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26 探偵ごっこは苦手分野です

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リナリアいじめの事実が浮上しつつある今日この頃、私はまたも頭を抱えていた。
なんたってこのいじめの犯人、中々に狡猾で、証拠や現場をとにかく押さえられないのだ。
リナリアからの証言は取れないに等しい、前世でも隠蔽されたいじめを当事者以外が探っても犯人を見つけられなかった理由が今ようやく分かったような気がする。

「うーん……シナリオではイリスの取り巻きだったけど私はそういうの作らないようにしてたから目立ってそういうのはないし……だとしたら一体誰が……」


なんだって劇中の取り巻き達は顔は出てこないので顔で特定も出来ない。
それにリナリアに取り巻きを差し向けていたのはイリスだった訳だけど私は何もしていない、そうじゃなくなると一体誰が取りまとめているの……?

「お嬢様……先程から難しいお顔をされておりますが、少しお休みになられては…?」

「え、ええ……そうね……」

悶々と考えて頭を抱える私を見かねてか、ナズナはそっと紅茶を出しながら気遣わしげに私を覗き込んだ。
私にとっては死活問題だけれど傍から見れば何をそんなにあの男爵令嬢如きに頭を抱えているのだと思われるようなことでもあるので他の人に相談するわけにもいかない。

これはお手上げだ……。

何をするにも情報が少なくて全くどこから着手したものか困ってしまう。
リナリアを尾行してみてはどうかと実践してみても、何故かリナリアは忽然と姿を消すし、肝心の相手も現れない。
私の尾行が余程下手なのか、相手が予測不可能な動きをしているのかは定かではないけれどとにかく失敗だった。

「何かお悩みですか?イリス様」

「……フォセカ様。」

「俺でよければ相談に乗りますよ!」

さあ是非!と息巻くディモルは私のお悩み相談を受ける気満々の様子だ。
ああでも、リナリアと幼馴染であるディモルならば何かリナリアの異変にも気付いているのではないだろうか。
私はおずおずとディモルを見ると、それとなく聞いてみることにした。

「あの……その後、幼馴染のご令嬢の方はお元気ですか…?」

「え、」

私のリナリアとの直接的な面識は、パーティーでのハイドの挨拶とあの空き教室での一件以来全くないのでディモルの前では会っていない。
名前を出すのは不自然かと思い、そうやって聞けばディモルはきょとんと固まってしまった。

……やっぱりこじつけ感凄かったかしら。

しばらくフリーズしていたディモルだったがやがて戻ってくると、眉を寄せて呆れたような困ったような表情を返してきた。

「……あいつ、イリス様に何かしちゃいましたか…?」

「いいえ!そうではありませんわ!……ただ、パーティーの後調子はいかがかしらと気になっただけですの」

「イリス様がそう仰るなら良いですが…最近のあいつ、妙なんですよ。具体的にはなんて言ったらいいか分からないんですがなんというか、何を考えているのか分からない。」

おおっと、普通に調子はどうだと聞いただけなのに爆弾情報が投下された。
やはりリナリアの挙動はおかしいのだと、他人目で見てもそう見えているらしい。
でもだとするのなら私が躍起になってリナリアのいじめを止めるのに急くことはないのかもしれないな。

「挙動がおかしいと言えば……生徒会の人間の一人が妙な動きをしていると……聞きましたねぇ…」

オドオドと落ち着きのない声が会話に入ってきたと思ったら、出会った時と変わらない気の小さい態度で現れたのはアルベリックさんだった。

「生徒会……?」

そう言えば考えたこともなかった。

まるで幽霊のような表れ方ではあったけれど何か革新的な意見を聞けたと思う。
話が変わってしまっていたけれどこれは新たな手掛かりとなりそうだ。


まずは生徒会室へ調査へ向かう必要がありそうね……


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