転生令嬢はキューピッドになりたい!?

市瀬 夜都

文字の大きさ
8 / 13

06 心の準備も必要です

しおりを挟む


****




男は急いていた。




あの日誓った言葉を守るために。





「この計画が実行されてしまえば、かならずあの子はアイツの元に連れていかれる…それだけは防がなければ」

何を企んでこの計画が立てられたのかは知れぬがその前に何としてでも、この計画を逆手にとってもこのシナリオは変えなければならない。
ギラギラと心底でうるさくそそのかしてくる金色の影の言葉から耳を塞ぎながら男は必死に正気を保とうとしていた。

それが本当に正気なのかさえも、もう男には分からない。



遠く、遠くの景色。



もうぼやけて影に飲み込まれかけているその面影をいつまで覚えていられるのだろう。



あの日起きた事だけは忘れる事すら出来やしないのに。



金色の嘲笑う影は今にも全て飲み込もうとしている。




『キミのその五文字も綺麗に飲み込んであげる。だから早くここまでおいでよ』



「……聞こえないな。」



自分が自分という存在である証明、そのたった五文字の名でさえやつは飲み込もうというのだ。


遠からず自分はその金色の影に塗り潰されてそいつの影に成り代わってしまうのだろうと直感的に感じている。


そんな日が訪れる前に影を塗り潰さなければきっと自分は消えてなくなる。



「…………少しだけ怖い、のか」






そんな不安からなのか、ただ現状になのか───









──────男は急いていた。












*****





とうとうこの日がやって来てしまいました。



どうも皆様。私、ラブラ・ドル・ライトは本日十五歳の誕生日を迎えました。



ええ、迎えてしまいました。



「いやぁ……ここまで早くないですか神様……」

言ってしまえばまだ魔法学院入学こそ来年ではあるが、本日の誕生日をもって私は社交界デビューなのだ。
つまりは舞踏会などにも出なくてはいけなくなっていく訳で。
胃を痛めつけるイベントが今後盛りだくさんという訳である。

本当に今までどうやってお茶会を当たり障り無くやり過ごしていたのか不思議で仕方ないよ全く……。

「お嬢様、始まる前から疲れ切ったお顔をなさらないで下さいませ。晴れ舞台はこれからですよ」

「無理よハウ。私は毎度の事ながら始まる前はこうなのよ、諦めて」

いざ始まってしまえばなんだかんだで最後は楽しめていたりするのだけど始まる前の準備段階ではいっそ生まれ直したいレベルで胃を痛める。

─────ああ、穴があったらめり込みたい。

今日の舞踏会では初お披露目のドレスを新調したとかで着替えを担当している使用人のミルキーが嬉しそうにはしゃいでいる。

「お嬢様は何をお召しになっても素敵なので選びがいがありましたぁ~~!!やっぱりとてもお似合いです!」

「そ、そう……いつもありがとうミルキー」

「ミルキーはお嬢様が笑顔でいて下さるだけで幸せですっ…!お嬢様、今日の晴れ舞台楽しんで下さいませ!」

渾身のドレスですから皆様放っておきませんねぇ!バッチリですよ!!とガッツポーズで無邪気に笑うミルキーに釣られて笑う。
私も彼女の様に今日の舞踏会という名の誕生会を楽しみに出来たらどんなにいい事か……。

「お嬢様、少しリラックスをされてはいかがですか。表情が石のようです」

「ハウ……舞踏会…欠席なんて出来ないよね……」

「誕生パーティに主役が居ないのでは意味がありません。往生際が悪うございますよ」

「デスヨネ……」

鏡に映る私の顔は酷くげっそりしている。
うっわひっどい、こんなんで人前出たら幽霊扱い受けるよ怖い。
でもラチア様やヘリオとのお茶会の直前よりはほんの少しだけ気持ちは軽かった。
いや、緊張するものは緊張するんだけれどなんというかシュミレーション出来るから少しだけ怖くない。

───そうだ、私は案外本番は出来る子さ!!

