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36 もしかしなくてもこれは
しおりを挟む「貴方は……三学年の方ですわね、お褒めに預かり光栄でございます」
誰かは分からないにしろとりあえず挨拶をとそう言えば、相手の男子生徒はきょとんと瞠目すると苦笑した。
「ああ、そっか。初めて会った時は顔見えてなかったから分からないかな」
その声色は、先日どこかで聞いたような気がした。
そう、あれは確か死屍累々の生徒会室で……。
「もしかして……生徒会メンバーの方…でしょうか……?」
「そう!ご名答、よく分かったね。あの時は声だけでごめんね~生徒会会計のローダンセ・マングルスだよ、よろしく」
あの時やたら手が出て来ていた人だろうか、マングルス家と言えば現当主が国財の要とも言われる徴税大臣で、国の財布の紐を握るとされる実力者だ。
そのご子息が国の縮図とも言われる学園の生徒会会計だなんて将来有望な上にこの国は安泰だなぁ……。
まあ目下の問題である爆弾は未だに抱えたままなのだけど。
「でも驚いたな、主役はてっきりイリス嬢かと思っていたんだけど」
なんでみな口を揃えて私を主役にしたがるんだ、ヒロインであるリナリアがいるというのに今の彼女の存在感がどこか希薄なのだ。
「そんな…私は主役という程美しくはありませんもの」
「またまた、学園の聖女様たる貴女なら満場一致だろうに」
純粋に私の立ち位置は悪役令嬢なのであって決してヒロインではない、主役を痛めつけて虐めるタチの悪い悪役に過ぎない。
もちろんその後に待っている破滅が嫌で私はその役割を踏み倒して、破滅から逃げ回っているのだけど。
それにしても何故ウィリアム王子のルートに入る挙動を見せておきながらなんのアクションもないのだろう。
やはり先の誘拐事件のせいでおかしくなっているのかしら……?
「そのようなことはありませんわ、買い被りすぎでしてよ」
そう言う傍ら、リナリアに目を向けると彼女に話しかけていたのは見覚えのない男子生徒だった。
オレンジ色の鮮やかな髪、整った容姿はそこらの関わりのないモブにしては些か違和感があった。
なんだろう、なんとも言えないこの違和感と嫌な予感は。
私の知る『七色の花姫』には彼のようなキャラクターは出てこないし、見たことも無い。
でも、もしかしたらという予感だけが脳裏を掠める。
たとえその予感が合っていたとして、私はその対策を知らないし、結末を知らない。
どうすることも出来やしない、それどころか私に影響があるかすら私には分からないことなのだから。
「……?どうかしたの、突然そっぽ向いて固まっちゃって……」
私の様子がおかしい事に気付いたローダンセは、私の視線を辿りリナリアと男子生徒を見ると首を傾げた。
「あれは……二年のクリビア・ガーデニーだったっけ、なんでこんな所に……」
誰なのだろうと眺めていたらローダンセがそう呼ぶのが聞こえた。
クリビア……やっぱり聞いたことないなぁ、それも二年生がリナリアに一体なんの用なのだろうか。
……まあ、ここに三年生も一人いるんだけど。
リナリアと楽しそうに話すその姿はまるでスチル画像のようであまりにも通常よりも輝いている。
──これは……クロですね!!?
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