実より凄いことになっていたりするものなのです。
それはもうとっても大惨事な感じに……ふ、ふふふ……
───正直なところ早くも帰りたいです。
まさかこんなに話題になってしまうとは思ってもいなかった、想定外すぎる盛り上がりぶりだ。
このままではいつかヒロインがウィリアム王子を攻略し始めたらせっかく折ったフラグのはずの悪役令嬢に舞い戻ってしまう。
というか順調にその階段を登り始めている気がしてならない。
「流石イリス様ですわね!あのスイートウィリアムで有名なウィリアム殿下に初日からご指名頂くなんて…!」
「そんな…きっと気まぐれですわ」
なんだかご指名だなんて風俗みたいな言い方しないで頂きたい。
私だって出来ることなら他の人を選んで欲しかったと切に思うけれど他の人からすれば他人事、物語を読んでいるのと変わらない気分なのだろう。
つかの間の王子のいない時間は質問攻めによって消え去っていった。
戻ってきた王子はきょとんと私の顔を覗き込んでくるのだけど、そんなに私の顔疲れが出ているかしら。
「だい、じょぶ?」
カタコトながら心配する言葉をかけられたことにちょっとした驚きを感じつつ、心配を解くために笑顔を作った。
「ええ、大丈夫ですわ…ありがとうございます」
「よかっタ」
言葉がカタコトゆえか、同い歳とは思えない子供っぽさをつい感じてしまうけれど顔面偏差値の高さは超一流な訳で…本当に目の毒でしかない。
「殿下は聞きとる分には理解が出来るんですのね?」
「うん」
「それなら、これから校内をご案内いたしますわ」
聞いて理解できるなら話せそうなものだけど案外違うものなのだろうか…。
普段ならば貴重な空き時間をこのような事には費やさない私だけれど、王子に校内の案内もしないなんて外聞も悪いし何より気分も良くないので、校内の施設を説明するべく廊下を歩く。
廊下を歩く女生徒からの羨望と嫉妬の視線がちくちくと刺さって痛いったらない。
曲がり角にさしかかり、次の部屋の案内をしようと次の部屋に思いを馳せていると隣から可愛らしい声が聞こえたような気がした。
「きゃっ……!」
「!」
王子にぶつかり、尻もちをついていたのは───見間違うわけがない、ヒロインであるリナリア・フィオーレその人だった。
そして彼女が尻もちをつくこのシーンに酷く見覚えがあった。
ウィリアム王子にぶつかって彼に手を差し伸べられるスチルイベントが彼の初期イベントで起きる。
そして彼の隣に居る人物がライバルキャラとして立ちはだかったりそうでなかったり……。
────そう、今私はそのライバルキャラたるポジションに現在立っているのです
立っているのです!!!!
「ダイ、じょーぶ?」
「あ……は、はい!大丈夫です!ぶつかってしまって申し訳ありません!お怪我は……?」
「へーき」
スチル通りの眩いまでの笑顔で手を差し伸べる王子にリナリアは頬を染めながら立ち上がらせてもらっていた。
あー、これはルート確定かもしれないなぁ。
順調に悪役令嬢への階段を登っている私は思わず頭を抱えた。
国が滅ぶのは困るけれど私の破滅も回避はしたいところ、だけどキューピッドにはきっと運命的になれない。
八方塞がりな状況にゲームを思い出して楽しもうなんて余裕は一欠片もない。
「ぶつかってしまったのに立ち上がらせても頂いて…本当にありがとうございます…!」
リナリアは人の良さそうな笑顔で勢い良く頭を下げたのだが一瞬彼女と目が合ったような……?
まあきっと気の所為だろうな、目の前の攻略相手で頭はいっぱいだろうし。
────何はともかく悪役令嬢生活、開始のようです。
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