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05 そんな器用な事出来ません
しおりを挟む学校案内からようやく解放され、一日の授業も無事終えた私は寮の自室へ帰ろうと準備を始めていた。
これでやっと王子から解放されるといそいそと準備をしている私に私専属のメイドであるナズナが声を掛けてきた。
「お嬢様、副担任のエレン様がお呼びしておりましたので寮に戻られる前に職員室へお願い致します。」
「なんでまたピンポイントでエレン先生なのか……」
「……?」
「なんでもないわ、呼んでいるのなら向かいましょう」
副担任のエレン・ギウムは新任教師でありながら『七色の花姫』の攻略キャラクターである。
所謂大人の余裕や禁断の恋的な位置付けで攻略キャラの中では最年長。
過去に双子の妹のエリンを愛してしまっていたのだが兄妹だからと突き放され、拒絶されてしまう。
それ以降、恋愛に臆病となり本気で誰かを愛せないでいるキャラなのだがヒロインに出会うことでそれが変えられていくという王道も王道な教師と生徒の話なのだ。
中世風な設定の割にそこは学園ドラマみたいなストーリーも出しちゃうのね……公式……。
職員室に着くとしっかりと三回ノックをした後に中へ入る。
何故だかガラリとした職員室に一人ぽつんと座っているエレンだけがそこに居た。
「お呼びでしょうか、エレン先生」
「…………エリ……っ!あ、ああ。イリス嬢、お待ちしておりましたよ」
今、エリンと言おうとしていなかったですか先生……。
スチルで出てくるエリンは先生とよく似ていて私にはちっとも似ていないと思うのだけど。
でも確かエレンルートでイリスがライバルキャラとして立ちはだかる際には、エレンの心の弱みでもあるエリンの記憶を巧みに使ってエリンに成り代わり、エリスとなって依存される様に仕向けるんだったっけな。
エレンルートのイリスの悪役令嬢ぶりは陰湿過ぎて流石の私も彼女が断罪されてもあまりスッキリさえしないくらいだった。
──だからというのもあるけれど、先生には近付かなかったのに…。
呼ばれてしまえば行くしかなくなってしまうじゃないか。
「わざわざ人払いまでして二人っきりで一体何をお話されるんですの?」
まあ正確には、ナズナも傍に控えているから二人っきりではないのだけれど従者は会話には含まれない。
「大したことではないんですが、今日一日ウィリアム殿下と過ごされてどうだったかと思いましてね」
「殿下の話している言葉を私は全くわかりませんが、殿下は私の話していることを理解出来ているご様子でしたわね。」
なんだかスパイの報告みたいな会話だけど多分私の行動一つで国交に関わるから心配なのね。
私だって国には滅びて欲しくはないから変な事はしませんよ。
「そうですか……イリス様、貴女にこのような事を頼める立場ではない事は重々承知の上でお願いします。」
「なんですの?」
「今後、毎日放課後にここでその日のウィリアム殿下の動向を報告して頂きたいのです」
「………………はい??」
スパイみたいな会話だなぁとは言ったけれど本当にスパイなんてやりたい訳が無い。
それに私にそんな二足わらじのような所業できっこない。
私はそんなに器用じゃないんですが!!
絶対どこかでボロが出て断罪されて私も国も破滅の道を辿ってしまうのでは……!?
エレンは困った様に笑うとすみません、と謝る。
「そうではないんです。難しく考えないで下さい、単純に今日はこうだったとかこんな事を殿下が覚えたとかそんな事でいいのです。要は学びの進捗ですね」
仕事風に言えば日報的な……?
それならばビクビクする必要もなさそうかしら……?
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