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21 懐かしい気分です
しおりを挟む下町の収穫祭に参加すると突然言い出したブランシュ王子によって私はどこぞの商家の娘のような格好に着替えて、宣言通りに下町に来ていました。
収穫祭、と祭りを冠しているだけあってリズムの良い音楽がどこからともなく流れていて、奏でている人の周りにはリズムに乗って踊る人達やそれを見物する人達で人だかりができていた。
縁日のような祭りに来たのは転生してから初めてなのもあり、私は気分が上がっていた。
「凄い活気……!!貴族社会ではこんな光景絶対に見られませんわ…!」
「貴族連中がやり始めたらそれはそれで怖いがなぁ」
「でもやっぱりたまには貴族であろうと関係無くはしゃぐのも良いと思いますわ」
公爵令嬢が言うことではないだろうけれどたまにはそうやって楽しまなければ心が死んでしまう。
息苦しいだけの人生なんて楽しくはないのだから。
「……変わっているな、流石は聖女なんて呼ばれるだけあるという事かね」
「確かにこの考え方は公爵令嬢らしからぬ考えですわよね」
祭りの雰囲気に流され、つい笑顔が零れる私は確かに貴族にしては異質な存在だとは思う。
だって前世が一般市民だったものだから前世を思い出した今、根っからの上流階級の人間とは嗜好が違うのだ。
「兄さーん?兄さん……どこぉ……」
祭りの喧騒の中、小さな少女の泣きそうな声が聞こえてくる。
祭りあるあるというか定番というか…兄とはぐれてしまったようだ。
どこにいるのかと辺りを見回しているとお尻のあたりにぽすんと何かがぶつかってきた。
「……!っ、ごごごめんなさい!」
小さな鈴のような声を震わせて大きな瑠璃色の瞳には朝露のような涙を溜めていた。
私の腰にぶつかってきたのは兄を探す声の主で間違いないのだろう、水色と白のセーラー服のような格好をした全身白を思わせる小さな女の子だった。
「大丈夫よ、そんな顔してどうしたの?」
「……兄さんやみんなとはぐれてしまって…外国だから心細くてぇ……」
「外国から来ていたのね…それは大変だわ…私も一緒に探してあげる!」
外国から来たのだという少女は『兄さん』という以外にも『みんな』と言っていた、という事は他にも一緒にいた人間がいるということになる。
ならばこの子を探している可能性もかなり高くなるしすぐに見つかることだろう。
……それにしてもこの子は外国人なのに言葉が通じているわ…?
語圏が同じ国なんてあっただろうかと記憶の海を探ってみる。
あー、確か友好国は同じ言葉だったような気がしないでもないような……。
「あなたはどこから来たの?」
「えっと……ラ・レーヌから…です…」
ラ・レーヌといえば、我がオルドローズ王国とはルーツを同じくしていて昔からの友好国だ。
正式名称はラ・レーヌ・ヴィクトリア王国、魔力を持つ人間がしばしばおり、国民は旅人が多い。
そのためにラ・レーヌはベッドタウンと化していて、国力が下がりがちなのが慢性的な問題なのだが同じルーツを持つ友好国ということで我が国が支援して国が成り立っている。
ラ・レーヌはその希少な魔力持ちの人間から魔法技術を返す形で友好貿易を続けているのだ。
同じルーツ故か、言語は我が国のものと同じなため言葉が通じるのは納得だ。
「そう……ラ・レーヌから……大変だったわね…」
「兄さんはわたしの目と同じ色の髪で……身長はあのお兄さんと同じくらい…です…あとうるさいサイドテールの女の人も私を探しているかもしれません……」
うるうるとしているのは変わらないのにやけに後半饒舌だったわね……?
視線を合わせるためにしゃがんでいた私は立ち上がり、少女が指していた『お兄さん』の方を見るとそこにはブランシュ王子がそこに居た。
あ、すっかり二人のことを忘れてこの女の子と話して探してあげるなんて言ったけど二人になんて言おうかしら……
「あ……その……置いてけぼりでしたけどこの子の保護者探し…手伝って頂けたり……」
「まあ、いいんじゃないか?俺達は『そこらの商家の息子、娘』なんだからな」
悪戯顔のブランシュ王子が二つ返事レベルで即答するものだから流石の私もきょとんとしてしまう。
もっと何か言われるものかと思ったのだけど……。
「そ、そうでしたわね…」
「嬢ちゃん、名前はなんて言うんだ?」
「ニル……ニルヴァ・スノーフレーク……です……」
「ニルか、いい名前だな。俺も一緒に探してやるよ!」
なんとも優しい王子様らしい、突然の迷子にも文句一つ言わないなんて……貴族とかなら自分には関係ないと一蹴されてしまうところだ。
……それにしても迷子の親探しってなんか懐かしいですね。
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