「そうですね、お嬢様は本番は強くていらっしゃいますから今回も何とかなりますよ」

「うんうん、暗示でもかけないとやってられな……って今、口に出ててた…?」

「バッチリと」

「わぁ……」

もう恥ずかしいんだか頭抱えたいんだか分からなくなってきましたよ。
私達の沈黙を破るようにくすくすとミルキーは笑い始めた。
どこが面白いのか全く理解ができず、彼女を見ると笑いすぎて涙が出たのか目元を人差し指で拭いながら口を開いた。

「ほんとうに……お嬢様は元気と言いますか…明るくなられましたねぇ…ミルキーは嬉しいです…!!」

「うーん…そんなにかなぁ?」

「そんなにですよぅ!」

「ミルキー。」

「う…すみません、お嬢様!着替えも終わったのでミルキーは会場準備のお手伝いに行かなくては!」

「え、うん。いってらっしゃい」

ハウがやや強めの声でミルキーの名前を呼んだ途端、ミルキーは血相を変えて脱兎のごとく行ってしまった。
何かよくわからないけれどハウとミルキーの仲が悪いって訳ではないのよね…?

「全く……。お嬢様、御髪は結いますか?」

「うーん……そうね、お願い。」

ハウに頼むと全部を纏め上げるわけではないらしく、ハーフアップにして髪を結った。
ドレスの雰囲気によく合ったリボンもあつらえていたようだ。

「よくお似合いです。」

「ありがとう。……ねぇ、ハウは…ううん。やっぱりなんでもないわ」

きっとこれは聞くべきではないと出かけた言葉を飲み込んだ。
だって、『ハウは一体何を隠しているの?』なんて聞いた日にはこの心地の良い関係が崩れてしまうだろうから。

「左様で…ございますか……」

「ラーブーラーちゃーん!!」

ソプラノの声の後、ドタバタと音を立てながら突進するように部屋へ入り私を薙ぎ倒す勢いで抱き着いてきた人物の長く鮮やかな臙脂色の髪が私にかかる。

「ユーディア様、先程セットしたばかりですので激しいスキンシップはお控え願います」

「いいじゃない、可愛い妹の誕生日なんですもの!はしゃがずにはいられないわ!」

「うっ……ユーディア姉様…抱き着き方が強すぎ……しぬぅ……」

ぎゅうぎゅうとユーディア姉様の胸元に締め付けられた私は思わず意識を飛ばしそうになる。
意識を飛ばしそうになるとは言い過ぎかもしれないが、それだけの衝撃はあったと思う。
そんな私にハウはたしなめるように私の心配ではなくセットを崩すなと姉様に言った。
セット大変だったもんねー、うんうん。
ではなく!主人の心配をしてはいかがだろうか!!
姉様専属のメイドは申し訳なさそうに私とハウを見てペコペコと頭を下げてなんとか姉様を止めようとしてくれていた。
彼女が天使に見えてきたわ……私の専属メイドたるハウとは大違いだ…。

「ね、姉様……嬉しいのは分かったからとりあえずその手離そう…?」

「ぺクト兄様の分までお祝いしちゃうんだから~!!兄様ってば面と向かって甘やかしてあげれない照れ屋さんだからねぇ…ふふっ」

確かにぺクト兄様は私にはあまり優しくはない。
歳が離れているのも理由の一つなのだろうけれど、兄様と歳が近いユーディア姉様との会話に比べ私との会話の時は少々冷たい印象を覚える雰囲気を纏っている。
けれど嫌っているという訳では無いらしく、きちんと気遣ってくれたり心配してくれたりと優しい一面もちゃんとある。
要するに姉様が言う通り、歳の離れた妹にどう接したらいいか分からない、思春期の娘を持ったお父さんよろしくな照れ屋?なのだ。


それはまあ分かっているのだけど─────


「ユーディア姉様…!!とりあえず離して~~!!!」



晴れ舞台を前に姉様は私を殺す気でしょうか…


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

処理中です...