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とある弟の話 2

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「…………全く意味が分かりませんわ……」

頭を抱えたミルトは大きくため息をついた。
それは全くボクも同じで何度説明されても意味が分からないと言いきれるだろう。
何故二度にわたり生徒が連れ去られるのだ、こんなに短期間であまりにも無防備過ぎやしないか?

「それに肝心なところは『分からない』ですもの……探しようがありませんわ……」

探そうにもなんのヒントもなしで闇雲に探しても見つからないだろう。
場に居る全員が重い表情で悩むしかない状況に歯痒さは募った。

「そういう時こそ生徒会の出番ではないでしょうか……?」

「……!アルベリック様!」

いつの間にか現れたのかオドオドとした頼りなさそうな白い男子生徒を見たミルトは彼をそう呼んだ。
名前くらいはボクも聞いたことがある。第一王子の敏腕側近候補とも言われたアルベリック・バルビエ、しかしその実態を知る者は数少ないとも。

「ミルト嬢はむしろそれで来たのでは……?」

「……まさか、我が愚兄が何かしでかして…?」

「断言は出来ません……しかしタイミングがあまりに良すぎる」

落ち着きのない態度の割に言葉の端には確かな気迫を感じ取れる。
彼はきっと只者ではない、漠然とそう思わされる人だと思う。

「リナリア嬢を攫った犯人の手掛かりはワスレナグサのネクタイの男子生徒、此度の問題のミルト嬢の兄君は……」

「…………確かに兄の学年花はワスレナグサ……信じたくはありませんが関与がないとは言えなさそうですわ……」

彼はミルトの兄を疑うというのだろうか、彼は優等生が取り柄と言ってもいいくらい素行には気を使っている人なはずだ、にわかには彼の変貌とやらもボクにはまだ信じられない。

「ですが愚兄とはいえ……兄は……」

「彼の話を聞いているのなら彼がおかしい事も分かっているはずです……たとえ関わっていても彼の本意ではないでしょう……」

申し訳なさそうではあるもののそれは断定と言ってもいい程の言葉だった。
確かめてみる他に言い返すことも出来ないミルトは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
それもその筈だ、仮に本当に関わっていれば本意でないにしろ彼の立場が悪くなるのだから。

「なら彼を探せば分かることでしょう、彼が練習から抜けていれば可能性は高まる」

ウィリアム王子はそう言って立ち上がるとアルベリックさんを見た。
目が合った彼は目を細めて薄く笑う。それが何故かボクは少し怖かった。

「ここからは手分けをしよう、大人数で動いても仕方ない」

ハイドはそう言うとボク達を見回して分け方を考えているようだ。
同感ではあるけれど手分けして見つかるのだろうか。

「とりあえず渦中のミルト嬢達、僕と王子、アルベリックさん?は彼女の兄君を探そう。先生とディム、ムーラン、リナリア嬢は教室を回って探してもらえないかな?」

「渦中ってならリナリアもじゃないのか?って言うかなんでちゃっかり自分はそっちなんだよ?」

不服そうなディモルは彼の分け方に異議を申し立てていた。
ハイドはしれっとしながらもリナリアと呼ばれた女子生徒を見やる。

「彼女の精神状態もいい状態じゃない、それに彼女も一応被害者だ。無理に首を突っ込むべきじゃない」

厳しい言葉ではあるものの彼なりに気遣っているのかもしれない、女性に甘いハイドがここまで冷たいのも珍しいとは思うけれど。

「わ、私も……!イリス様を探します…!!大人しくしているなんて……っ」

今にも泣きだしそうな彼女は確かに正常な精神状態とは言えないだろう、考えが絡まって仕方ないという顔だ。

「リナリア嬢、なにも探すなとは言ってない。手分けをしようと言ったんだよ……ディム、彼女を頼んだ」

上手いこと言いくるめたようなハイドは彼女に背を向けた。
話をここで切りあげるのだろう、随分強引ではあるけれどまだよく知らない彼女のためにはなるのだろうなと思うことにした。

「行きましょうか、まずは教室ですかねぇ……」

アルベリックさんの一声でボク達は歩き出した。


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